既存の経済・社会の仕組みやルールでは達成できない「インパクト」を創出すべく、スタートアップを立ち上げ、課題解決に挑む挑戦者と、彼らと伴走し続けるベンチャーキャピタリストの対談シリーズ「8 Answers」。起業家が社会に残そうとしている価値や情熱を伝えるシリーズ。
日本の産業界において、研究者が起業し、自らの技術を社会に実装するケースが増えている。しかし、研究者がスタートアップを立ち上げ、ビジネスとして成功させるためには、どのような壁があり、それをどう乗り越えればよいのか。本対談では、産業用熱エネルギーの脱炭素化に挑むBlossom Energyの代表取締役CEO、濱本真平氏と、その挑戦を支えるインキュベイトファンド 本間真彦氏が、研究者の起業に必要な視点、技術とビジネスの橋渡しのあり方について語る。研究者が起業を決断した背景、そして、持続可能なエネルギー技術の未来とは何か。
【プロフィール】
濱本 真平(株式会社Blossom Energy 代表取締役CEO)
筑波大学大学院で博士号取得。日本原子力研究所、日本原子力研究開発機構で高温ガス炉の研究に従事。福島第一原発事故後は原子力規制庁で2年間、規制行政のスタートアップを支援。原子力機構に戻り高温ガス炉の許認可取得と再稼働の他、国際共同試験プロジェクトを担当。2022年4月に株式会社Blossom Energyを創業。
本間真彦 氏(インキュベイトファンド 代表パートナー)
慶應義塾大学卒業後、ジャフコの海外投資部門にて、シリコンバレーやイスラエルのIT企業への投資、JV設立、日本進出業務を行う。アクセンチュアのコーポレートデベロップメント及びベンチャーキャピタル部門に勤務。その後、三菱商事傘下のワークスキャピタルにてMonotaRO社等、創業投資からIPOを経験。2007年にベンチャーキャピタリストとして独立。ネット事業の創業投資に特化したファンド、コアピープルパートナーズを設立。10倍のファンドリターンを出す。2010年にインキュベイトファンド設立、代表パートナー就任。国内投資に加えて、シリコンバレー、インド、及び東南アジアの海外ファンドの統括も行う。
研究者から起業家へ──濱本真平氏の転機
── 自己紹介をお願いします。
濱本真平(以下、濱本): 私は20年、高温ガス炉の研究者としてキャリアを積んできました。ずっと研究の世界に身を置いてきましたが、あるとき「このままでいいのか?」という疑問が湧いたんです。それが2011年の原発事故でした。研究者として新しい知見を見つけることに喜びを感じていたのですが、原発事故を機に、「自分はただ子供のように新しい知識を見つけて喜んでいるだけではないか?」と考えさせられました。
── 原発事故が転機になり、起業の決意につながったのですね。
濱本: そうですね。ただ、すぐに「起業しよう」と決断したわけではありません。当時はまだ社会が大混乱していました。私は研究者という立場で問題解決に取り組んでおり、会議室で政府や企業、研究者が意見を交わす場に何度も立ち会いましたが、そこでは反対派と慎重派の人たちが対峙し、激しい議論が繰り広げられていました。
しかし、2014年から2015年にかけて社会が少し落ち着きを見せ始めたときに、「このままで本当にいいのか?」という考えが再び強くなりました。研究者として、そして自分自身として”どのような価値を創出し、訴えたいのか”を考えていく必要があるのではないかと思いました。その過程で、高温ガス炉を社会実装させて、革新的かつ安全な原子力システムの開発に取り組むために、2022年に起業を決意しました。

濱本 真平氏(株式会社Blossom Energy 代表取締役CEO)
──研究者が起業することは、日本では珍しいケースですよね。それでも、起業には大きなハードルがありますよね。具体的にはどのような準備をされたのでしょう?
濱本
幸い、友人がスタートアップで働いており、その経験を聞く機会がありました。また、博士課程でアントレプレナーシップに関する講義を受け、起業に対する理解を深めました。さらに、東京大学 FoundX ディレクターとして、スタートアップ支援とアントレプレナーシップ教育に従事されている馬田隆明さんの著書や資料を参考にしながら、スタートアップの基本を学びました。
本間真彦(以下、本間):インキュベイトファンドの本間です。私は幅広い分野に投資を行っていますが、中でも脱炭素やエネルギー問題は、日本にとって非常に重要なテーマだと考えています。
これまで、ITの進化による分散化や小型化の流れを見てきましたが、エネルギー分野も同じ方向に進むのではと考えていました。そうした中、原子力の小型化に関心を持ち、スタートアップや研究者をリサーチしていた際に、濱本さんのインタビュー記事を目にしました。すぐに興味を持ち、直接お会いしたのが最初のきっかけです。
研究者が起業するケースは日本ではまだ少なく、特に濱本さんのように第一線で活躍していた方がスタートアップに挑戦する例はほとんどありませんでした。当時はまだ資金調達の段階ではなかったものの、議論を重ねる中で方向性が固まり、1年半前から本格的にサポートすることになりました。

本間真彦 氏(インキュベイトファンド 代表パートナー)
事業戦略の構築──蓄熱と原子炉のビジョン
── 実際にどのように事業戦略を一緒に検討を重ねたのでしょうか?。
本間
エネルギー業界のメインストリームからスタートアップを起業することは、決して簡単ではありません。30年、50年のスパンで見なければならないプロジェクトを、売上ゼロの状態からどのように立ち上げるかという課題がありました。
その中で、最初に出てきたアイデアは小型の原子炉でした。でも、これを日本で実現するのは理想論に近く、アメリカですら確証がない。そこで、エネルギーの分散化というセオリーを踏まえて、もう1つのアイデアとして濱本さんが提示したのが「蓄熱」でした。再生可能エネルギーの発電と蓄熱の両方ができれば、大きなソリューションになる。特に、濱本さんが持っているグラファイトの技術を活用すれば、実現可能性が高まると考えました。電気を熱として貯蔵し、再エネを最大限活用するという考え方は非常に先進的で、当面はこの蓄熱技術を軸に進めながら、中長期的には小型原子炉も視野に入れるという方針が見えてきました。
── 蓄熱から小型原子炉へという中長期のビジョンを、本間さんとすり合わせながら事業戦略を練られていたんですね。
濱本
そうですね。この2つの事業を両立させるために組織として必要なことなどを、本間さんと議論を重ねながら具体化していきました。

熱エネルギー貯蔵技術の1つの応用例である蓄熱式ボイラコンセプトモデルを2024年7月に発表
(写真提供: Patcharaporn Komolpis)
政治リスクとどう向き合うか
── 最近では、第二次トランプ政権が復活しましたが、原子力やエネルギー業界へはどのような影響があると考えていますか?
濱本
2025年の政権交代により、米国では国際的な気候変動対策から距離を置く動きが出始めています。これは、持続可能な社会の構築にとって逆風となります。「悪貨は良貨を駆逐する」ということわざがありますが、悪貨に良貨を駆逐されてたまるか、という気持ちでやるしかないと思っています。現在の政治的動きはリスクとして認識すべきですが、我々科学者が起業する意味は、テクノロジーそのものでリスクを乗り越えていくことにあると思います。
一つの技術は再生可能エネルギーを拡大する可能性を持ち、もう一つは原子力による大幅な脱炭素化を実現する可能性を持っています。特に海水には低濃度ではありますが膨大な量のウランが溶けています。これを活用すれば、長期的に持続可能なエネルギー供給が可能になります。この二つの技術を柱とすることで、政治の影響を受けずにエネルギーの未来を切り拓いていきたいと考えています。
本間
その通りですね。政治の流れは変わるものですが、技術は一度確立されると、社会に与える影響は数十年、数百年続きます。だからこそ、短期的な政策変更に左右されず、社会にとって必要な技術を実装していくことが、研究者・起業家の役割だと思います。

ここから始まるBlossom Enegyのチーム戦に必要な人材
── 組織としてチームメンバーを探している最中です。Blossom Energyとして、どのような人材を求めていますか?
濱本
私たちが求めているのは、「大人になりたい子供」です。好奇心旺盛で、新しいことに挑戦する意欲を持ちながらも、現実を見据えて冷静に行動できる人を求めています。
スタートアップの世界は、自由な発想と大胆な実行力が求められます。しかし、エネルギー業界のような重厚な分野では、ただ夢を語るだけでは通用しません。企業や行政と協力しながら、長期的な視点で事業を推進していくためには、プロジェクトを遂行する責任感とさまざまなステークホルダーをまとめ上げるバランス感覚が必要です。
「社会を変えるプロジェクトに本気で取り組みたい」という方には、ぜひ加わってほしいですね。
本間
スタートアップは、一人のリーダーが全てを担うものではなく、チームとして動くことが重要です。特にBlossom Energyのような技術系スタートアップでは、研究開発とビジネスの両方を理解できる人材が不可欠です。
研究者のようなアカデミックなバックグラウンドを持ちつつ、実装や事業化に関心がある人。あるいは、スタートアップ経験者で、エネルギー分野に挑戦してみたいと考えている人。そういった方々が加わることで、Blossom Energyはより強い組織になると思います。
濱本
アカデミアでは「Publish or Perish(論文を書くか滅びるか)」という研究者の心構えが価値観が根付いていました。しかし、多様で先進的な研究所として知られているMIT メディアラボの初代所長であるNicholas Negroponte氏は研究者に向けた心構えを「Demo or Die(デモを作らなければ意味がない)」と言葉で推奨し、その後、伊藤穰一氏により「Deploy or Die(社会実装しなければ生き残れない)」という概念に進化してきました。つまり、単に研究成果を出すだけでなく、それを実際に多くの方々に届けるためにも社会に適用しなければ意味がないという価値観が研究者に定着し始めています。
日本の研究者の多くは、今だに論文を発表し、特許を取得した時点で満足してしまいがちですが、それだけでは社会にインパクトを与えることはできません。より多くの研究者に研究の成果を実際に世の中で活用し、価値を生み出すことが求められている中で一緒に挑戦をしてくれる方々を求めています。

Blossom Energy社が開発を進めるクラスタ型高温ガス炉の概念説明図
次の20万年を想像して事業をデザインする
── 最後に、今後の展望について教えてください。
濱本
私たちは「次の20万年のエネルギーをデザインする」ことを見据えて事業を考えています。
人類の歴史を振り返ると、ホモ・サピエンスとして約20万年の歴史があります。その中で、『持続可能性』という言葉がよく使われますが、多くの場合、その対象が約100年後を想定していることが想定していることがほとんどです。しかし、本当に『持続する』社会を築くためには、次の20万年を見据えて事業をデザインする視点が必要だと思っております。
エネルギー分野の変革は一朝一夕には成し遂げられません。しかし、私たちの世代が持続可能な未来を実現するためのターニングポイントを作り、そのきっかけを生み出す組織でありたいと考えています。
── 本日はありがとうございました!
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