ピッチブックの重要性は理解していても、具体的にどのように作成したらいいのでしょうか?今回は、既にメガベンチャーとなっている「メルカリ」「airbnb」の2社が、シード期に資金調達する際に用いたピッチブックを事例に取り上げ、ピッチブックの作成方法について具体的に解説していきます。
※本記事は、インキュベイトファンドが主催する起業家むけ勉強会「Incubate School」の内容を記事化したものです。インキュベイトファンドが主催する勉強会に興味がある方は、ぜひメールマガジンに登録してイベント開催情報を受け取ってください。
ピッチブックの基礎(4) メルカリ資金調達時のピッチブック事例
本記事では、シードファイナンスにおけるピッチブックの事例を紹介していきます。
1つ目はメルカリです。フリマアプリを提供している会社で現在はメガベンチャーとなりましたが、創設は2013年の2月と、まだ若い会社です。
創業者の山田進太郎さんは大学卒業後ゲーム会社ウノウという会社を創業売却、その後メルカリを創業された、いわゆるシリアルアントレプレナーです。彼は2013年7月(創業から半年後)にイーストベンチャーズから5000万円、2013年8月にはユナイテッドから3億円を資金調達しています。今回はその時彼が実際に使用していたピッチブックを解説していきます。
スライドの構成は簡潔
以下、簡単にスライドの構成について解説します。
・1枚目:プロダクトイメージ…このスライドでは簡単なプロダクトのイメージを見せています。
・2枚目:プロダクトコンセプト概要…プロダクトのコンセプトを紹介しており、どのような強みがあってフリマアプリを作るのかが示されています。
・3枚目:チーム…このスライドでは経営陣の紹介をしており、経営メンバーが既に一度エグジット経験をしたことがあること、などチームの強みが分かります。
・4枚目:ミッション(なぜやるのか)…このスライドでは、既存のフリマアプリとは何が違うのか、どのような社会を実現したいのか、が描かれています。
・5枚目:市場機会(Why now)…このスライドではC2Cは今後どうなるのか、市場機会はどこにあるのか、についての説明がされています。
・6枚目:市場背景…このスライドでは競合状況を解説し、既存の市場とユーザーニーズのずれを示しています。
・7枚目:提供価値…このスライドではプロダクトが世の中に提供されることで、どのような価値を提供できるかが説明されています。
・8枚目:実現したい世界…このスライドでは、どのような社会を実現したいのかというミッションが描かれています。
メルカリの資金調達は特殊事例
メルカリはたった8枚のスライドで多額の資金調達を達成したわけですが、これはかなりレアケースです。山田氏にシリアルアントレプレナーというバックグラウンドがあったからこその結果であり、実は過去にイーストベンチャーズが山田さんの創業したウノウという会社に投資していたという事実もあります。
つまり投資家たちは山田さんをかなり信頼していたことが伺えます。そうした観点から、連続起業家でない限りは8枚のピッチブックでの資金調達は再現性が低いと思われます。
ピッチブックの基礎(5) airbnb資金調達時のピッチブック事例
続いてご紹介させていただくのはairbnbです。2008年8月リーマンショック直後に設立された民泊予約サービスで、美大出身のデザイナー2人とハーバード卒で過去に数社起業経験のあるエンジニアの3人で起業しています。
創業のきっかけは創業メンバーのデザイナーが小銭稼ぎのために自分たちのアパートをレンタルするウェブサイトを開設したことにあります。実際にニーズがあることを知った彼らは、自分たちのアパートだけを貸し出すのではなく、プラットフォームを作る方向にシフトしました。2009年1月頃からサービス提供を始めたわけですが、当時は予約件数が数十件ほどしかなかったようです。会社を存続させるために彼らは、当時大統領選挙で話題となっていたオバマさんをモチーフとしたシリアルを販売して売上を立てていました。
普通のシリアルを40ドルで売って会社を存続させたというタフさを評価され、2009年1月にYCから2000万ドルの資金調達をしました。
airbnbピッチブック①「解決すべき課題、解決策、市場規模」
スライドの見方としては、左上、左下、右上、右下の順番になります。
・1枚目:課題…airbnbのピッチブックでは、まず初めに課題について言及されています。既存の市場におけるホテル業界や民泊業界の課題を説明しています。
・2枚目:解決策…そして次のスライドでは、ソリューションとしてホストをリスティングしていくプラットフォームを作り、安価で民泊ができる手段を提供することが説明されています。
・3枚目:先行市場…3スライド目では、先行市場の解説があり、民泊市場には実は先行プライヤーが存在していたことが示されています。ただしここで紹介されている先行プレイヤーはどれもairbnbとは違いがあり、まずcouchsurfingは非営利組織でした。またcraigslistは掲示板サービスを提供するスタートアップだったのですが、分野が民泊だけに絞られていませんでした。
・4枚目:市場ポテンシャル…4スライド目では市場のポテンシャルについて明記されており、より市場を魅力的に見せるために民泊市場のポテンシャルではなく、宿泊市場のポテンシャルについて記載されています。
airbnbピッチブック②「プロダクト・デモ」
・5-8枚目:プロダクトとデモ…5スライド目以降はプロダクトとデモについて詳しく記載されています。物件にレビュー情報が溜まっていく様子や、実際に泊まった時にどのような体験ができるのかを分かりやすく説明しています。これほど洗練されたサイトが2009年の段階で実現できていたというのは衝撃的であるとともに、デザイナーの存在が大きいことが分かります。
airbnbピッチブック③「収益モデル、成長戦略」
・9枚目:ビジネスモデル…9スライド目はビジネスモデルについてです。取引額の10%を手数料として受け取ることなどが記載されています。
・10枚目:市場で選ばれるための戦略…10スライド目では市場で選ばれるための戦略が描かれています。具体的にはパートナーシップを結んでいることであったり、craigslistに登録してある物件に関しては軒並みairbnbにも自動にリスティングされる、という部分を売りにしています。
airbnbピッチブック④「競合状況と競合優位性」
・11-12枚目:競合状況とポジショニング…続いては競合状況の説明です。オンライン取引なのかオフライン取引なのか、安価なのか高価なのかの4象限の中でのairbnbの立ち位置が分かりやすく示されています。airbnbはスライドから分かる通り、オンライン取引を用いて利用しやすい価格でサービスを提供することが分かります。
・13枚目:競争力…次のスライドは競争力についてです。自分たちがファーストムーバーであることや、ホストにインセンティブを提供する(ホストが儲けることが出来る)仕組みがあること、一度リスティングしたらその物件は何度でも使えること、craigslistと違い一度日時を設定した後でももう一度リスティングする必要がないこと、などを解説しています。また、デザイン力が自分たちの強みであることもしっかり描かれています。
airbnbピッチブック⑤「創業メンバー、メディア・ユーザーからの声、目標と必要金額」
・14枚目:チーム…こちらのスライドではまずチーム紹介がされています。美大出身のデザイナーとハーバード出身で過去にたくさんプロダクトを作ってきたエンジニアの3人が、デザイン、ビジネス、プロダクトの3つの役割を上手く使い分けていることが示されています。
・15-16枚目:反響…次のスライドではトラクションについてですが、airbnbは当時トラクションがほぼない状態だったので、メディア掲載実績と簡単なサービスレビューを載せることでユーザーニーズを投資家に伝えました。
・17枚目:目標調達額…最後のスライドは目標資金調達額です。8万件の予約をとり12か月以内に2億円の売上をだすことがシードラウンドでの明確な目標と設定していることが分かります。
airbnbピッチブック⑥ 考察
airbnbのピッチブック構成はこのようになっていました。それを踏まえてここでは彼らがなぜ資金調達できたのかの成功要因について考察していきます。
1つ目は、民泊市場や宿泊市場を含むトラベル業界は市場が大きく、かつ既存のプレイヤー(ホテル)は値段が高い手段としてポジションを確立させている、という点から新しいソリューションが市場をディスラプションしていくかもしれないという期待感を見せることが出来たことです。
2つ目は競合他社は存在するものの、彼らは本気で市場を取りにきておらず、airbnbが本気で民泊部分に特化して攻めたら勝てるということを説明できた点です。3つ目はチームのタフさです。シリアルを売って耐え抜いた話を通して、コミットメントの高さや困難を乗り越えて目指す世界を実現していく力があることを証明しました。以上のことからスライドには何を入れるのか、口頭での説明では何を補足するのか、証明するべきところは何か、を総合したうえで自分たちを上手くアピールすることが大きな成功要因となることが分かります。
まとめ
・ピッチブックでは自分たちを上手くアピールできるスライドを簡潔にまとめるのが良い
・ただしピッチブックはあくまで伝えるためのツールであり、大切なのは中身を磨くことである。