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2021/11/1

「M&Aの全てを解決したい」テクノロジーの力でより自由で効率的な市場を目指すM&Aクラウドの挑戦 - 8 Answers Vol.08 Atuhiro Oikawa

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8 Answers

執筆者:

上原 晶

既存の経済・社会の仕組みやルールでは達成できない「インパクト」を創出すべく、課題解決に挑む挑戦者と、彼らに伴走し続けるベンチャーキャピタリストの対談をお届けする「8 Answers」。起業家が社会に残そうとしている価値や情熱を伝えるシリーズだ。

M&Aクラウドは、「テクノロジーの力でM&Aに流通革命を」をミッションに、事業承継問題や日本のスタートアップにおけるM&Aの少なさを解決する、テクノロジーを活用したM&Aプラットフォーマーである。ベンチャー企業のM&Aでは業界トップクラスの案件数に関わり、2021年10月には総額約10億円のシリーズC資金調達を実施するなど、非常に順調な成長を遂げていると見える。

そんなM&AクラウドのCEO 及川 厚博氏は、M&Aクラウドはまだまだ未成熟で、実現したい未来像のためにはやるべきことがたくさんあると語る。M&A領域がいかにポテンシャルの高い市場であるか、その領域で生み出せるインパクトをどうすればより大きくできるのか、及川氏と伴走するインキュベイトファンド 本間 真彦との対談を通して伝えたい。

【プロフィール】

株式会社M&Aクラウド 代表取締役CEO 及川 厚博氏
2011年大学在学中にマクロパス株式会社を創業。東南アジアの開発拠点を中心としたオフショアでのアプリ開発事業を展開し、4年で年商数億円規模まで成長。別の事業に集中するため、2015年に同事業を数億円で事業譲渡。その際に、売却価格の算定と買い手探しのアナログな点に非常に苦労した。また、自分自身が事業承継問題の当事者であり、中小ベンチャーのM&Aに興味を持った。これらの課題をテクノロジーの力で解決したいという思いから、株式会社M&Aクラウドを設立。Forbes NEXT UNDER 30選出。

インキュベイトファンド 代表パートナー 本間 真彦
慶應義塾大学卒業後、ジャフコの海外投資部門にて、シリコンバレーやイスラエルのIT企業への投資、JV設立、日本進出業務を行う。アクセンチュアのコーポレートデベロップメント及びベンチャーキャピタル部門に勤務。その後、三菱商事傘下のワークスキャピタルにてMonotaRO社等、創業投資からIPOを経験。2007年にベンチャーキャピタリストとして独立。ネット事業の創業投資に特化したファンド、コアピープルパートナーズを設立。10倍のファンドリターンを出す。2010年にインキュベイトファンド設立、代表パートナー就任。国内投資に加えて、シリコンバレー、インド、及び東南アジアの海外ファンドの統括も行う。

買い手を掲載、売り手が応募。より自由なマッチングを。

──従来のM&A仲介との違いは何でしょうか?

及川:M&Aクラウドは、M&Aのプラットフォーム運営やマッチングを行っている会社です。M&A仲介との違いを分かりやすく例えて言うと、M&A仲介は人材紹介や人材エージェントに近い構造であるのに対し、M&Aクラウドはリクナビ等の求人メディアに近い構造を持っています。

M&A仲介は会社を売却したい人の要望を元に買収したい人にマッチングする形ですが、M&Aクラウドは会社を買収したい側のニーズをウェブ上で掲載し、売却したい人がそれを見て就活のエントリーのようなことをして、マッチングしてディールが成立したら手数料をいただく、いわゆる求人広告に近いモデルです。

本間:及川さんと出会った3年半前当時、僕自身M&A市場をリサーチしていて、マッチメイキングの方向性が求人メディアと反対の動きであることに違和感がありました。インターネットのマッチングのモデルとしてこれは方向感が違うのではないかということを及川さんと議論し、お互いに意見が合ったので、それ以来投資させていただいて一緒にやっています。

──従来のM&A仲介を変えたいと思うようになった原体験はあったのでしょうか。

及川:僕が学生起業して売却をした際に、相場より少し安く売ってしまったということがありました。当時M&Aに関する情報は全然ウェブ上にありませんでしたし、M&A仲介に買い手をリストアップしてもらったものを見て希望の買い手先を伝えても紹介してくれなかったりしました。

というのも、M&A仲介は両手ビジネスと言われていており、売りたい人と買いたい人の両方から手数料を5%ずつ貰います。たくさん案件が来るような買い手は手数料を払わないケースも多く、アドバイザーからすると儲からないため紹介しないのです。この体験から、会社を売りたいと思った時に売りたいと思った買い手先にアタックできない現状には負があると感じて、M&A市場をもっとオープンにしたいという考えから作りました。

M&Aの全てを解決するため、アドバイザリー事業へ参入

──よりフラットに、オープンにと目指す中で、アドバイザリー事業(MACAP)への参入へ至ったのはなぜなのか。併せてどんな強みがあるのかを教えていただけますか。

及川:大きく3つあります。1つ目はユーザーが求めていたということです。オンラインでマッチングの部分をやってはいるんですが、売り手の中にフルサポートでやってほしいというニーズがありました。たしかに、リクナビとリクルートエージェントが併存しているように、M&Aを考える人にとって両方選択肢としてあった方がユーザーのニーズに応えられます。

2つ目はM&Aのマッチングだけではなく、M&Aの全てを解決していきたいという思いがあるからです。アドバイザリーを持つことで、マッチング以降のエグゼキューションや PMIの部分も見られるようになります。それを最終的にはSaaSにしていきたいという思いもあるため、自社で保有するという感じです。

3つ目は、ブランドの強化につなげるためです。これまでに、大きいディールを決めてM&Aクラウドが日経新聞に載るということがありました。そのように規模の大きなディールはアドバイザリーが行うことが比較的多く、またマッチング後の成約率も格段に上がります。結局M&Aクラウドがこのディールを成立させたということだけがWeb上に載ることになるため、会社として大きいディールをやるにはアドバイザリーがあると非常に効果的です。

日本からユニコーン規模の会社を創りたい

──なるほど、ありがとうございます。続いて、本間さんは及川さんと出会ってからどのような流れで出資に至ったのかその経緯を教えて下さい。

本間:日本からユニコーン規模の会社を創っていきたいという思いがあり、及川さんと出会った3年半前当時、特にM&A市場をリサーチしていました。なぜM&Aかというと、日本で時価総額の高い順に企業や業態を並べていくと、この20年、30年の間に設立された会社でユニコーンの規模に達している会社はそれほど多くなく、その中の1つにM&A仲介という業態があったからです。

M&A業界の上場企業には日本M&AセンターやM&Aキャピタルパートナーズ、まだそこまでの規模はないですがストライクなど、3、4社が見られました。ただ、ベテランの方々が非常にアナログでヒューマンタッチなビジネスをしている状態だったため、スタートアップを仕掛ける側としては、そこを若い人の手でテクノロジーの力で置き換えていきたいと考えており、キャンディデイトを探していました。そこで当時僕と一緒にやっていたアソシエイトが及川さんを見つけてきてくれて、僕が会ってみて方向性が合致したのでスタートしたというのが経緯ですね。

ワンマンプレーじゃない、メンバーの個が生きるチーム

──なぜ及川さんがM&A業界での起業に向いていると思ったんですか?

本間:M&Aの事業をやる際に強みになっている及川さんの特徴は2つあると思っています。1つ目は、及川さんはM&Aクラウドが2回目の起業で、若い時に一度実際に会社を売却した経験を持つ実体験者であるということです。この問題意識を自分で持っているというところがまず大きいと思います。

2つ目は、経営者・起業家として「調整型」ということです。スタートアップでありがちな、ワンマンで「俺やるからもういいじゃん」という感じのコミュニケーションは役員会でも全くされていなくて、どのようにメンバーの力を最大限活かしてビジネスを伸ばしていけるかということを、比較的引いて見ながら考えているように見えます。俯瞰した上で自分でやることを決めていく、あるいは全体の方向性を自分の方向感に持っていっています。実はスタートアップでそのような調整が上手な人はなかなかいないと思っています。

だからこそ及川さんのところは、この規模の会社にしては役員みんなが仲良くて、それぞれ個が立っています。ワンマンの人の下だと、「結局あの人が最後に決めてしまう」というような諦め感が出やすいと思いますが、及川さんの周りには優秀な人たちが集まってそれぞれがやりたいことをやっている感じがします。テクノロジーの力を使っていたとしても、M&Aは人と人のビジネスがどうしても最後に残るので、僕はこういう調整型のスタンスがあっているのかなと思います。

──M&Aクラウドの現状のチームの強みはなんだと思いますか。

及川:チームの強みで言うと、もう流行ってしまった言葉ですが、流行る前から我が社には「1 Team(ワンチーム)」というバリューがありました。本間さんもさっきおっしゃっていたようにメンバーが和気藹々としていたいという意味もありますが、M&Aのプラットフォームは、M&Aというとても専門性の高いことをソフトウェアに落とし込むことが必要になってきます。そのため、僕一人が全ての専門性を有して、バリューチェーンを完結させることがそもそも不可能なビジネスです。

なおかつ、従来のM&A仲介大手は年収3000万くらいあるインセンティブカルチャーであるため、M&AのノウハウをWebやソフトウェアに出すことを基本的に好みません。そのようなカルチャーがある中で、エンジニアもM&Aアドバイザーも垣根なく、企業価値最大主義という我が社の一本軸に向かってフラットに考えられるチームになっているということが、強みだと思います。

コロナで出資者の考え方が変化

──本間さんから出資を受けてよかったと思ったポイントは何かありますか。

及川:たくさんありますが、最初に出資をしてもらった時は、やはり方向感が合ったことがすごく利益になりました。M&Aのマッチングプラットフォームは、今でこそ皆さん否定しませんが、当時は「ネットで会社売るんですか」という感じだったため、方向性が合う人は意外と本間さんくらいしかいませんでした

──今となっては業績も順調でビジネスモデルもいい視点だと評価されることが多いと思いますが、初めからそうではなかったのでしょうか。

本間:M&Aクラウドへの評価はスパンと分かれていました。僕や及川さんのように「M&Aってすごく大きくて面白い領域だからテクノロジーで刷新出来るべきだ」という考えの人と、「テクノロジーで取って代われるものではない」という考えの人がいて、ベンチャーキャピタルを回っても、特に金融系に詳しい人ほど全然興味のない場合が多かったです。投資家には金融系のバックグラウンドの人が多く、端からM&Aマッチングプラットフォームの可能性を信じてくれない人が結構多くて大変でしたね。

過去にはベンチャーキャピタルでガーンと投資したいと言う人が少なくてエンジェルなどを中心に集めたラウンドもありましたが、今回の調達ではそれがガラッと変わって、数字が出ていることもあり、掌を返したようなファイナンスになりました。「もうこんなにお金いらないんで」と、逆に今度はこちらが断るような事態になっていて、コロナの前後ですごく飛躍があったと言えます。

コロナで「非対面」に対して可能性を感じる人が増えたこともその理由の1つにあると思います。コロナ前まではオフラインで、ヒューマンタッチでやるべきだと思っていたことも、オンラインでもいいのではないかと思う人が増えました。そういった価値観の変化と共に、M&Aクラウドの実際の取引も増えました。人の認識が変わったということがとても大きいかもしれないです。

及川:確かに、そこはガラッと変わりました。

本間:結構コロナファクターはあると思います。言っていることはずっと同じですが、皆さんの認識がすごく変わりました。コロナ前は、「ネット上だけでM&Aなんて」、「出来るかもしれないけれど、会えるのだから会った方がいい」という考えがありましたが、コロナ後は、会わなくていいなら会わない方がいいと考えるようになりました。実際にマッチング数も増えていますし、確かにそういうのありかもしれないと思う投資家が圧倒的に増えたと思います。

成約率を高めるために採用

──成し遂げたい未来と現状の差分と、それを解消し成し遂げたい未来へと近づくために、今から何をしていく必要があるのか、考えを聞かせてください。

及川:マッチング数は非常に伸びていますが、そこから成約に繋げるということについては、まだ課題があります。その成約率を高めていくためには、買い手側にアプローチしてM&Aの総数を増やしていく必要があり、それをやっていかない限り成約数が飛躍的に増えるということはないと思っています。それをやるためにはやはり採用ですね。買い手起点でプロダクトや事業開発をしていく人を増やしていかないといけないということがまず短期的な課題です。

そして中長期だと、M&Aはすごくバリューチェーンが長いのに、我々はまだマッチングしか出来ていないという部分、M&Aの全てを変えていきたいという思いがあります。買い手の買収データベースが我々の最大のアセットなので、それを会計事務所や信金、地銀、M&A アドバイザーとして独立したい人に接続するなど、買い手のデータベースを使って事業開発していきたい考えています。そのためには次々に事業やプロダクトを作れる人を採用していかないといけないと思っています。そこが差分です。採用したいです。

──採用の新メンバーとして来てほしい人の像を教えていただけますか。

及川:今欲しいのはPdMとBizDevです。PdMで言うと、BtoBサービスかつM&Aという専門領域なので、ラーニングアニマルみたいな人でないとキャッチアップや理解が難しいのかなと思っています。売り手・買い手の社長やCFOなど、ペルソナの理解というのも非常に難しい中で、いかにそこを把握した上でプロダクトを生み出していくかという部分が求められるので、ラーニングアニマルかつインターネットのにおいがする人がいればぜひ来ていただきたいです。

BizDevの人は、同じようにラーニングアニマルな人で、さらに調整力のある人ですね。バリューチェーンがすごく長いので、色々な人種を束ねないといけません。プロダクト、デザイン、マーケ、M&A、営業など、幅広く理解のある人でないと、M&A領域は解決出来ないですし、会計事務所や金融機関とアライアンスするためには調整力が必要になってくると思います。そういう人がいないと立ち上がっていかないため、難しいですが市場はとても大きくて面白いと思います。

──転職してきた場合、どのような能力を伸ばす機会や活躍の場があるのでしょうか?

本間:僕は、インキュベイトファンドをやっていなかったらM&Aクラウドに入りたいと思っています。面白いので。M&Aクラウドでは、ファイナンスの知識を実地で学ぶことができ、難しい業界をテクノロジーで変えていくという実体験も積むことが出来ます。どのようにテクノロジーを既存の業界に適用していくかという経験と、ファイナンスの知識の両方を学べるところはそんなにないと思っています。

また、M&Aは小さいチームで実行していくことが多くあまりガチっとした組織じゃないため、会社全体が大きくなったとしても1つ1つの仕事のやり方にスタートアップらしさがあります。自分で考えて次々と動いていきたいような人にとってはとても適した職場だと思います。僕も入ったら活躍出来ると思うんですけど(笑)

及川:確かに、本間さんものすごく会社を売りそうですね(笑)

IT領域と事業承継問題にアプローチしていく

──M&Aクラウドに今後どのような展開を期待しているか、投資家目線で本間さんからいただけますか。

本間:投資した時から3年半経っても全く変わっていないところですが、M&Aは今後日本で非常に大きく成長する領域の1つです。人口が減っていく中で、こういう領域はそれほど多くありません。

M&A領域の中でも、すごく重要な領域が2つあります。1つは今M&Aクラウドが取り組んでいるITの領域で、成長のために投資をしたりM&Aをしたりということがどんどん加速していきます。世の中をグローバルに見ると全体的にそうなってきているので、日本も同じような動きが加速すると予測出来ます。その時に使えるインフラストラクチャーになる、という意味で非常に面白い領域です。

もう1つは、事業承継問題です。日本で本当に解決しなければならない社会課題の1つになっていると思いますが、1つ1つの事業承継の案件はそれ程大きくありません。仲介目線であまり儲からないので、従来のヒューマンタッチなやり方で解決できるかというと難しく、だからこそ圧倒的に効率化していくということが必要になります。

プロセスを透明化して効率化することで事業承継の問題を解決していけると思うのですが、そのためにはデジタルの力を使わないといけないにもかかわらず、DXに本当にチャレンジしている人が日本にはあまり見受けられません。簡単な問題ではありませんが、それを解きに行こうとして、何割か解けかかっているのが今のM&Aクラウドです。当然事業承継問題はは明日全部解決できるという話ではないですが、解決できたときのインパクトは大きいです。M&Aクラウドは事業承継問題をテクノロジーの力で解決できる可能性が高い会社の最有力だと思っています。そこが面白いところかなと思います。

──及川さんから最後に一言お願いいたします。

及川:うちの会社の魅力は、「本気でやっている会社」であることだと思っています。M&Aをやっている中で色々な会社と出会いますが、会社のメンバー全体を見ると本気でやっていないなと思うケースが意外と多いです。M&Aクラウドの魅力は、全員が本気で何かを達成して一緒に喜びを分かち合うことが出来る会社です。そういう会社はこのご時世減っているような気がしますが、それがきちんと出来る会社だと思っています。フルコミットで何かやりたいという考えの方がいたら是非来てください。

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8 Answers

上原 晶

寄稿者

慶應義塾大学商学部に在学中。ベンチャーキャピタル「インキュベイトファンド」のインターン生として、リサーチ業務などを担当しています。中国語を学習しており、中国スタートアップに興味があります。大学卒業後はベンチャーキャピタリストとして、起業家と伴走していきたいと考えています。

慶應義塾大学商学部に在学中。ベンチャーキャピタル「インキュベイトファンド」のインターン生として、リサーチ業務などを担当しています。中国語を学習しており、中国スタートアップに興味があります。大学卒業後はベンチャーキャピタリストとして、起業家と伴走していきたいと考えています。

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