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2021/07/26

給与支払いをあるべき姿へ。「給与前払い」を通して、ペイミーが作り出す機会損失のない世界 - 8Answers Vol.07 Tatsunori Ishii

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8 Answers

執筆者:

長谷川 大翔

既存の経済・社会の仕組みやルールでは達成できない「インパクト」を創出すべく、スタートアップを立ち上げ、課題解決に挑む挑戦者と、彼らと伴走し続けるベンチャーキャピタリストの対談シリーズ「8 Answers」。起業家が社会に残そうとしている価値や情熱を伝えるシリーズだ。

今回は、株式会社ペイミー代表取締役の石井達規氏が登場。ペイミーは給与の前払いサービス「Payme」を提供。前払いを通じて給与へのアクセスを容易にし、エンドユーザーの資金繰りの悩みを解決していく。石井氏は2019年に参画し、取締役CFOを経て、2021年1月に代表取締役に就任。学生時代にバングラデシュに渡り、生活に困窮する人々の姿を目の当たりにしたことから、「目の前の人の生活を良い方向に変えていきたい」という思いが芽生える。その意思をペイミーで実現しているのだ。

ペイミーが社会で果たす役割と、石井氏の事業にかける思いを、インキュベイト株式会社代表パートナーの本間真彦とともに紐解こう。

【プロフィール】

石井達規 氏(ペイミー代表取締役)
京都大学工学部地球工学科国際コースにて、土木工学を学んだのち、半年間休学しバングラデシュ・チッタゴン都市開発公社にてインターンシップに従事。その後、2017年4月に双日株式会社に入社。南アジアを中心とした海外発電所案件への事業投資に従事し、年商数十億円の既存事業の主担当者や、子会社管理、新規事業の立案実行、M&Aなどを経験。2019年10月に株式会社ペイミーに入社し、新規事業の立案・実行を担当。2020年5月よりCFOを兼務。2021年1月より代表取締役に着任。

本間真彦 氏(インキュベイトファンド 代表パートナー)
慶應義塾大学卒業後、ジャフコの海外投資部門にて、シリコンバレーやイスラエルのIT企業への投資、JV設立、日本進出業務を行う。アクセンチュアのコーポレートデベロップメント及びベンチャーキャピタル部門に勤務。その後、三菱商事傘下のワークスキャピタルにてMonotaRO社等、創業投資からIPOを経験。2007年にベンチャーキャピタリストとして独立。ネット事業の創業投資に特化したファンド、コアピープルパートナーズを設立。10倍のファンドリターンを出す。2010年にインキュベイトファンド設立、代表パートナー就任。国内投資に加えて、シリコンバレー、インド、及び東南アジアの海外ファンドの統括も行う。

50年間変わっていない「給与支払いのあり方」を変える

──今日はよろしくお願いします! はじめに、ペイミーの事業内容について教えてください。

石井:私たちは「資金の偏りによる機会損失のない世界を創造する」というミッションのもと、給与前払いサービス「Payme」を提供しています。福利厚生として企業に導入し、従業員から希望があった際に、給与を前払いで支払えるサービスです。

──どのような仕組みなのでしょうか?

石井:勤怠データと連携し、実労働時間から給与を算出します。従業員は、申請当日までに働いた金額の70%を上限に、給与の受け取りが可能です。2017年11月の提供から3年半以上が経ち、現在は飲食、物流、医療介護などの幅広い業界の700社に導入。流通額は70億円を突破しました(※2021年5月現在)。

※ペイミーは、利用企業に対して事務委託料等の支払いを請求しますが、労働者に対して支払い請求をすることはありません。「給与ファクタリング」との違いについて疑問を持たれている方は、こちら(給与前払いサービス「Payme」と給与ファクタリングの違いについて)をご覧ください。

Paymeの利用イメージ(提供:ペイミー)

──なぜ、「Payme」の提供を始めたのでしょうか。

石井:「給与をすぐに受け取れないことによって起きる弊害をなくしたい」という考えのもと、前代表が立ち上げました。

給与は約50年にわたり、月に1回の給料日にまとめて支払われる形式のまま変わっていませんよね。そのため、結婚式や引っ越しなどの急な出費に対応できず、他の手段でお金を工面して生活を圧迫してしまうという現状がありました。

「急な出費に備え、貯蓄をすればいいのでは?」と考える人もいると思います。しかし、今は非正規雇用の割合も増えていますし、そうした人たちの多くは年収が200万円以下。日々の生活を営むことに精一杯で、貯蓄をすること自体が難しいんです。

このような状況を、「給与の前払い」によって解決できないかという考えのもと、当社はサービスを開始しています。本来、給与は、すぐに受け取る権利があってもおかしくないはず。自分が働いて稼いだお金なので、個人に属する資産であり、ローンなどの負債と違って返済の義務もありません。

──そうですね。給与の前払いは、従業員にとって非常にありがたい仕組みですよね。しかし、一般的とは言えません。

石井:給与の前払いを行おうとすると、企業側の負担が非常に大きくなってしまうんです。各従業員の勤怠状況と照らし合わせながら、前払いができる金額を計算しなければいけない。その現状に対して、私たちはテクノロジーの力を掛け合わせることによって、企業側の負担を減らしながら、従業員が働いた分のお金をいつでも受け取れる仕組みを整えてきました。

ペイミー代表取締役 石井達規 氏

──本間さんは、シード期からペイミーに出資をされています。ペイミーのどのような点に可能性を感じたのでしょうか?

本間:私自身も非正規雇用の増加に対して課題意識を持っており、そうした人たちを救うサービスになると感じたからです。

中には、やむを得ない事情で非正規雇用として働いている人もいます。資金繰りに悩み、ローンによる多重債務で地獄のような状態に陥っている人もいる中で、もう少しお金へのアクセスの方法を模索する必要があると考えていたんです。ペイミーの創業者で前代表のお話を伺い、「自分の働いた分の給与を、欲しいタイミングでもらう」という仕組みが、非常にシンプルでクリーンだと感じ、出資を決めました。

──エンドユーザーや導入企業からはどんな反響がありますか?

石井:エンドユーザーからは、「引越しの初期費用がまかなえた」「結婚式など、急な出費が発生した時に助かっている」といった声をいただいています。全体の7割が、20代から30代の若い世代ですね。

Paymeの利用用途(提供:ペイミー)

導入企業からは、従業員の「採用」や「定着」、給与支払いの「工数の削減」についての反応が多いです。「求人応募数が10倍になった」「『Payme』を利用した従業員の離職率がゼロになった」「自社で前払いを実施していた時に比べて、工数が3分の1になった」という声をいただいています。

本間:「給与前払い」は、仕組みはシンプルではあるのですが、スムーズなユーザー体験を実現するのは非常に難しいんです。

給与は、企業にとっても従業員にとっても、最も間違ってはいけない情報です。月に一度の給料日に確実に遅滞なく支払うだけでも大きな負担があるのに、ペイミーが描く世界を実現していくためには、毎日、従業員の要望に応じてミスなく支払いをしなければいけません。システムに不具合が生じ、給与が振り込まれなかったり、金額が間違っていたりすると、エンドユーザーや導入企業からの信頼を損ねてしまいます。

ペイミーは、当初からカスタマーサクセスに力を入れて顧客に寄り添ってきました。課題の発見と素早い改善を通して、サービスを磨き続けたからこそ、支持を得られたのだと思います。

「今、困っている人の生活を変えたい」という思いを胸に、総合商社からペイミーへ

──石井さんは、元々は大手総合商社に勤めていましたよね。なぜペイミーへの参画を決めたのでしょうか。

石井:「給与の前払いを通して、『今』お金に困ってる人にアプローチできる」という点に強く惹かれました。

私は大学時代、バングラデシュに渡り、都市開発をする政府機関でインターンをしていました。バングラデシュは、社会インフラがまだまだ脆弱で、例えば安全な水を安価に手に入れることも難しい国。貧しい人たちは、決して安全とは言えない水を利用せざるを得ません。そうした環境下において、安全な水へのアクセスを可能にする上水道整備のプロジェクト等、様々なプロジェクトに携わらせていただき、途上国の実情を学びました。その経験から、今困っている人々の生活を、より良い方向に変えていくインフラの可能性に心を惹かれ、卒業後は総合商社に入社。海外インフラのプロジェクトを担当しました。

<写真:インターン時の写真>

実際に働いてみると、人々の生活を向上させるまでのスパンが長く感じられ、もどかしさを感じるようになっていきました。もちろん、インフラは都市や国そのものが発展するための重要な基盤になるのですが、目の前で困っている人たちを今すぐに助けられるわけではありません。もっと直接的に、早く人の生活を良くする方法はないだろうかと考え始めました。

そんな時に、もともと知り合いだった前代表と話す機会がありました。「『Payme』は、給与のあり方を根本から変える。誰もが好きなときに給与を受け取れるようになることで、お金に関する困りごとを無くしていく」と熱く語ってくれて。お金を理由に何かをあきらめなければいけない人を、一人でも減らせるかもしれないと考え、入社を決めました。

──石井さん自身のミッションと重なったのですね。入社後は、どのような仕事を?

石井:既存事業の新しいスキームの立ち上げや、新規事業の立案と実行に携わりました。スタートアップらしく、自分が提案した取り組みがすぐに実行され、結果に反映されるスピード感にやりがいと面白さを感じました。

特に印象深かったのは、新しいスキームとして「立替クレジットカードプラン」をリリースした時のことです。このプランは、企業のクレジットカードの与信枠を使って、前払いをするプランです。

リリース以前は、利用額を回収できなくなるリスクを下げるため、どうしても財務状況に余裕がある企業にしかサービスを提供できませんでした。その状況を解消し、より多くの企業にサービスを利用してもらうために、立替クレジットカードプランの提供に着手しました。クレジットカードとの連携により、これまで提供ができなかった中小企業にもサービスの提供ができるようになり、今では200社近くの企業にご契約いただいています。

──石井さんは、2020年にCFOを務められたのち、2021年には代表に就任されています。その経緯を教えてください。

石井:新型コロナウイルスの流行に伴い、事業の成長が停滞。もともと描いていた成長戦略の実現が難しくなったため、事業の方向性を変える必要性が出てきました。それに伴い、経営陣を刷新することになったんです。議論を重ねた結果、私が引き継ぐことになりました。

私自身も、「Payme」の存在意義を強く感じていました。お金に関する困りごとを解決してエンドユーザーの生活を豊かにできますし、企業にも人材の採用や定着といった形で還元しています。事業を成長させて、ポジティブなスパイラルをこの先も生み出していきたいという思いがあったんです。

本間:石井さんが引き継ぐことになり、非常に安心感を覚えました。スタートアップの代表の交代は、私も何度か経験があります。その際に、重視するのが「次の代表が、どれだけ熱意を持ってやり遂げられるか」なんですね。石井さんは、自ら「私が引き継ぎます。このような方向性でやらせてください」と宣言してくださり、覚悟が伝わってきました。

石井:ありがとうございます。すでに数百社の皆さんにご利用いただいていましたし、我々を信じて利用してくださっているエンドユーザーや導入企業のことを考えると、私たちの事情でサービスを止められないという一心でした。私としては「事業を成長させていくこと」だけを考えていましたので、その覚悟が伝わって非常に嬉しいです。

本質的価値の追求を通して、エンドユーザーも企業も全員が幸せになれる仕組みを作っていく

──ペイミーの事業に対しての、強い思いを感じました。今後のペイミーはどのように事業を展開するのでしょうか。

石井:お金に関する悩み事の解決を通じて、エンドユーザーはもちろん、サービスを導入する企業の含めた全員が、幸せになれる仕組みを強化していきたいです。そのために、3つのことに注力していきます。

1つ目は導入企業にとってのメリットを、より明確化していくこと。具体的には採用や定着への影響といった成果の可視化、勤務情報などとの連携の強化を行い、導入企業に「Payme」を導入したことによるメリットを実感していただきたいと考えています。

2つ目は、ユーザーにとっての価値を向上させること。今は給与の前払いの機能のみの提供ですが、新たな機能追加を進めています。2021年4月には、お金の相談マッチングプラットフォーム「お金の健康診断」とも業務提携を開始しました。今後は家計の状態を把握していただき、そもそも給与前払いが必要となる背景でもある「貯蓄0」の課題を解決できるようにしていきます。

3つ目は、OEMでの提供を通して、より多くの人たちに届けていくこと。銀行や事業会社を巻き込むことで、その取引先の企業にもサービスを提供できれば、私たちだけではアプローチできないより多くのユーザーのお金に関する悩み事の解決が可能になると考えています。

──それらのビジョンを実現させていくうえで、今後どのような人と働いていきたいですか?

石井:自分ごととしてサービスを捉え、ユーザーが求めている本質的な価値とその解決策を考え抜ける人と挑戦していきたいですね。

私たちは、今後もエンドユーザーや導入企業と対話をし、ニーズを探り、サービスに落とし込んでいきたいと考えています。自分の役割だけに閉じずに、役割を横断して、良いと思ったことはどんどんトライする力が必要です。本質的な価値にこだわりを持ち、サービスを作りきる思いがある人にとっては、チャレンジングなフェーズだと思います。

本間:石井さんをはじめ、ペイミーには「社会の基盤となるような、新たな形のインフラを作りたい」という思いを持つ人が多い印象を受けています。

働き方が変わっていく中で、給与支払いに対するニーズも今後、どんどん多様化していくはず。ペイミーは、給与の新たな仕組みを作ることで、多様な働き方や生き方ができる社会を実現する支えになると信じています

──ありがとうございました!

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長谷川 大翔

寄稿者

長谷川 大翔

一橋大学経済学部に在学。インキュベイトファンドではインターン生として、リサーチ業務等を担当しています。また気候変動領域に関心を持っています。

一橋大学経済学部に在学。インキュベイトファンドではインターン生として、リサーチ業務等を担当しています。また気候変動領域に関心を持っています。

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