現在の経済・社会の仕組みやルールでは達成できない「インパクト」を生み出すべく、解決課題に挑む挑戦者と、彼らに伴走し続けるベンチャーキャピタリストの対談をお届けする「8 answers」。社会に残りそうとしている価値や情熱を伝えるシリーズだ。
今回は、株式会社シンプルフォームの代表取締役CEOの田代翔太氏が登場。 金融機関の法人調査業務を軽減し、審査の高度化をサポートする「SimpleCheck(シンプルチェック)」を提供・開発している。
代表の田代氏は、新卒で日本政策投資銀行へ入行。銀行員時代にスタートアップ企業の調査業務に携わる中で業界の痛みを目の当たりにし、2020年にFinTechで起業した背景や金融サービスを立ち上げたきっかけについて、彼と伴走を続けるインキュベイトファンド代表パートナーの本間真彦と共に紐解いていく。
【プロフィール】
シンプルフォーム株式会社代表取締役CEO 田代翔太氏
早稲田大学卒業。2011年に株式会社日本政策投資銀行に入社。 2020年10月にシンプルフォーム株式会社を創業。
インキュベイトファンド 代表パートナー 本間 真彦
慶應義塾大学卒業後、ジャフコの海外投資部門にて、シリコンバレーやイスラエルのIT企業への投資、JV設立、日本進出業務を行う。アクセンチュアのコーポレートデベロップメント及びベンチャーキャピタル部門に勤務。その後、三菱商事傘下のワークスキャピタルにてMonotaRO社等、創業投資からIPOを経験。2007年にベンチャーキャピタリストとして独立。ネット事業の創業投資に特化したファンド、コアピープルパートナーズを設立。10倍のファンドリターンを出す。2010年にインキュベイトファンド設立、代表パートナー就任。国内投資に加えて、シリコンバレー、インド、及び東南アジアの海外ファンドの統括も行う。
震災を機に銀行へ入行 金融機関の課題に直面する
── まずは、自己紹介をお願いできますか。
田代: 地元・群馬県の県立高校を卒業し、早稲田大学へ進学しました。その後、最終学年のときにオランダへ留学しました。当時から「社会人を何年か経験したら起業したい」と考えており、今のうちに海外留学をしておきたいと思ったんです。
オランダへの留学中に東日本大震災が起きた、というニュースの一報を友人づてで知りました。大きな衝撃を受けましたし、かなり動揺しました。というのも、親戚の多くが被災地である宮城県に住んでおり、東北大学へ進学している高校の同級生も多くいたからです。
当時はTwitterなどのSNSアカウントを持っている人が少なかったので、海外にいる私は得られる情報が少なく、とても不安な日々を過ごしました。大学卒業後は外資系の銀行やファンドへ進みたいと考えていましたが、この経験を経て「日本のために何かしたい」と思うようになり、2011年、震災復興に積極的に取り組んでいた日本政策投資銀行へ入社することに決めました。
日本政策投資銀行では地域金融機関とのファンド組成などの業務からキャリアをスタートし、2年ほど経った後に、バイアウトファンドを運営する会社に出向し、投融資や投資先の事業運営を担当しました。そのときに当時新たに生まれようとしていたネット保険の会社の案件があり、そういった案件を通じてFinTechの萌芽に触れました。
起業を意識したのは2017年ごろです。同僚の友人と趣味のように始めたプロジェクトが軌道に乗り、「銀行の中で新規事業開発を任せたい」という話を受けたことがきっかけです。大手企業向けに、今でいう「DX化」をサポートするコンサル事業を行なっていました。このときに金融業界の課題や事業機会の可能性を肌で感じ、9年在籍した銀行を退職して、2020年10月にシンプルフォームを創業し、2022年6月に法人調査のプロセスを自動化するクラウド型ソフトウェア「シンプルチェック」の提供を開始しました。
── なぜ、学生時代から起業したいと思っていたのでしょうか。
田代:大学に在学していたとき、周りのおもしろい人たちがこぞって「いつか起業する」と言っていたんですよね。僕にとってのおもしろい人の定義は、「世の中がこうあるべき」「こうなればもっと日本はよくなるのに」という自分なりの考えを持っている人です。このような人たちに囲まれていたこともあり、気付いたら「自分もいつか起業したい」というマインドになっていました。
一方で、いざ銀行で働いたら自分の業務に夢中になりました。目の前の業務にまい進していたため、すぐに起業することはなく、9年の勤務を経て独立しました。
── 仕事に夢中になっている中で、本格的に起業しようと思った理由について、詳しく教えてください。
田代:新規事業を担当していたとき、日本政策投資銀行と繋がりのある大手企業との協業を希望するスタートアップ企業に応募をしてもらい、私たちがサポートをしていく担当者につなげるというサービスを立ち上げました。当時は多い時でオンライン、オフライン含め、1日に30社ほどのスタートアップ企業の情報を確認していました。
ただ、コンプライアンスマニュアルや制度の壁があり、立ち上げたサービスで集客をDX化できても、その後のフローは煩雑なままでした。企業の担当者にスタートアップ企業をつなげてサービスをグロースしたくても、事前の審査が重くなるばかりで、なかなかスムーズに進みませんでした。
そこで、「ここには、大きなビジネスチャンスがあるのでは」と思いました。いろいろ調べていくうちに「この分野は僕がやるべきなのでは」という思いがどんどん強くなっていって、止められなくなりました。2019年には上司に、「今の業務はしっかりやるので、1年後に辞めさせてください」と伝え1年後、実際に退職して起業の準備に入りました。
noteがきっかけでDM 実現したいことを言語化できる人は経営者に向いている
── 起業後にインキュベイトファンドから投資を受けていますが、VCはどのように探したのでしょうか。
田代:創業当初は積極的にVCを探していたわけではなく、自己資金と融資のみで初期のサービスを開始するつもりでいました。自分のつくりたいサービスを実現できるエンジニアの採用を最優先とし、リファラルで会ったり、noteを書いたりなど、数か月ほど採用活動に奔走していました。その中で、noteを読んでいただいた本間さんからDMをいただいたんですよね。
本間:起業の背景を書いた田代さんのnoteを読み、おもしろそうな人がいると思い、Facebook経由でメッセージを送りました。私は、自分の実現したいことを言語化できる人は経営者として優れているという考えがあります。
田代さんのnoteは長文ではないのですが、文章力が高く、起業の背景を簡潔に分かりやすくまとめていて、「とにかく1回会って話をしてみたい」と思ったんです。
田代:私もインキュベイトファンドさんはもちろん知っていて、シードラウンドのときに投資の相談をしてみたいと思っていたのですが、まさかこんなに早く連絡を取らせていただけるとは思っていませんでした。「まだ事業プランが固まっていないのですが大丈夫ですか?」などのやり取りをした後に、初めてお会いしました。
── 最初の打ち合わせは、そんなにスムーズに進んだんですね。出資が決まるのも、スピーディだったと聞いています。
本間:そうですね。たしか田代さんは数十ページのピッチ資料を持ってホワイトボードに書きながらサービスの説明をしてくれましたよね。当時、サービスはまだ完成されていないものの、すでに内容はかなり詰まっていました。また、noteを読んだときからコンセプトにも共感していたので、出資に関してそこまで悩むことはありませんでした。
高度な技術を生かした「開発」と泥臭い「調査」が強み
── 改めて、現在提供しているサービス内容と御社の強みを教えてください。
田代:金融機関が法人サービスを提供するために必要な情報は、反社等の不芳情報を始め、事業内容、活動の実体、代表者・役員、ガバナンスなど多岐にわたります。しかし、それらはWebに散らばり、行政でもバラバラに管理されていることが多々あります。特に、中小企業や新興法人の情報は手に入りにくいため、金融機関の担当者は、これらの情報を手に入れる作業に多くの時間と労力を費やしていました。
私たちの提供・開発している「シンプルチェック」は、法人調査のプロセスを自動化することで、このような業務に対する負担を軽減しつつ審査の高度化をサポートする、というサービスです。シンプルチェックでは、企業名を検索するだけで、独自に蓄積したデータベースからその企業のリスクを含むや最新情報を抽出し、詳細をまとめたレポートを約30秒で提供します。
このサービスを開発するために、機械学習などの高度な知識と技術を生かす「開発チーム」と必要な情報を収集しデータ化する「調査チーム」の両方の機能を持っているのが、私たちの強みです。
データの情報収集というのが、けっこう泥臭くて。データの様式がそれぞれであったり、また場合によっては紙媒体だったりすることもあるため、それらを時間をかけて取り込む……という地道なことを繰り返しています。
── 想像以上に地道な作業ですね。現在、どれくらいの法人データが検索可能なのでしょうか。
田代:全国約500万の法人情報を調べることができます。
本間:シンプルフォームが取り組んでいる作業は、実はすごく難易度が高いものなんです。技術的な面はもちろん、データを取り寄せることも一般的なスタートアップ企業では難しいことです。田代さんが長年、金融業界で働いていたというのが、大きな信頼になっているのだと思います。
サービス開始わずか3か月で、大手金融機関での導入が決定
── 2022年6月に「シンプルチェック」を正式にリリースして、わずか3か月ほどでJCBやクレディセゾンなど大手金融機関の導入が決まりましたが、クライアントからはどのような感想が上がっていますか。
田代:人員を割かなくても、事業が回るようになったという声は多くあります。従来は事業がスケールしていくと、必然的に人を増やさなければいけませんでしたが、SimpleCheckを導入してからは業務量が短縮して、効率的に運用できるようになったと言っていただいています。
── 本間さんも手ごたえは感じていますか。
本間:そうですね。実は最初、このサービスは営業に苦労するだろうと思っていました。FinTechは審査基準が高く、特に大手の銀行や金融機関はなかなか新しいサービスを導入したがらないからです。
しかし実際にサービスが始まったら、田代さんがいろいろな企業や機関の担当者一人ひとりに会って、話しをして、ニーズを拾って的確な提案をする、ということを丁寧にされていました。何より田代さんのキャリアや人としての信頼性が企業に伝わって導入につながっていったので、不安な要素はすぐに打ち消されました。
田代:まだまだですが、ありがとうございます。好調なのは、コロナ禍でリモートワークが定着し、金融業界がDX化せざるを得なくなったという事情も、追い風になった理由の一つです。数年前の、まだオンラインが主流ではなかったときには、中々受け入れてもらえないサービスだったと思います。
オフィスは一軒家 部署の分断をなくしたい
── 2020年に起業して今年で3年目とのことですが、現在の社風やメンバーの雰囲気について教えてください。
田代:オフィスはスタートアップ企業には珍しい一軒家です。開発サイドもビジネスサイドも、分け隔てなく仲が良くて、ケンカも全然しないですね。お互いに謙虚でほかの部署を尊重し合っている雰囲気があります。そもそも一軒家にしたのも、部署で分けたくなかったからなんです。
開発サイドが話している言語とビジネスサイドが話している言語をお互いに理解して、「エンジニアがこうやりたいだろうから、僕たちはこうしよう」「セールスがこういうことができるように、こういう開発をしよう」と思えるチームづくりをしたかったんです。実際に会社全体が融和されていて、雰囲気のいい組織ができていると思います。
── オフィスを持たない企業も増えている中で、珍しい取り組みですよね。
田代:誤解のないように言うと、フルリモートで働いている開発メンバーもいますし、子供がいる社員も多いので各自柔軟にリモートを組み合わせて働いています。ただ、いい雰囲気のオフィス空間があれば、中長期的に働きやすいと思うんです。例えば、辛いことやうまくいかないことがあったとき、近くにいる同僚ががんばっているから自分も踏ん張ろうとか思えたり、尊敬する上司と同じ空間で働くことがモチベーションになったりなど、職場のいい人間関係がパフォーマンスにつながるのではと思っています。それにせっかく入社になったのなら長期で働いてほしいですし、社員は家族のように思っています。
── 最後に、今後の事業展開やサービスを通して実現したいビジョンを教えてください。
田代:スタートアップ企業として事業をスケールさせることと、コンプライアンス水準と堅牢性を保ち、信頼に値するサービスを提供し続けることの両立に努める必要があります。
イメージとしては、伊能忠敬がやっていることに近いと思っています。彼は17年かけて、日本中を歩いて測量し、日本地図を完成させましたよね。私たちは彼が丁寧で粘り強く、各地の地図を一枚につなぎ合わせたように、一つひとつのデータを集めて、すべての法人がフェアに繋がれる世界を目指します。
── ありがとうございました。
<シンプルフォーム株式会社>
代表者名:田代翔太
会社URL:https://www.simpleform.co.jp/
募集中ポジション:https://careers.simpleform.co.jp/