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2022/01/19

「日本発、世界一の製造業向けスキル管理SaaSを目指す」スキルノートが秘めたポテンシャルを代表・山川氏とIFパートナー赤浦氏と紐解く- 8 Answers Vol.09 Takafumi Yamakawa

執筆者:

古川 真也

課題解決に挑む挑戦者と、彼らと伴走し続けるベンチャーキャピタリストの対談シリーズ「8 answers」。
今回は、株式会社Skillnote(スキルノート)の代表取締役CEOの山川氏が登場。『SKILL NOTE』は、製造現場のスキル総量と教育状況を可視化し、人材育成を推進するための基盤を提供する人材スキル管理システム。山川氏はなぜ製造業を主戦場に選んだのか。山川氏が掲げる「日本発、世界一の製造業向けソフトウェアサービスをつくる」というビジョンに秘められた同社のポテンシャルを、彼と伴走を続けるIF代表パートナー赤浦氏とともに紐解いていく。


【プロフィール】

株式会社Skillnote 代表取締役 山川 隆史 氏早稲田大学理工学部卒。1996年に信越化学工業に入社し、群馬事業所での製造現場経験を経て、電子材料事業本部にて新規技術のビジネス開発や、開発品のグローバル市場開拓に従事。
担当先であるIntel社の工場を飛び回る中で、全世界共通のシステマチックな教育制度に感銘を受け、製造業向け人材育成領域での起業を決意。
2006年に独立し、製造現場向けの教育・研修事業を通じて製造業の人材育成支援に奔走。2016年に株式会社Skillnoteを設立、現在に至る。

インキュベイトファンド 代表パートナー赤浦 徹
ジャフコにて8年半投資部門に在籍し前線での投資育成業務に従事。
1999年にベンチャーキャピタル事業を独立開業。以来一貫して創業期に特化した投資育成事業を行う。
2013年7月より一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会理事。2015年7月より常務理事、2017年7月より副会長、2019年7月より会長。

「アナログで場当たり」製造業出身の代表 山川氏が感じた、業界の強い課題感

── 初めに、日本の国内の製造業の人材育成にどんな課題感があるとお考えでしょうか

山川:アナログで場当たり的な人材育成が多いかなと感じています。「いい先輩に当たればラッキー」とか、「先輩の背中を見ながら覚えろ」みたいな世界がいまだに根強い。製造業はテクノロジーを扱っている業界なので、人材育成の手法も進んでいると思われがちなのですが、人材育成においてはまだまだアナログです。「人材育成」が優先度の高い経営課題であることがマネジメントレイヤーで言われていたとしても、現場の人に話を聞いてみたら「いやいやそれどころじゃなくて、物をつくったり開発したりするのに精一杯。人を育てるのもやらないと駄目なんだけど」みたいな感じで、レイヤー間にギャップがあることも感じています。また、人を育てても周りから褒められなかったり、自分の評価に反映されないことも多いですね。これらに課題感を持っていました。

── 製造業の人材育成がアナログなのは日本に限ったことなのでしょうか。海外のロールモデルは存在していますか?

山川:前職の仕事を通して関わっていたインテルの場合は、日本の育成方法に比べるとシステマティックな人材育成をやっているな、という印象を持っています。日本では拠点や現場ごとに様々な教育をやっているんですけど、インテルとかの場合は世界共通で、どこの拠点に行っても同じものを共通言語で教育していたりであるとか、あとは、すごくシステマティックかつ最短距離でやっているなと思います。

── 国内では人材のスキルや教育状況がブラックボックス化しているのが現状のようですね。

山川:スキルの取得状況や現場の教育の実態が把握できておらず、ブラックボックス化されていることが多いです。結果、人材に合ったシステマティックで効率的な人材育成が出来づらくなっていると思います。

なので、我々は現場のスキルを可視化することによって、戦略的で効率的な人材育成ができるようにしたいと思っています。製造業の現場では、技能伝承や多能工の育成だけでなく、最近は短期雇用や非正規雇用の人も多いので、戦略的な人材育成が重要です。例えば、技能伝承では「誰が何のスキルを持っている」ということが見えないと、なかなか効率的に技能伝承が行えないといったことが発生します。一方で、スキルが見える化されていると、会社にとって重要なスキルが何で、どの技術を重点的に教育すべきかが簡単にわかるので、効率的な育成と会社の技術の維持を実現することができると感じています。

── 『SKILL NOTE』は、社員のスキル・教育訓練・資格・力量を一元管理することで、そういった課題感の解決を目指すサービスです。開発する上でこだわった部分はありますか?

山川:自分も製造業にずっと関わってきた中で、「現場にこだわる」ということ、弊社内では「現場・現物を大事にしよう」と言っているのですが。やはりお客様の現場の状況を、あたかも自分がそこにいるような感じで解像度高く理解して、プロダクトの開発やソリューションにつなげていく、ということをすごく意識しています。

特に、製造業の人材育成はIT化が進んでおらず、IT慣れされていない方も非常に多くいらっしゃるので、UI・UXの開発にはこだわっています。現場のITリテラシーがどれぐらいで、どのような業務をやっていて、どんな環境で『SKILL NOTE』を使うのか、ということを解像度高く理解し、それらを意識したUI・UX設計には気を遣っています。2021年の4月にプロダクトをリニューアルしたのですが、開発では「説明レスで使えるサービスにしよう」というのを合言葉に、マニュアルを見なくても理解ができ、プロダクトを触る人のITリテラシーが低くても迷うことなく使えるUI・UXを目指しました。そのために現場の方々にユーザーヒアリングをたくさん行い、現場にあったプロダクト作りをしてきました。

── ありがとうございます。赤浦さんも、製造業界の人材育成がアナログで非効率であることに課題感を感じていたのでしょうか?

赤浦:僕の方はマクロな視点ですが、日本の経済成長を牽引したのが製造業だったと思うんですけど、平成の「失われた30年」では、日本の製造業がどんどん弱くなっていった時代でもあったと思っています。理由は、国内の企業が海外生産に移管したことや、町工場などの日本の製造業において重要な技術力を持った人材が引き抜かれ、中国に行ってしまったといったこともあります。このように製造業における「技術」は人に帰属しているので、それらを人以外のものにしっかり記録しておかないと、海外にどんどん流出してしまうという危機感を感じていました。

日本を再び成長軌道に乗せていくためにも、ITの力で製造業の力を上げていく必要があると思いました。そこで言うと、ブラックボックス化されてしまったり、勘で仕事を行う、ということを減らし、よりシステマティックにスキルが管理されて技能伝承ができるような仕組みを構築しておく必要があると感じています。

「全員プロダクトオーナー」高い解像度とともに事業を作る

── 赤浦さんはそのような課題感をお持ちの中で、なぜ山川さん、スキルノートさんに出資を決めたのでしょうか?

赤浦:山川さんは非常に実直でいらっしゃって、信越化学(工業)でご経験を重ねられていて、その中で、自分の現場感を元に非常に深いこだわりを持って根性でやり続けているこの『SKILL NOTE』を何とか飛躍させられないかと思いました。その点で、山川さんなら、と出資を決めました。

── ありがとうございます。山川さんは赤浦さんから出資をいただいて良かったなと思うご経験はありますか?

山川:一番良かったことは、赤浦さんに目線をあげていただいたことです。赤浦さんに出会うまでは、自分なりには高い目標を掲げて、自分なりに事業を進めていたのですが、どうやって成長させるか、などが全然わかっていなかったりして。赤浦さんと出会ってから、成長したときの世界感が見えてきたというのが、目標が上に上がった感じですごく良かったと思っています。

── 次に、スキルノートさんのこれまでの歩みについてお聞きできればと思います。まず初めに、スキルノートさんのチームの強みは現時点で何だと思いますか?

山川:うちの会社というかチームの強みは、「現場・現物」を常に大切にすることができている点です。二次情報や人から聞いた情報を信じて走ってしまうのではなくて、ちゃんとお客様から直接聞く、行って見てみる、触ってみる、みたいなことをすごく大事にしています。うちでは「全員プロダクトオーナー」と言っているんですけれども、全員が自分が会社をつくって製品をつくっているんだよ、ということを伝えています。なので、みんながそういう意識で「現場・現物」を経験しながら、「全員プロダクトオーナー」みたいな動きができていることがうちの強みかなと思っています。100%満足できるほどみんなの意識が出来上がっているわけではありませんが、他の会社に比べるとそういう意識はすごく強いと思っています。

── 「現場・現物」の解像度を高く持つという点では、製造業出身のメンバーも多かったりしますか?

山川:もちろん製造業出身のメンバーもいますが、必ずしも製造業出身の人ばかりではないです。製造業に関わることが少なかったメンバーには、現場感を持つために一緒に工場に行ってもらう機会を創っています今だと定例会みたいなものを設けて、お客様が話す場、プロダクトを使っている人がコメントする場に開発の人も参加できる場をつくって、できるだけ現場感を持ってもらうようにしています。最近、「工場見学休暇」という制度をつくって、工場を見学に行くのであれば休暇にします、という制度も設けたりして、できるだけメンバーが現場感を持つように工夫しています。

── 赤浦さんから見て、スキルノートさんのチームの強みと感じられる部分は何かありますか?

赤浦:山川さんは、僕が大好きな誠実で、謙虚で、素直な方なんですよね。やはり、誠実、謙虚、素直なお人柄の方が引っ張っているからこそ、いいチームをつくっていらっしゃるんじゃないかなと思っています。

最近、優秀な方々がチームにどんどん加わってきているんですけど、皆さん非常にモチベーションが高いなと思っています。これだけ皆さんが積極的に自ら主体性を持って取り組むというようなチームに仕上げられていることも、やはり山川さんのお人柄によるところがあるんじゃないかなと思うので。山川さんだからこそ、すごくモチベーションの高い、皆さんの主体性の高いチームがつくれていて、そこが強みじゃないかなと思います。

山川:ありがとうございます。大変光栄です。

── 次に、山川さんが創業から今までで一番ハードだったエピソードはありますか?

山川:ハードだったエピソードはたくさんありまして(笑)。

赤浦:(笑)。

山川さん:中でも、創業して間もない頃のお話ですが、うちにとって過去最大級の案件の時のエピソードは夜も眠れないくらいの経験でした。そのお客様は今でも取引のある大手の会社なのですが、まだ実績も少ない中でうちのことを信用して発注をくださりクリスマスまでに納品するという約束をしました。しかし、なかなかプロダクトが出来上がらず、しかも技術的に解決ができそうな目処が立たないという状況で。それで、年末、最終日にお客様に謝って、「正月中になんとかします」といった感じで、正月も稼働したのですが、正月明けても結局解決せず、いつ解決するか目処が立たない状況が続きました。その間、もう何回も謝り続けて、これだけ信用してくれて賭けてくれた人たちに、大きいビジネスで迷惑をかけていることがとても辛かったです。

結局、納期の1ヶ月遅れで8割完成したものを納品して、その後なんとかキャッチアップできましたが、その開発〜納品までの3カ月ぐらいは人生の中で一番きつかったかなと思っています。

── それは大変でしたね…。逆に、事業展開、事業をしていく中で、嬉しいと思ったエピソードはありますか?

山川:やはりお客様に認められたときですね。先ほど挙げた会社さんもそうですが、実際に使い始めてくれたら、結局褒めてくれたりしているんです。「あれだけ迷惑かけたのに」と思うのですが、類似サービスがなかったりするので、うちに賭けてくれて、「やっぱり入れて良かったよ」と言ってもらえるのが今でも一番嬉しいですね。

ちょっと今年の会社目標の中に、うちの会社特有のKPI目標があって、ある一定割合でお客様に

「めっちゃいいですね」って言ってもらう、っていう数値目標を掲げてやってたりします。やはり、お客様から認めてもらったときに一番やりがいを感じます。

「目指すは世界一」スキルノート山川氏が掲げるビジョンとは?

── ありがとうございます。次に、スキルノートさんが今後実現したいことや今後の展望についてお伺いできればと思います。山川さんは会社としての中長期的な目標をどのように掲げていらっしゃいますか?

山川:2つあります。

1つは、我々はビジョンで「つくる人が、生きる世界へ」ということを掲げていまして、これは自分が製造業にいた時に、「つくる人」、つまり製造業に関わっている人が生き生きと成長実感を持ちながら活躍できる世界をつくりたいと思っています。これは、裏返すと、製造業の現場では結構閉塞感が漂っていることが多いということでもあります。日本をここまで支えてきた基幹産業の製造業で、労働者人口もたくさんいるのに、この人たちが生き生きしていない、閉塞感が漂っている状態は本当に良くないなと思っていまして。そこを本気で、みんなが生き生きと成長実感を持って活躍できる世界というのをつくりたいなと感じています。ただ、いきなりこれを製品に組み込むことは難しいので、まず目の前のお客様に受け入れられるようなサービスをやりながら、その延長線上で製造業の人たちのスキルが活きるというような機能であったり、サービスであったりというのを組み込んでいきたいなと思っています。この目標に到達するという意味では、現状はまだ10%ぐらいまでしか達成できていないと思っているので、中長期的ではこれを絶対やりたいです。

もう1つは、創業した時からずっと、1人でやっていた時から言っていることで、やるからには日本発、世界一のソフトウェアサービスをつくりたいって思っています。やはり日本のソフトウェアで世界ナンバーワンだと名前が挙がるものはなかなかないと思います。あとは、製造業はグローバルな業界なので、やはり世界で1位、2位、3位ぐらいまで取っていないと大きな利益が出ないというような業界なので、製造業向けのサービスを作るのであれば、小さいスタートアップから世界1位を取らないと駄目だなと思っています。

── その目標と現状の差分を埋めていくために、貴社には今何が必要だと考えていますか?

山川:高い目標を持ち続けたまま目線を下げないことですね。我々には競合というか真似するものがないんです。なので、自分たちで業界を切り拓く必要があって、そのためには試行錯誤を高速で回していくことが必要不可欠でして。

また、人材の確保、採用にも注力したいと思っています。先ほどの赤浦さんが仰っていたことと被っているんですけど、うちの会社ではやはり、誠実な人、というのを最も重要視しています。誠実で、一緒のチームでできる人にメンバーに入っていただきたいです。また、うちの会社の目標として「世界一」を掲げているので、そこをチームとして一緒に目指せるような成長意欲の高い人を求めています。

── ありがとうございます。スキルノートさんの未来の目標と、現状の課題を比較した際に、赤浦さんはどのようなアクションを取るべきだとお考えですか?

赤浦:まず、やるにあたってのリソースの確保が重要だと思います。特に資金です。今回も過去最大の調達を行うのですが、資金確保は目標達成のために非常に重要だと思います。あとは人です。この製造業のスキル管理に特化したSaaSを世界唯一のSaaS として展開していくためには、そのための戦略にフォーカスしていく必要があります。

また、世界を取るのであれば、サービスの「英語化」も必要ですね。それだけではなくオンラインでもセールスできる仕組みづくりも必要だと思います。多国籍化し、ダイバーシティを広げて、全世界に対してリーチしていく。このサービスは日本企業だけに提供していく必要性はないし、SAP においてもグローバルのパートナーとして選ばれているわけですから、全世界をターゲットに戦略展開していくということが必要かなとに思います。

── 最後に赤浦さんは、スキルノートさんもしくは山川さんに、今後どのような活躍を期待されていらっしゃいますか?

赤浦:今日もお話していて改めて思いますし、昔から感じていることでもありますけど、山川さんはめちゃくちゃ粘り強いんです。決して諦めることがない。さらに、約束をとことん守る。すごく信頼を集められている方だと思います。やはり、「世界1位のソフトウェア企業になる」という山川さんの思いをぜひとも貫いて、何があっても諦めることなく粘り強く事業を継続していただきたいです。

スキルノートはいいチームも出来てきていますし、積極的により多くの人材とお金を調達して、思いっきりバット振る、ということをできたらなと思っています。世界で唯一の、他に類するものがない製造業のスキル管理SaaSを世界に広めていく、攻めていくということをぜひ一緒にできたらなというふうに思っています。

── ありがとうございました。

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古川 真也

寄稿者

インキュベイトファンドにてインターン中の大学三年生。yup株式会社にて事業開発、フリーランスエンジニアも兼業している。趣味は温泉巡り。

インキュベイトファンドにてインターン中の大学三年生。yup株式会社にて事業開発、フリーランスエンジニアも兼業している。趣味は温泉巡り。

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