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2021/07/5

「自分が新卒VCだった当時の環境を再現したい」インキュベイトファンド赤浦さんが新卒VCにかける思い

執筆者:

上原 晶

こんにちは、インキュベイトファンドインターンの上原晶(うえはら・あき)です!

現在は慶應義塾大学商学部を一年間休学し、上海にある復旦大学にオンライン留学をしています。中国語で中国の経済や社会情勢、法律などを学んでおり、インキュベイトファンドでは中国語力を活かしたリサーチやオウンドメディアの記事執筆などを担当しています。将来はベンチャーキャピタリスト志望です。

インキュベイトファンドは、「志ある起業家の挑戦を、愚直に支え抜く」をモットーに、創業期の投資・育成に特化した独立系ベンチャーキャピタルです。シード期のスタートアップへの投資において、国内最大級の実績を有しています。

同社は、2021年度から新卒採用を開始しました。この独立系ベンチャーキャピタル業界では珍しい新卒採用は、日本にベンチャーキャピタリストを増やしたいという、インキュベイトファンド 代表パートナー 赤浦 徹さんの強い思いから始まっています。

──現在世界をリードしているGAFAは、創業初期にリスクを取って資金を投じ、伴走し続けたベンチャーキャピタルの存在があって今の姿がある。世界を代表する企業を再び日本から創出していくためには、より多くのベンチャーキャピタリストが必要だ──

赤浦氏の新卒採用にかける思い、そして次世代のベンチャーキャピタリストへの期待についてお聞きしました。

※編集部注:この記事は上原晶さんのnoteからの転載です。
転載元:「自分が新卒VCだった当時の環境を再現したい」インキュベイトファンド赤浦さんが新卒VCにかける思い

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インキュベイトファンド 代表パートナー
赤浦 徹氏

ジャフコにて8年半投資部門に在籍し前線での投資育成業務に従事。1999年にベンチャーキャピタル事業を独立開業。以来一貫して創業期に特化した投資育成事業を行う。2013年7月より一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会理事。2015年7月より常務理事、2017年7月より副会長、2019年7月より会長。東海大学工学部卒。

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『21世紀のソニー、松下、トヨタ、ホンダ』を創るために、日本の独立系ベンチャーキャピタルを増やしたい

上原:赤浦さんは日本のベンチャーキャピタルを増やしていくため、今回開始した新卒採用だけでなく、中途で採用したアソシエイトやその他有望な人材への独立支援などをされてきたと伺っています。なぜ、日本により多くのベンチャーキャピタルを生み出したいのですか?

赤浦:次の時代の世界を代表する会社を日本から輩出していくためには、独立して投資する能力のあるベンチャーキャピタリストが、創業初期から徹底的に起業家を支える必要があると思うからです。

僕がジャフコに新卒入社して在籍していた1990年代、アメリカのベンチャーキャピタルは個人のGP(General Partner・無限責任組合員)によるパートナーシップ制が主流でした。それに対し、日本のベンチャーキャピタルはほとんどがサラリーマンのキャピタリストが働く会社型VCでした。

パートナーシップ(組合)制とは
個人と個人が契約して一緒に業務執行し、利益を分配する。個人が無限責任のリスクを負う代わりに、組合のリターンがそのまま個人に分配される。

会社型(コーポレート型・企業型)VCとは
所有者と業務執行者が一致しない。金銭的なリスクを負うのは企業やその株主であり、キャピタリスト個人に責任はほとんどない。

参照:【2020年専門家監修】ベンチャーキャピタルとは?初心者でもわかりやすく解説
ICCパートナーズ 小林雅のBlog:パートナーシップ制とは?


当時このアメリカ─パートナーシップ制、日本─会社型という対比を見たとき、日本でもベンチャーキャピタルは会社ではなく個人がやるべきだと思いました。

理由として、会社型VCでは、異動などでキャピタリストが担当を外れ、起業家とずっと伴走していくことができない場合があります。また、パートナーシップ制では覚悟を持った個人のキャピタリストが金銭的リスクを負って投資するため、自分もリスクを取る立場でこそ起業家に意見できると思うからです。

アメリカでGAFAがここまで大きくなった背景には、創業初期から起業家に伴走し、人もお金も集めてきて成長を支えたベンチャーキャピタルの存在があります。

平成が「失われた30年」と呼ばれ、世界を代表するような会社が生まれてこなかった原因は、日本のベンチャーキャピタルの力不足です。『21世紀のソニー、松下、トヨタ、ホンダ』を創るためには、覚悟を持って資金を集めて起業家に伴走できる独立系ベンチャーキャピタルを増やし、スタートアップに流入する資金量を増やしていくことが必要です。

自分が新卒で能力を高めていけた環境を再現したい

上原:インキュベイトファンドの新卒は、入社から約8年後の独立を前提としています。わざわざ8年間の時間と労力、お金をかけて新卒から育成するのはなぜですか?

赤浦:インキュベイトファンドのGPは、自分も本間さんも和田さんも村田さんも新卒でベンチャーキャピタルに入社しています。ジャフコでは先輩・後輩・同期と競い合って切磋琢磨し、たくさんの経験を積んで失敗もさせてもらいました。そうして当時自分がベンチャーキャピタリストとしての能力を高めていけた環境を、今の世に再現したいという思いがあります。

上原:ベンチャーキャピタリストとして独立するために、新卒にはどんな能力を身につけていってほしいですか?

赤浦:ベンチャーキャピタルのパフォーマンスは、個人の能力に帰属します。ベンチャーキャピタルが成功するには、根幹となる個人の能力をとことん高めるしかありません。新卒には、8年間の修行を通して、スキル・知識・経験・ネットワーク、そして一番大切な「世の中を自分が変えるんだ」という思いを身につけてほしいです。

8年間の修行の道のり

上原:ベンチャーキャピタリストに必要な能力を身につけるために、具体的にはどのように修行していく計画ですか?

赤浦:最初の3年間は、事業開発アナリストとして自由に動いて経験を積み、OJT(On the Job Training)を通して個人の能力を高めていくフェーズになります。いわゆるソーシングに集中してもらいます。たくさんの起業家と出会い、魅力的な人を見つけてきてほしいと思っています。

上原:イケてる会社を探してくるのではなく、魅力的な「人」を見つけてきて、一緒に事業を練り上げていくというのがインキュベイトファンド流の特徴ですよね。

赤浦:魅力的な人を見つけてくると同時に、新卒のみんなには自分なりの事業アイディアやビジネスモデルを考えてもらいます。そして、自分が魅力的だと思う相手とお互いに「こんな事業はどうか」「こうすれば勝てるんじゃないか」と意見を言い合い、一緒にゼロイチを創る仲間になってほしいと思います。

最終的には「この人とこの事業をやりたい」とセットにして社内会議に出してもらい、サーキットミーティングに出せるかどうか社内の全員で評価します。サーキットミーティングは投資意思決定者だけが集まる資金調達&事業相談会イベントなので、そこへの参加は起業家にとって資金調達に直結する可能性が高いです。

上原:21卒の皆さんが入社されて約2ヶ月が経過しましたが、自分なりのやり方を考えて起業家さんとの出会いやサポートに取り組んでいるのが印象的です。基礎研修などの制度はあるんですか?

赤浦:3ヶ月に1回のペースで5日間集中の研修を行っていく計画です。4月の初期研修は無事終了し、次は7月に4泊5日の八丈島合宿を行う予定です。今回は、2021年3月に新たにGPとして参画したポールに担当してもらい、マッキンゼーのコンサル育成のノウハウを活かした研修をしてもらいます。コンサルとベンチャーキャピタルでは共通して使えるスキルもあると思うので、新卒が何を吸収してくれるか楽しみです。

上原:3年間、事業開発アナリストとして経験を積んだら、次は何をしますか?

赤浦:4年目からはアソシエイトとして、従来の中途採用のアソシエイトと同じ動きをしてもらいます。GPの補佐をしながら一番近くでノウハウを吸収し、投資や支援の実務スキルも身につけていきます。その5年後を目安として独立に至ります。

上原:最近だとゼロイチキャピタルの種市さんが、インキュベイトファンドのアソシエイトを経て独立されていますよね。インキュベイトファンドのアソシエイトが独立する際には独立資金としてインキュベイトファンドから5億円前後のLP出資(Limited Partner・有限責任組合員としての出資)を受けられると伺っていますが、出資の条件は何ですか?

赤浦:原則、決められた期間をやり遂げたアソシエイトにはもれなくLP出資しています。インキュベイトファンドにはIFLPというLP出資のためのファンドがあるので、今後も引き続き独立系ベンチャーキャピタルを増やすための支援をしていきたいと考えています。

また、独立後もソーシング支援を通してサポートしていきます。前述のサーキットミーティングにパートナーファンドとして参加してもらうことで、優秀な新卒がソーシングしてきた起業家と出会い、投資につなげることができると思います。

キャピタリスト自身も、リスクを負って挑戦する

上原:赤浦さんが独立された1999年頃に比べ、現在は赤浦さんの働きかけもあってシードVCの数が増え、比較的規模の大きなファンドも見られるようになってきました。競争環境が激しくなる中、5億円規模のシードVCではできることがかなり限られると考えられますが、インキュベイトファンドから独立したキャピタリストはどんな勝ち筋を見出せるとお考えですか?

赤浦:インキュベイトファンド流では、いいスタートアップを探すのではなく、起業家と一緒に創ります。なので、他のベンチャーキャピタルとは競合しません。

ベンチャーキャピタルはスタートアップの経営こそしませんが、起業家と同じく挑戦者であり、キャピタリスト自身が起業家であるとも言えます。5億円規模のシードVCだらけになると勝てないと言うのは、起業家がたくさんいると次の成功するスタートアップはもう創れないと言うのと同じです。5億円持っていて、かつ8年間の経験とネットワーク、そしてスキルを身につけているのだから、どういう投資や支援をすればうまくいくかは自ずとわかるはずです。

ファンドの規模は問題ではなく、いかに自分がやりたいと思える事業アイディアを発案し、一緒にやりたいと思える起業家と出会い、本気でぶつかり合う中で真の信頼関係を築けるかという、変わらぬ基本を大切にしていってほしいと思います。

もちろん主役は起業家自身であることが前提ですが、キャピタリストも、お金やアイディアを出し、時間と労力をかけ、自分の信頼をかけてお金や人を集めてスタートアップを成功させようと一緒に走る仲間です。社会的・金銭的リスクをともに負うからこそ、本気で意見を言い合うことができ、一番近くで寄り添うことができるのだと思います。

自分がいなかったら起きていない変化を起こしたい

上原:日本に独立系ベンチャーキャピタルを増やしていくために、今後はどんな打ち手を考えていますか?

赤浦:新たな試みである新卒採用がまだ始まって1年目の段階なので、まずは今の取り組みを続けていきたいと思います。また、10年以上前から続けている、LP出資による独立支援も引き続きやっていきます。

上原:最後に、日本の将来を担う世代の読者へのメッセージをお願いします。

赤浦:僕は今、宇宙を日本の新産業の柱にしていくチャレンジをしています。そして、宇宙のことを考えていて感じるのが、巨大な宇宙という存在からすれば大抵のことは誤差だということです。でも、だからこそ、一回しかない人生、どうせ誤差ならできるだけ大きなチャレンジをして、少しでも大きなインパクトを残したいと思うのです。

自分が存在した意義を残すためには、ベンチャーキャピタルはすごくレバレッジが効いたいい仕事です。僕の仕事はゼロイチのきっかけをたくさん創ることですが、たとえばその「1」を一緒に立ち上げた起業家が、その事業を時価総額1兆円にしてくれるかもしれません。自分が創業初期を共にしたうち10人の起業家が時価総額1兆円の企業を育ててくれたら、自分がいなかったら生まれていなかったかもしれない10兆円の価値が創出されたことになるんです。

人生で少しでも大きなインパクトを残したいなら、自ら起業するのはもちろんいい手段です。ただ、可能性溢れる皆さんには、自分が起業する側になるのか、支援する側になるのか、どちらが向いているのか一度考えてみてほしいと思います。

ベンチャーキャピタリストは同時にたくさんの起業家と伴走する中で、やればやるほど経験値やネットワークがたまっていき、より大きなチャレンジができるようになっていきます。世の中に誤差ではない変化を起こしたい皆さん、ぜひ、ベンチャーキャピタルの世界にチャレンジしてください

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今後もインキュベイトファンドインターンとしての気づきや、中国スタートアップに関するnoteを書いていきますので、よろしければTwitternoteの方フォローしていただけると嬉しいです!

上原 晶

寄稿者

慶應義塾大学商学部に在学中。ベンチャーキャピタル「インキュベイトファンド」のインターン生として、リサーチ業務などを担当しています。中国語を学習しており、中国スタートアップに興味があります。大学卒業後はベンチャーキャピタリストとして、起業家と伴走していきたいと考えています。

慶應義塾大学商学部に在学中。ベンチャーキャピタル「インキュベイトファンド」のインターン生として、リサーチ業務などを担当しています。中国語を学習しており、中国スタートアップに興味があります。大学卒業後はベンチャーキャピタリストとして、起業家と伴走していきたいと考えています。

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