近年スタートアップ業界でコンサル出身者の起業が増えてきており、起業やスタートアップへの参画に興味がある現役コンサルタントの声も、ベンチャーキャピタルにまで届いている。スタートアップに興味のある現役コンサルタント・コンサル経験者の方々に向けて、コンサル出身起業家のリアルな経験を共有することで起業の解像度を高め、一歩踏み出す勇気を持つ一助としたい。
今回登壇いただくのは、コンサルタント出身で起業された株式会社Yuimediのグライムス 英美里氏と、創業期での参画を経験されたピクシーダストテクノロジーズ株式会社の村上 泰一郎氏だ。2021年3月にマッキンゼーからインキュベイトファンドに参画したポール・マクナーニと、多くのコンサル出身起業家を支えてきた村田 裕介からも、蓄積されたナレッジを共有する。
【プロフィール】
株式会社Yuimedi CEO
グライムス 英美里氏
京都大学薬学部卒業、薬剤師免許取得後に武田薬品工業株式会社へ入社。開発部門にて治験管理に従事後、産官学を通じた日本の医療システムの改善に興味を持ち、スイスチューリヒ工科大学にて医学産学薬学のマスターを取得。その後、マッキンゼーアンドカンパニーにて経営コンサルタントとして活躍し、2020年に株式会社Yuimediを創業。
Pixie Dust Technologies, Inc 代表取締役COO
村上 泰一郎氏
東京大学工学部マテリアル工学科卒業後同大学院にてバイオマテリアルを専攻。修士(工学)。その後アクセンチュア戦略コンサルティング本部にてR&D戦略/デジタル化戦略/新規事業戦略等を中心にテクノロジーのビジネス化を支援。また同社在職中にベンチャー技術の評価と大企業への橋渡しを行う新組織(Open Innovation Initiative)、およびイノベーション拠点(Digital Hub)の立上げにも参画。外資系VCの日本支社立上げや技術ベンチャー支援等を行ったのち、2017年にPixie Dust TechnologiesへCOOとして参画。一般社団法人未踏のエグゼクティブアドバイザーも兼任している。
インキュベイトファンド 代表パートナー
ポール・マクナーニ
1997 年にリクルートに⼊社し、デジタル事業の⽴ち上げとネット系企業のベンチャー投資 を主幹。リクルート在籍時にメディオポート(オンラインゴルフ予約)の⽴ち上げに参画し、2002 年に楽天に事業を売却。
2002 年にリクルート からマッキンゼーに転職し、2007 年にパートナーに昇格し、2014年にシニアパートナー。アジア太平洋のマーケティング&セールスグループの責任者、アジア太平洋のアナリティクスグループの責任者、QuantumBlack Japan のマネージングパートナー、アジア太平洋の消費財・⼩売グループの責任者を歴任。
マッキンゼーにおいて⼩売、消費財、メディア、通信、⾦融、製薬の各業界の顧客に対して成⻑戦略やデジタル・AI、ブランディング、マーケティング、M&A の各領域における戦略と事業⽴ち上げの⽀援を実施。
2021年3月より、インキュベイトファンド代表パートナー就任。
インキュベイトファンド 代表パートナー
村田 祐介
2003年にエヌ・アイ・エフベンチャーズ株式会社(現:大和企業投資株式会社)入社。主にネット系スタートアップの投資業務及びファンド組成管理業務に従事。2010年にインキュベイトファンド設立、代表パートナー就任。
2015年より一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会企画部長を兼務。その他ファンドエコシステム委員会委員長やLPリレーション部会部会長等を歴任。
Forbes Japan「JAPAN's MIDAS LIST(日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキングBEST10)」2017年第1位受賞。
近年、コンサル出身起業家が増加している
──順番に自己紹介をお願いいたします。
グライムス:株式会社Yuimediのグライムスと申します。弊社は2020年11月末の設立で、設立の1年ほど前からインキュベイトファンドの村田さんと一緒にどういう会社にしようかということを話し合っていました。事業内容としては、医療データクレンジング自動化ソフトウェアの開発、医療データベース構築のサポート、医療データの分析、調査、それに伴うコンサルティング業務を行っております。
私自身の紹介をさせていただきますと、京都大学の薬学部出身で、薬剤師の免許を取った後に、武田薬品の臨床開発の部門にて開発の仕事をしておりました。その後、海外で勉強してみたい思いがあったので、製薬業界にグローバル化の波が来たこともあり、スイスのチューリッヒ工科大学にて医学産業薬学のマスターを取りました。日本に帰国してからはマッキンゼーアンドカンパニーにてコンサルタントとして働いておりまして、その後にこのスタートアップ界隈に飛び込み、今に至ります。共同創業者CTOのエンジニアも同じくマッキンゼーの出身で、ダブルマッキンゼーで創業しました。
我々がしようとしているのは、医療リアルワールドデータのデジタル集積とクリーニング、分析の自動化です。実現したいのは、医療リアルワールドデータを綺麗にすることで医療の研究が進み、医療の質の向上につなげることです。データを綺麗にするのを足掛けに、医療業界全体のデジタルトランスフォーメーションの足掛かりになれば良いなと思っております。
医療リアルワールドデータとは、問診データ、画像データ、服薬のデータなど、みなさんが病院に行ったときに発生する全てのデータです。これらのデータは色々な機関や色々な場所にバラバラのフォーマットで保存されていて、折角の貴重なデータが解析等に使われにくい現状があります。我々の事業は、それを綺麗にするところにフォーカスしています。
今、このような医療ビッグデータ・リアルワールドデータをいかに次の研究に役立てていくか、というところが非常に注目を浴びている分野になっています。15年くらい前にビッグデータという言葉が使われ始め、それに伴って5、6年前くらいから製薬会社にこのようなデータを扱う部署が新設され始めています。政府がリアルワールドデータを利活用した医薬品の承認のガイドラインを作成したなどの後押しもあり、市場としては成長している分野になっています。
──続いて、村上さんお願いいたします。
村上:Pixie Dust Technologiesの村上です、よろしくお願いします。Pixie Dust Technologiesは2017年の5月に作った会社で、メンバーは60数名います。CEOは筑波大学の准教授でもある落合陽一で、私と共同代表になっています。
私自身は、東大でDNAのシークエンサーのようなバイオセンサーをやっていて、その後、アクセンチュアの戦略コンサルティング本部に入ってR&D戦略やニュービジネスをやっていました。その後、ベンチャーやオープンイノベーションがブームになってきたこともあり、大企業とベンチャーのオープンイノベーションを促進するような組織体を立ち上げて、そのフィジカル拠点を立ち上げて、辞めて、今に至ります。
我々は筑波大発のR&Dベンチャーだと申し上げましたが、いわゆる大学発のベンチャーと少し形が違っていて、一つの技術を製品化して社会に出したいのではありません。大学や社内から生み出されてくる新しい技術を、社会に存在する課題・ニーズドリブンで連続的に社会実装する仕組みを作りたい、といって立ち上げた会社です。特定の技術を社会実装するのではなく、どんどん新しい技術を社会実装し、それによって世の中の課題・ニーズを満たしていく、それによって社会的意義をしっかり出していく、というところに重きを置いた会社です。
そういった会社ですので、扱っている技術領域はいくつかあります。大枠で言うと、ワークスペースという空間のデジタルトランスフォーメーションに関わるような技術群と、ダイバーシティやヘルスケアに関わる技術群があります。
──では、続いて村田さんお願いいたします。
村田:今回の登壇者の中では唯一コンサル出身者ではありませんが、簡単にキャリアをご説明します。VC歴は2003年からなので18年くらい、インキュベイトファンドを作ってからで丸11年です。学生時代は自分でスタートアップをしていたことがあり、金融機関向けのSaaSを作っていました。その学生ベンチャーでの失敗を経て、再度起業でリベンジするためにVCに入ったらVCに深く染まってしまって18年強、というキャリアです。
もともとコンシューマーインターネットやBtoB SaaSのような領域が好きだったのもありますが、特にこの5、6年くらいは研究開発型、テクノロジードリブンな会社をゼロから仕掛けて立ち上げることがすごく多かったです。そもそもインキュベイトファンドでやっていることは、良い会社を見つけて投資するのではなくて、良い会社を作りそうな人を見つけてきて一緒に立ち上げるというスタイルです。グライムスさんのYuimediも村上さんのピクシーダストも、ゼロから一緒に立ち上げてきたというところもあります。
この5、6年くらいの設立に関わってきた会社の半分くらいの創業者がコンサル出身者、特に何故かマッキンゼー出身者が多くて、やたらとコンサル出身者の方々が多いなという感じがします。理由としては、スタートアップのテーマとして特定のインダストリの問題解決をすることが増えてきたからという点が考えられますし、市場背景としては研究開発型スタートアップにおいてサイエンティスト×Bizが強いコンサル出身者が活躍しやすいという点が考えられると思います。
なにより、投資家にも起業家にもコンサル出身の人が増えたことで、お互いにリファレンスを取りやすくなったのだろうと思います。リファレンスを取れると言うと格好が良いですが、要はすごく活躍する同期のコンサル出身の人達が出てくるとムラムラしてきてしまうということです。あいつにできて自分にできないことは無い、という思いや、あいつがこれくらいやれるのなら自分もこれくらいやってやろう、という気概でやっている方々も多いのではないでしょうか。
──続いてポールさん、お願いいたします。
マクナーニ:インキュベイトファンドのマクナーニです。18年間コンサルティングから、2020年3月にベンチャーキャピタルに参入した新人になります。ベンチャーの世界との絡みでは、1997年から2002年までリクルートのベンチャー投資の窓口をしながら事業を立ち上げることをさせていただいた後、マッキンゼーに入っています。ベンチャーの世界とは縁があり、ここ7、8年くらい私の周りの若者がマッキンゼーに入っては辞めてという中で、彼らの行き先の変遷を見てきました。
15年くらい前ではプライベートエクイティに行く者が非常に多かったのですが、10年くらい前では製薬会社など事業会社に行く者が多く、ここ7、8年くらいではベンチャーの世界に行く者が増えてきています。これは非常に良いことだなと思っています。ベンチャーが良いキャリアパスだと認識され始めているようなので、それはすごく嬉しく思っています。
色々と不思議なご縁があって、去年にインキュベイトファンドの共同代表の赤浦さんから声をかけて頂いて、この3月から合流しました。後ほど、なぜそうしたのかを含めて共有したいと思います。今日は、皆さんにとってベンチャーという世界に対する理解を深めて頂けると良いなと思います。よろしくお願いいたします。
実現したい世界観があって、その手段としての企業
マクナーニ:まずは、どういうきっかけや思いがあってベンチャーの世界に飛び込んだのかというトピックから始めていきたいと思います。英美里さん、そのあたりいかがですか?
グライムス:振り返ってみると、昔からヘルスケア業界を変革したいという思いがあり、そこが一貫しています。武田薬品での経験とスイスの大学院での学びを通じて、産官学が一体となった変革が必要だと考えるようになり、分野の壁に捉われず扱うことのできるコンサル会社に入ることにしました。マッキンゼーで色々と勉強させていただいた中で、私は自分が作ったプロダクトをお客さんに届けることに喜びを感じるのだと気づき、次に事業会社に戻るか自分で会社を作るか考えました。海外にいた経験から日本の経済の衰退を感じており、スタートアップの新陳代謝がもっと活発になるべきだと考えていたので、自ら起業することを決意しました。
マクナーニ:世界を変えたい思いが根本にあって、色々な道を経ているんですね。村上さんはいかがですか?
村上:昔話からになってしまいますが、私はエンジニアになろうと思って生きていました。コードを書き始めたのが小学1年生か2年生の頃で、自分でゲームを作って遊ぶことから始めてものづくりをしていました。しかし、高校時代に具体的に調べてみたら、日本のエンジニアは待遇がよくないとか、研究開発のROIがあまり高くないなどということがわかりました。それ以来、日本の研究開発のROIを上げることが長年のモチベーションになっています。コンサルに入った理由は、コンサルタントは「企業のお医者さん」だと聞き、であればコンサル側からオープンイノベーション等を仕掛けて研究開発ROIの高い企業作りのベストプラクティスを作ることで、日本企業全体の研究開発ROIを上げたいと考えたからです。
他方でもう少し事業寄りの手触り感のあることをしたいと考えていたタイミングで、久しぶりに落合と会いました。そのときに、言葉こそ違いましたが、課題・ニーズドリブンで社会的意義のあるものを創りたい、そして研究開発のROIを高めたいという目的が一致しました。そうしてピクシーダストを設立することになったのですが、自分の場合はスタートアップに飛び込みたくて起業したというよりも、目的を達成するための手段として落合との起業がしっくりきたという方が正しいかと思います。
マクナーニ:たしかに、この世界は不思議なご縁が多い世界だと改めて感じます。スタートアップに飛び込んでいくにあたって、周りの心配や自分自身の不安などはありませんでしたか?
村上:私の場合は、アクセンチュアを辞めてから2017年5月にピクシーダストを立ち上げるまでにギャップ期間があってフリーランスで友達の会社を手伝ったりしていたので、ピクシーダストにフォーカスすることに対して周りの心配は特にありませんでした。
マクナーニ:英美里さんはどうですか?武田薬品、大学院、マッキンゼーと来て、そんなことするの?と周りから心配されることはありませんでしたか?
グライムス:色々な人を心配させていて、特に親には一番心配をかけています。結婚相手に外国人を連れてきたことに始まり、海外に移住して、第二子を妊娠中にマッキンゼーに入り、第二子が生まれた直後に起業と、やりたい放題しているので。人生一度きりだからやりたいことをしたいと思っています。主人がアメリカ人なので、そのあたりはとてもサポーティブで助かっていますが、日本の友人はあきれている部分もあると思います。
マクナーニ:私は妻が日本人で、妻の親にはすごく迷惑と心配をかけているので、なんとなくわかります。村田さんはお二人の起業に踏み出すまでのプロセスを見てきていると思うのですが、お二人とのエピソードを教えていただけますか?
村田:グライムスさんとの出会いは、会社設立の一年ぐらい前にヘッドハンターから紹介されてお会いしたときでした。第二子を出産された直後からお会いして、最初から起業というキャリアチェンジの選択肢を持っているのは相当な腹の括り方だな、と感じました。やりたいことは医療の負の解消という一貫したものがあったのですが、今のプロダクトの原型となるアイデアに行きつくまでには二転三転しました。もう一人のマッキンゼーの方を引っ張ってくることも一緒にやっていて、グライムスさんにとっても現CTOにとっても良いタイミングでスタートできました。
村上さんとは落合さんと一緒にビジネスサイドの方を探している中で出会いました。当時から落合さんは日本を代表するトップマネジメントの人たちとどんどん繋がっていくので、面白いフックはかけられるのですが、全然クロージングできなくてビジネスに繋がらないという状況でした。それがピクシーダストがまだアメリカ法人だった頃で、2017年5月に改めて日本法人を設立することになり、村上さんには日本法人創業メンバーとしてジョインしてもらいました。
エピソードを語ればキリがないのですが、泥臭いプロセスで色々な偶然と運が重なって一緒にスタートできたなと思っています。お二人は私が関わらなくても何らかの形でスタートアップに飛び込んでいたとは思いますが、私としては、とても良いご縁があって一緒にスタートできたと感じました。
日々変わる課題を、コンサル時代に培ったキャッチアップスピードでなんとかしていく
マクナーニ:コンサル出身者が実際にスタートアップをやってみて、というところで、どんなところが一番イメージと違いましたか?
グライムス:一番違ったことは、日々問いが変わるということです。マッキンゼーでは問題解決能力をすごく鍛えてもらえるので自信があったのですが、そもそもの問いが変わるので、問題解決する前に何が問いかを日々考えることがすごく大変です。
もう一つは、全部の分野について自分でやらないといけないということです。朝はリーガルの話をしていて、次の瞬間はHRの話、次の瞬間はファイナンスの話、次はプロダクトをエンジニアと話して、というように、頭の切り替えが非常に大変だと感じました。
マクナーニ:持ったイメージと実際に入ってみた後の差について、村上さんはいかがですか?
村上:先ほどのグライムスさんの話と近いのですが、そうなるだろうなと予想していたところはあります。兎にも角にも何でもやらないといけないな、というのはありました。落合と私の二人で仕事をしていたときはオフィスも無くてルノアールで仕事をしていたのですが、やはりスタートアップはもっと煌びやかなイメージではありました。やってみたら全くそんなことは無く、ひたすら泥臭く地べたで勝負している感じがあるのがギャップといえばギャップでした。ただ、それを望んでいたところもあったので、すごく良かったです。
マクナーニ:アクセンチュアで戦略系のことをされながら、そこで得たスキルが一番活きているのはどの辺ですか?
村上:そもそも私がコンサルタントだったのは6、7年くらいなので、コンサルで得たスキルを語るのはおこがましいとも思うのですが、いくつかあります。戦略コンサルタントは薄く広い感じのスキルセットになるのが悩みで、特定の専門性を培うというよりは思考のフレームであったり自分の脳みそのパフォーマンスを最大化するチャレンジをずっとしてきていました。実はそういうトレーニングがスタートアップの立ち上げ期のなんでもやらないといけない状況に意外とフィットしていました。何でもかんでもタックルして問題を解いていく、問題がすぐに変わってもキャッチアップスピードはコンサルタント時代に培われるのでなんとかなる、みたいなところが当初は一番役に立ちました。
今は、どちらかというと昔の仲間がいまだに力を貸してくれたり相談に乗ってくれたり人を紹介してくれたりしてくれる、というのがすごくいいなと思っています。
マクナーニ:ネットワークは大事ですね。英美里さんはこの世界に入ってこられて、このスキルは役に立ったな、とかこの経験は役に立ったな、というのはありますか?
グライムス:問題解決のフレームワークなどは、未だにマッキンゼー流を活用させていただいています。相方もマッキンゼーなので、コミュニケーションコストが限りなく低くなっています。あとは、マッキンゼーの方々はフットワークが軽いので、誰でもすぐにお話ししてくれるのがとてもありがたいです。そういったカルチャーはとてもいいなと思っているので、私たち自身も学ばせていただきたいと思っています。
マクナーニ:村田さん色んなバックグラウンドのファウンダーを見ていると思うのですが、他の色々なタイプに比べてコンサル出身者はこういうのが良いよね、などありますか?
村田:スタートアップ創業者に一番必要かつ創業期のメンバーに大事な能力は、グリット、やりきる力です。コンサル出身の方々は、馬車馬のように働きます。結果が出るまで絶対にやりきる、という特性のある方々が集まっています。想像するようなスマートな方々も居るのですが、スマートな部分もありつつ、結局裏側は目茶苦茶なグリットが一番の力なのかなと思います。特に30代、40代前半くらいまでは、すごい努力が後ろ側にあって、成果が出ているケースがすごく多いです。
マクナーニ:村田さんから見て、他のコンサル出身の方に逆にこういうことは忘れてきて欲しかったな、若干アンラーニングして欲しかったなどはありますか?
村田:コンサル出身者の方は誰よりも働くので、あまりに先に走りすぎて周りに誰も残っていないことがあります。なので、もう少し周りと調和するというのは考えたほうが良いかもしれないです。そのあたりはチームの体制に合わせてアンラーニングしていくことが必要ではないかと思います。
マクナーニ:英美里さんは、この辺のスキルは押さえないといけなかった、違うやり方が必要だったな、などどうですか?
グライムス:マッキンゼーに居るとマッキンゼーの人としか基本的に話さず、またクライアントも特定の人と話すことが多いので、共通言語でスピード感早く話してしまうのですが、スタートアップになると色々な人と話すようになるので、調整した方がいい場面もあると感じました。とくに、専門性の全く違う人たちと仕事をしていくことになるので、エンジニア、医者、技術者などさまざまな言語や文化、世界観を持つ方々との話し方を頭に入れなくてはならないと感じています
マクナーニ:村上さん、そのあたりはどう感じましたか?
村上:用語問題はあります。油断すると直ぐカタカナ語が出てしまうので、そこは未だにアンラーンしきれなくてすごく困っています。色々と頑張って、漢字というか大和言葉にしています。
自分で起業してみて気づく、組織づくりの重要性
マクナーニ:ここ4年くらいでここはすごく伸びたな、など追加したスキルは何かありますか?
村上:時期によって違います。これは半分くらいアンラーニングになるかもしれませんが、特に創業初期では動かしてナンボというところがあるので、計画と実行のバランスを相当に実行側に振ります。2・8の法則など言いますが、2・8どころではなくて0.5くらい計画してGO、みたいな感じで実行に移してしまいます。計画と実行のバランスをシフトさせる、あるいはタイミングに応じて計画と実行のバランスを調整する、というところはコンサルタント時代にはそこまで意識していなかったので、そこは自分なりに伸ばそうとしている最中です。
会社規模が大きくなってくると、今度はコンサルティングの時にはそんなに意識していなかった組織づくりなどに目を向ける必要が出てくると感じています。コンサル時代は自分でチームを持ったとしても数名のチームを何個か持つという感じだったので、それに比べると我が社も全部で70人くらい居ますので、そういったところをハンドリングしていくとなると、組織づくりやカルチャーづくりに目が向いてきます。ここは伸ばせたというよりは一生懸命チャレンジしているところです。
マクナーニ:コンサルティングで組織デザインのプロジェクトもするけれど、何万人、何十万人いる組織をどういう構造にするかというものなので、数十人規模の組織の構造を考えなさいと言われてもわからないですよね。英美里さんは、やり始めてこのあたりは成長したな、というところはありますか?
グライムス:スタートアップのことを考え始めてからのほうが、自分自身は成長スピードが速くなったと感じることが多いです。スタートアップは自分事化がすごく、当たり前ですが他の誰かがやってくれることはありえないし、本気で取り組んでやっとどうにかなるものなので、例えば今までなら休憩していたような空き時間も何かを調べているなど、学ぶ時間が多くなっていると感じます。
あとは、バックオフィスの大切さを感じました。例えば、契約書を書きたいとなった時に、普通の大きい企業では雛型があります。でも、自分で立ち上げたら雛型すらないので、ゼロから弁護士に相談しなくてはならず、この辺りはコンサル時代には全く考えもしなかったことでした。名刺ですら、自分で作らないといけない。そういったところで、いかにバックオフィスの人たちの働きや今までの会社の歴史が働きやすさを作ってくれたのか、というところに感謝するようになりました。
マクナーニ:村田さん、もう少し長いスパン、10年単位で見ると、コンサル出身者の人は成長過程でどのあたりが伸びると思いますか?
村田:組織づくりのところがハマり始めると、グッと伸びるというところはあると思います。最初はビジネスサイドの人間だけでスタートすることも多いので、エンジニアリングがわからないからプロダクトの作り方がわからないであったり、優秀なエンジニアをどう見分ければいいのかわからないなどの事態に陥りがちです。村上さんはそもそもエンジニアの素地がありますし、グライムスさんは相方がスーパーすぎるエンジニアだったので易々と乗り越えていますが、そこで躓くケースは多いと思います。プロダクト作りとビジネスと、どう役割分担をして采配していくかの勘所が掴めると、個人がポテンシャルを一気に引き出せて会社そのものも飛躍していくのかなと思います。
挑戦する勇気があれば誰でもできる
マクナーニ:実際やろうとするとわからないことだらけだと思いますが、この本を読んで役に立った、こういう人に相談しながらやったなど、英美里さんはどういうソースに行ったのでしょうか?
グライムス:まず村田さんです。
村田:本当に細かいところまで、毎週定例をして色々と話をしながらやっています。ピクシーダストのアメリカ法人時代は、私が経理など全部巻き取っていたなんていう時もあって、全然参考にならない時代もありました。とにかく、知っている身近な人に聞くというのが一番の解決策です。
マクナーニ:村上さんも、そんな感じでしょうか?
村上:本の話で言うと、ファイナンスに関しては結局起業のファイナンスが良かったです。
マクナーニ:定番ですね。
村田:あれは絶対です。
村上:定番ですが、定番になるだけあって、すごく勉強になりました。あとはイソログを読む、というところは普通に勉強になりました。あとは、村田さん以外だと、先輩起業家や前職のOBなどに話を聞きながらやっていう感じでした。
マクナーニ:最後に、同じコンサル出身といえど色々なバックグラウンドの違いもあると思いますが、こういう人は向くのではないか、というものはありますか?村上さん、いかがですか?
村上:コンサル出身者でという前提を置くと、挑戦する気概がある人はまず向いているのではないでしょうか。先ほど申し上げた通り、結構スキルセット的には活かせることが多かったな、という印象があります。その中で、私やグライムスさんにとってはまさにスタートアップに生きる目的のようなものがあるので、そこに全力でチャレンジするぞ、という気概があれば、すごく良いのではないかと思います。それ以外では、うちの会社の採用要件として言っていることですが、曖昧耐性がある人はさらに向いているかもしれません。
決まり切ったルールの中でどうプレーするかというよりも、ルールメーカー側になれるような、また決まって無いからと言って手が止まってしまうのではなく、それをむしろ一緒に作り始めてどれだけ良くしていけるか、ということを考えられるスタンスがあれば、ものすごくフィットするのではないかと思います。
マクナーニ:英美里さんはどうでしょうか?
グライムス:村上さんも仰っていた通り、誰でもやりたい人はできると言える気がしています。むしろ、周りで興味あるけど踏み出さない方は悩みすぎで踏み出せないだけというか、実行すれば誰でもできると思います。その一歩の勇気があるか無いかだけではないかと思っています。あとは、私にとっての村田さんのような、運命的な出会いではないですが、村田さんがいてくれたらできるのではないか、というような一歩の勇気を持つ支えになってくれる存在に出会えるといいのかもしれません。
マクナーニ:村田さんのコマーシャルになりつつあります。お二人とも手探りの状態から一歩踏み出す勇気を持って今ご活躍されているので、少しでも起業に興味を持たれている方はチャレンジしてみてはと思います。