スタートアップ資金調達の基礎Vol.7 選ばれるピッチ資料の作り方をテンプレートを使って徹底解説!
資金調達
学びコンテンツ
2020/07/29
Media
2020/11/25
執筆者:
上原 晶
筑波大学では特別共同研究事業「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」代表 / 准教授、デジタルネイチャー開発研究センターのセンター長を務め、執筆した研究論文は最難関国際会議に採択されている落合 陽一氏。
そんな落合氏が、なぜ「DeepTech」という分野で自らスタートアップを起業したのか?インキュベイトファンド村田 祐介との出会い、その後シードラウンドで総額6.45億円の資金調達を支えた村田の想いとは。
そして彼らが2019年5月23日に実施した、シリーズBで38億4600万円という大型資金調達に至るまでの道程・背景と、これから何を目指していくのか。
2020年8月18日に開催された「THE FIRST ROUND - episode Pixie Dust Technologies -」では、代表取締役CEOの落合氏とともに、落合氏と創業前から共同研究を行いピクシーダストテクノロジーズに共同創業者として参画した星 貴之氏、そして起業から今まで伴走してきた村田が登壇し、アカデミアからの起業において課題を乗り越えていく過程で得られた知見が語られた。ファシリテーターはインキュベイトファンドアソシエイトの種市 亮。
プロフィール
ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 代表取締役CEO 共同創業者 / 博士(学際情報学)
落合 陽一
1987年生まれ。2015年東京大学学際情報学府博士課程修了(学際情報学府 初の短縮終了)。
日本学術振興会特別研究員DC1、米国Microsoft Research でのResearch Internなどを経て、2015年から筑波大学図書館情報メディア 系助教デジタルネイチャー研究室主宰。
2017年からPXDTと筑波大学の特 別共同研究事業「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」代表/准教授、デジタルネイチャー開発研究センターセンター長。
専門は、CG、HCI、VR、視・聴・触覚提示法、デジタルファブリケーション、 自動運転や身体制御。研究論文は、当該分野の最難関国際会議であるACM SIGGRAPHやACM UIST、CHIなどに採択されている。 受賞歴多数。
2015年、28歳で米国WTNよりWorld Technology Award 2015(IT Hardware)を受賞。日本人受賞者としては2014年にノーベル物 理学賞を受賞した中村修二氏に続き二人目。
また、半導体技術の大規模カ ンファレンスであるSEMICON Japanでは、40年の歴史の中で史上最年少で 基調講演を務めている。
取締役CRO 共同創業者 / 博士 (情報理工学)
星 貴之
2008年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。
日本学術振興会特別研究員DC2/PD、熊本大学助教、 名古屋工業大学特任教員(テニュア・トラック助教)、東京大学助教を経て、オープンイノベーションを促進するため、2017年当社に参画(CTO)、2018年CRO就任。 物理と数理を駆使する、波動制御技術の専門家。集束超音波による非接触インタラクションの研究に従事。文部科学省NISTEP科学技術への顕著な貢献、FA財団論文賞ほか、受賞多数。
インキュベイトファンド General Partner
村⽥ 祐介
1999年に⾦融機関向けSaaSスタートアップに創業参画し開発業務に従事した後、2003年にエヌ・アイ・エフベンチャーズ株式会社(現︓⼤和企業投資株式会社)⼊社。
主にネット系スタートアップの投資業務及びファンド組成管理業務に従事。
2010年にインキュベイトファンド株式会社設⽴、代表パートナー就任。
メディア・ゲーム・医療・フロンティアテック関連領域を中⼼とした投資・インキュベーション活動を⾏うほか、ファンドマネジメント業務を主幹。 2015年より⼀般社団法⼈⽇本ベンチャーキャピタル協会企画部⻑兼ファンドエコシステム委員会委員⻑兼LPリレーション部会部会⻑を兼務。 Forbes Japan「JAPAN's MIDAS LIST(⽇本で最も影響⼒のあるベンチャー投資家ランキングBEST10)」2017年第1位受賞。
――起業家とキャピタリストが語る起業の「Zero to One」ということで、インキュベイトファンドの投資先であるピクシーダストテクノロジーズ創業者でCEOの落合 陽一さんと共同創業者でCROの星 貴之さん、そしてインキュベイトファンドのキャピタリストでシード期から伴走してきた村田 祐介にお話しいただきます。まずは登壇者の3名の自己紹介をお願いいたします。
落合:ピクシーダストテクノロジーズCEOの落合です。米国法人「Pixie Dust Technologies, Inc.」を立ち上げたのが2015年で、その設立時から村田さんにはお世話になっています。そして、2017年に日本法人「ピクシーダストテクノロジーズ株式会社」を設立しました。日本法人を立ち上げた2017年以降は事業拡大のために多額の資金調達を実施しており、音や光、最近では空間情報などを幅広く扱いながら、技術の力で社会貢献していくような事業を行っています。
星:星と申します。10年以上にわたって集束超音波による非接触インタラクションの研究を行っており、その中で共同研究者として落合さんと出会い、ピクシーダストテクノロジーズを共同で創業しました。
村田:村田と申します。僕自身はVCの仕事を17年程度やっていて、ちょうど10年前の2010年にインキュベイトファンドを立ち上げました。その前には自分でスタートアップを起こして失敗した経験があり、2003年以降はスタートアップの投資業務に従事しています。
――本日ファシリテーターを務めます、インキュベイトファンドのアソシエイトの種市と申します。よろしくお願いいたします。
――まずは、ピクシーダストテクノロジーズの会社概要の説明をお願いいたします。
落合:ピクシーダストテクノロジーズ(以下、PXDT)は「人類と計算機の共生ソフトウェア基盤を構築する」というビジョンのもとに作られた会社です。スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなどをはじめ、機械に囲まれて生活することが当たり前になってきた現代においては、計算機時代に適応した産業、文化、学問の更新を行っていくことが重要です。
そうした変容を起こすためにはリサーチ機能と技術開発機能と事業開発機能の3つが必要ですが、PXDTは3つの機能全てに強みを持っています。また、大学等と連携することにより、アカデミア発の技術を様々な社会課題・ニーズと結びつけ、ビジネスによる価値創造を行い、連続的に社会実装していくことを目指します。
具体的な技術領域としては、音や光を活用したインタフェース技術を用いることにより、魔法のように生活に溶け込むコンピュータ技術を開発していきます。現在進行中のプロジェクトには、空間の知能化プロジェクト「KOTOWARI*」や「magickiri*」、身体的・能力的困難の超克とそれらに伴う社会課題解決に向けて取り組むxDiversity プロジェクトなどがあります。
――続いてインキュベイトファンドの紹介をお願いいたします。
村田:インキュベイトファンドは、2020年7月に250億円規模の新ファンドを組成し、累計で600億円以上の規模のファンドを運用している独立系ベンチャーキャピタルです。「First Round, Lead Position, Build Industries」を掲げ、創業期あるいは起業前の起業家と共にゼロイチを創り続けています。
最近の投資テーマは大きく3つあり、以前から得意分野である「伝統的産業領域における本質的なデジタルトランスフォーメーション(DX)」というテーマに加え、5、6年前からは研究開発型のスタートアップの支援に本格的に取り組もうという動きがあり、「先端テクノロジーの社会実装におけるイノベーション」というテーマでも積極的に投資を行っています。そして「長年レガシーが放置されてきた公共サービスのイノベーション」というテーマにおいては、特にコロナの影響で浮き彫りになった医療、教育、インフラ分野など多くの社会課題に対して、政府や行政と連携してイノベーションを推進する社会課題解決型のスタートアップを対象に投資しています。
――それでは、まず最初に創業期についてお聞きしていきたいと思います。米国法人を設立した2015年当時、落合さんは何をしていましたか?
落合:2015年の1月、僕は東大の博士課程の2年生で、ちょうどMSR(Microsoft Research)のインターンから帰国した頃でした。その頃はレーザーで空中描画する研究をしていて、博士論文の執筆をしていました。
――その当時、すでに星さんとは出会っていたんですよね。
星:はい、僕と落合さんは2012年に出会いました。落合さんは当時まだ修士課程の学生でした。
落合:研究のために市販の超音波装置よりも強い装置を探していたとき、日本バーチャルリアリティ学会のデモ展示会場で星さんと初めて出会いました。星さんがぴったりの超音波装置を持っていたので、是非一緒に研究しようということになりました。
星:論文もたくさん一緒に書きましたね、2013年から15年にかけて。当時僕は名古屋工業大学の特任教員の職に就いていて、学生の研究を後押しするような立場にいました。
落合:僕はそのあと東大の博士課程に進学し、2015年2月頃に会社を作ろうということになって、会社を設立しました。
――村田さんとの出会いもその頃でしたか?
村田:2014年の年末か2015年の年始の頃、ある著名人の方が急に僕に連絡をくれて、アカデミアにいてはもったいない天才がいるから会ってほしい、彼はスタートアップを起こすべき人材だから一緒に説き伏せようという話をされました。紹介されて初めて話したときに落合さんがしきりに言っていたのが、研究内容としては音と光と電磁波を三次元空間でコントロールする研究をしているけれども、自分のやりたいことは社会貢献であり社会実装だということでした。そこに僕としてはすごく惹かれました。
スタートアップでやるのかアカデミアでやるのかという点にはこだわりがなくて、ひたすら研究して社会実装したいという意志を持っていたのが強く印象に残っています。それを実現するための選択肢としては、アカデミアにいながら競争的資金の範囲内で自分の研究を最終的にやりきるという長期的な時間軸と、スタートアップを起こして一気にスケールさせていく選択肢と、シードでIP、モックアップ、特許などを形にしてスピーディにエグジットしてしまい、その資金であとは自由に研究していく選択肢がありました。その上で、落合さんはスタートアップを起こすという選択をしたわけです。
――当時「DeepTech」という言葉がまだ無かった状況で、研究開発型のスタートアップは投資テーマとしてどう捉えられていたのでしょうか。
村田:当時はWeb系のスタートアップが盛り上がっていて、研究開発型のスタートアップはリーマンショックの直撃を受けてほぼ全滅した状態でした。リーマンショック前まではバイオベンチャーや半導体ベンチャ―などの研究開発型スタートアップが花形と言われていたのですが、2015年にPXDTが設立されたときにはかなり珍しい存在になっていました。
――落合さんは研究開発から社会実装をしていきたいという思いをその頃に持っていたとのことですが、具体的にどういった背景があったのでしょうか。
落合:僕が27歳で当時いただいていた研究費が年間2、3000万円程度だったのですが、同じ分野で勝負してペーパーを書いていたのはMicrosoft、Google、Facebook等の超巨大企業で、まるで竹槍でマシンガンと戦っているような状況でした(笑)海外はビジネスとして研究しているのに対し日本は教育の延長で研究をしているので、全く感覚や価値観が違うし、一生どこかの研究室で研究していくと思うと正直やってられないなと感じました。
でも自分の研究成果に対しては国際会議に通ったり海外からメールが届いたりと、注目度は結構高かったので、もっと面白い着地点が見つけられるんじゃないかとも感じていました。設備面や金銭面で海外に引き離されるのがやりきれなくて、起業という選択肢に至りました。
――スタートアップの起業を誰とするか考える中で、もちろんタイミングが良かったのもあると思いますが、他の誰でもなく村田さんを伴走者に選んだ理由は何だったのでしょうか。
落合:僕は頼れる人が周りにいることが大切だと思っていて、PXDTのメンバーは最初の20人くらいまで僕より全員年上だったんですよね。村田さんと星さんは僕の6歳上で同い年です。頼れる兄貴分たちに集まってほしかったというところが大きかったのと、村田さんが特許を見たときに本気でやろうという気持ちがすごく伝わってきたのも決め手になりました。
村田:普通スタートアップをやるなら全ての退路を断って100%フルコミットしたほうがいいという話になりがちなところを、落合さんの場合は特性上複数のことに同時並行的に取り組んだ方が高いパフォーマンスを発揮するというアドバイスを紹介者の方から教えてもらっていたので、そういう意味では落合さんの能力を最大限活かす方向でサポートできたのかなと。
落合:その着眼点すごく正しい(笑)シナジーが効くことによってより大きな成果を出せるタイプなので。
村田:別々の研究や活動に何らかのつながり、シナジーが生じることもあるだろうということと、やはりアカデミアの立場があったほうが成果を発表するにもプラスになるのではという期待も込めて、必ずしもフルコミットしなくても良いということを当時2人に言いました。その分会社をやる上で面倒くさいことはCFOとして全部自分が巻き取るということも話しました。そうして一緒にスタートすることができました。
――落合さんはPXDTを立ち上げる上で研究のパートナーである星さんを共同創業者として引き込みましたが、なぜ引き込もうと思ったのか、またどうやって引き込んだのでしょうか。
落合:星さんはもはや選択肢なく、拒否権も最初から無しでやってもらっちゃいました。逆にどうして一緒にやりたいと思ったの?
星:ズブズブでしたよね(笑)一緒に会社やってなくてもずっと一緒に研究してたから、その延長線上でしかありませんでした。会社やろうと思うんだけど、来る?みたいな感じで言うから、いやでもリスクあるんでしょ、首くくるとか嫌だよって言ったら、いやいや、起業に失敗したら起業に失敗した人になるだけだよって言うから、起業に失敗した人になるだけならいいかと思って一緒にやることにしました。その時点で落合さんの研究者としての筋の良さは信頼していたので、それも決め手ですね。
――その後、創業後の会社運営に関してインキュベイトファンドとしてのサポート、伴走の形はどのようなものだったのでしょうか。
村田:週1だったり2週間に1回だったりと頻度を調整しながら、高い頻度で対面のコミュニケーションをずっと取っていました。研究の進捗のキャッチアップの話や、外注先の選定や特許の押さえ方、あとはどういった時間軸でどこまで到達するかのマイルストーン設定についてひたすら議論していました。もっと細かいところでは、経理の業務を巻き取ったりロゴ作成、名刺作成などを一緒にやったりもしていました。
――続いてはチーム作りについてお聞きしていきたいと思うのですが、星さんは当初大学の先生も並行していたところからあるタイミングでPXDTにフルコミットされましたが、そのきっかけや理由について聞かせていただきたいです。
星:2015年に起業したときはまだ名工大で大学教員をしていて、2016年から東大に移ったんですけれども、2017年5月には日本法人を設立したこともあり、その年の10月に東大を辞めてフルコミットしました。スタートアップに移ることに対する嫁ブロックはなくて、元看護師の妻は気丈なので、やればいいよと言って送り出してくれました。
職の辞め方については、2017年7月頃に会社にフルコミットするために辞めたいという話をしたところ、当時の上司にあたる先生はいずれはそう言うだろうと思っていたよと非常に快く送り出してくれて、そこから2ヶ月で調整して後任の先生も決まり、スムーズに辞めることができました。9月は大学的にもキリが良いので、切り替わり方としてはきれいにできたかなと思っています。
村田:でも結構悶々としてましたよね(笑)意思決定してからは速かったけど、そこまで行くのに。
星:学生さんも見てるし、調整が大変だなみたいなのもちょっとありました。どうすれば腹くくれるんだろうって悩んでました。
――アカデミアにいる人がスタートアップに完全に飛び込みに行くにあたって、どう踏ん切りをつけるのか、どう整理するのかというところは大きなポイントだと思うのですが、結局はどうやって覚悟を決めましたか?
星:シリーズAの資金調達の投資家回りには僕も少し顔を出していて、資金が集まる目処が見えてきていたのは大きいと思います。かつ、教員と並行して会社をやっていた時期があったので、それが準備期間になって意思決定が楽になったのもあると思います。
村田:そうは言っても自分のアカデミアの立場をなくすことにはそれなりの覚悟が必要なので、どうして覚悟を決められるのかというところは知りたい人が多いんですよ。インキュベイトファンドとしてもスタートアップを起こしてくれる先生や学生を口説きに行くんですが、特に教員となるとみなし公務員なのでなかなか価値観が合わないんですよね。それがどうやって切り替えられたかっていうのは興味ある人結構多いと思います。
落合:最近気が付いたんですが、早い方がいいと思います。30歳を過ぎてみて周りの仕事をしてる人たちを見ると、准教授や教授になると仕事のスタイルが固定化して書きもの仕事が増えてくるから、ポスドクや助教までのタイミングで起業しておいたほうが、最初の自分で手を動かしていく時間帯を楽しく乗り越えられるんじゃないかと思いました。
星:熊本や名古屋にいた頃はそれほどなかったのですが、東京で先生をしていると学会周りの委員の仕事が入ってくるので、それも懸念点になってしまうと思います。
――落合さんと星さんの2人で走る時期が長かったと思うんですが、そこからどうやって人を増やしていったのか、どのように口説いていったのか、シリーズA前後に社員数が増えた転機などの部分でエピソードをお話しいただけますか。
落合:シリーズAで資金調達してアクセル踏もうということになったときに、自分よりも経営能力が高いBusiness Developmentの責任者になってくれる人を探さなくてはと考え、SLUSH ASIAで知り合った村上さんと久池井さんが思い当たったので、口説くために飲み会をすることにしたわけです。
村田:そしたら村上さんと久池井さんと落合さんと僕で飲むはずだったのに、落合さんと久池井さんが全然来なくて、初対面の村上さんと2人であれー?とか言って先に飲んでたんですよ。
落合:着いたら2人ですごい盛り上がってて、もう帰る頃までには一緒にやりましょうぐらいの感じになってましたね。
村田:村上さんとは問題意識をすでに共有できていて、日本のベンチャー企業は竹槍で戦うのかみたいな話に非常に共感していただき、産学官の連携でアカデミックな研究開発を社会実装しようというところにもすごい共感を覚えていただいていました。当時村上さんは投資ファンドの立ち上げに携わっていて、そのタイミングで辞めるのはいかがなものかという懸念もありましたが、何とかしてくれたんですよね。
そんな経緯でCOOとして村上さんが入ることが確定して、改めて投資家向けの資料を一緒に作り直して投資家回りをしたら、資金調達がうまくいきました。インキュベイトファンドからの追加出資に加えて凸版印刷と孫泰蔵さんのMistletoeからも出資を受けましたが、そのとき持っていったデモが刺さったのは大きかったと思います。凸版印刷の取締役会でプレゼンしたときのデモは昭和の時代の小学校の教室を音で再現するようなプロダクトで、すごく作り込まれていたデモに取締役会の方たちが感心して、その場で投資が決まったということもありました。
シリーズAが調達できたところでチーム作りをきちんとしたいということになって、特に管理部門の採用は僕が担当するのが一番速いと思ったので全部で30人近く会ったんですよね。そのうちの一人が今PXDTでCFOをしてくれている関根さんだったんですが、時価総額6000億円超えのペプチドリームのCFOがどうして会ってくれるんだろうって思いながら説明してました。そうしたら、もう今すぐ落合さんに会いたいですって言ってくれて、翌日には落合さん村上さんと会って、結局PXDTに来てくれました。
落合:300年続く会社を作るんだという意気込みを話してくれたのが印象的でしたね。
村田:東証一部上場企業で時価総額6000億円超えの会社の取締役でしたから当然給与水準も高いし、それなりのエクイティインセンティブも持っていた人がいきなり投げ出すってよっぽどのことだと思いますけど、色んな水準を下げてでも来たいと思ってもらえたのは嬉しかったですよね。
――決断速く皆さん集まってきているようですが、どうやって人を引っ張ってくるんですか?
落合:会社としての知名度はまだありませんでしたが、創業メンバーや村上さんも含めたチームがやろうとしているのはどういうことなのかを丁寧にアウトプットしたら、みんな興味を持ってくれました。大きなビジョンのもとに集まってきてくれた形です。
星:うちの会社には落合さんすごい!大好き!っていう社員がいないっていうのも面白いですよね。PXDTで落合さんは猫っぽい立ち位置でウロウロしてる人、みたいな(笑)
――現在のPXDTにはどういう背景の人たちが集まってきていて、どういう雰囲気のチームになっているんですか?
落合:非常にプロフェッショナル感の強いチームであることは間違いないと思ってるんですが、チーム内で全員に発言権がちゃんと分配されることは重要だと考えてます。着眼点はみんな違うものを持っていながら、それでいて方向性は揃っていて、社内のどのチームもそういうバランスの良さがあるのはうちの特徴だと思ってます。
面白そうなものが生まれそうな感じは、最初のオフィスの頃からありましたね、部室みたいな雰囲気で。最初のオフィスは机が金属で、電気回路置くとショートして壊れるんですよ(笑)どうしようもないけどあれはあれでめちゃくちゃ面白かったです。あと、超音波のスピーカーのデモをするときは周囲の反響があると指向性がなくなってしまって良くないんですけど、そのオフィスの壁は全部コンクリート打ちっぱなしで音が反響しまくるっていう、どうしようもない環境で。最高でした(笑)
村田:あのオフィスは、孫正義さんがソフトバンクを創業した頃にみかん箱の上に立って演説をし、豆腐屋のように1兆2兆(1丁2丁)とお金を数える規模の企業にすると宣言した場所だという、有名なエピソードの舞台となった由緒正しいオフィスでした。
落合:それを改装してとんでもない空間にしてしまったっていう(笑)
――続いて産官学の連携、及びオープンイノベーションについてお聞きしていきたいと思いますが、まずは筑波大学の落合研究室(以下DNG(Digital Nature Group))とPXDTの関係性がどうなっているか教えていただけますでしょうか。
落合:僕実は筑波大の教員を2017年の11月末日に一回辞めていて、2017年の12月1日からまた筑波大の教員になったんです。間に1日も無いからみんな気付いてないんですけど、一回退職することで筑波大学のDNGとPXDTの関係性を切り替えてます。今は、PXDTから筑波大学に新株予約権を付与して研究費や人件費の支払いもしていて、その代わりIPがPXDTに100%予約承継されるという仕組みです。DNGでは自由に基礎研究や新しい技術のリサーチをして、社会実装を狙えそうな研究成果ができたらPXDTに移すような形です。
産官学連携という言葉はよく出てくるものの、大学発のIPが世の中に出て新しい製品開発がされるということは現状少なくて、実現しても対価として大学に入るのはライセンス収入などで、金額は小さいです。筑波大学でも年間数千万円程度だと思います。
僕たちの新しいスキームでは大学に新株予約権を付与するので、ベンチャーが成長すれば従来よりかなり大きな金額を大学側も得ることができますし、大学とPXDTの間でもWin-Winの関係を築けています。また、大学の学生や教員の発明が社会実装されて大学にも対価としてお金が入るということになれば、成果や対価が目に見える形で現れることによるモチベーション向上にもつながると思います。
企業が大学と共同研究する際には知財について都度交渉するのが面倒なので、それがスピーディーになるのも魅力だと思います。最初は筑波大学とだけだったのですが、今は東北大学とも同様のスキームで共同研究を始めています。
――こういった知財スキームは海外では珍しくないと思うんですが、日本ではほとんど見かけませんよね。
落合:この仕組み自体は新しい仕組みだと思いますけど、海外では例えばスタンフォードやケンブリッジでは知り合いがこういうスキームでやっているのを聞いたことはありました。でも、実際自分でやるとは全く思ってなかったんですよね、いつの間にかやることになってました(笑)。
村田:落合さんが筑波大学の教員とPXDTの代表取締役を兼任しているというところをどうスムーズに説明可能な状態にするのか、DNGから生まれた知財は結局どっちのものなんだ、というところの不明瞭さに当時課題感がありました。そこを整理しようとしたときに思いついたのがこのスキームでした。
筑波大学学長の永田さんも大学発ベンチャーのエクイティを直接大学が取得するということに対して興味関心が高く、DNGの件を整理するために話をスタートしたら、結果的に大学とスタートアップが知財とエクイティを互いに還流させる構造にできるんじゃないかという仕組みに至る事ができました。
デジタルネイチャー推進戦略研究基盤(DNG)を寄付講座のようなものとして設立し、研究費をPXDTが出すということで最終的に提案が通って、DNGの特任准教授として一度退職した落合さんが就任し直すということに話がまとまりました。
落合:僕はスパッと辞めましたけど、一回辞めるのも大変でした(笑)辞める前は助教だったのに、戻るためには准教授にならなきゃいけないみたいな。准教授の採用試験も受けなきゃいけなくて、頑張って色々書きましたね。元々筑波大学の人だから、とかはあまり関係ない感じでした。
村田:このスキームには相当反響がありました。内閣府や経産省にも呼ばれてあちこち説明して回ったんですけど、実は当時エクイティを直接大学が持つことに対し法的な根拠はなかったんですよね。去年初めて大学が大学発ベンチャーのエクイティを直接保有していいルールが正式に法律として認められたんですが、それまではグレーでした。だから、PXDTほどの大きな事例があるなら、もっと広めるべきだよねということもよく言われました。
――DNGはPXDTからのスポンサードのような形になっていると思うんですが、それによって以前よりも幅広い内容や大きな金額の研究ができるようになったなどの変化はありましたか?
落合:最初の1年間くらいは何の恩恵があるのかみんな全然分かってなかったんですけど、今年からは結構変化を感じてます。機材が以前より豪華になったし、部屋が変わってすごくきれいになりました。それまで部室みたいなところで研究していて一人ひとつ机が無かったんですけど、今年ようやく確保できました(笑)やっとスキームを作った甲斐があったと2020年になってわかったんですけど、スキームを立てたのが2017年の11月なので、やっぱりアカデミアの動きの遅さも感じましたね。
――落合さんは筑波大学とPXDTの他にもxDiversityやメディアの活動もされていると思うんですけれども、こういった他の活動とPXDTの関係性や、自身のリソース配分をどのようにしているのかお聞かせいただけますか。
落合:一般社団法人xDiversityは、科学技術振興機構から国プロの予算をもらって、僕と東大准教授の菅野さんと富士通の本多さんとソニーの遠藤さんの4人でやっているプロジェクトです。一般社団法人を通じて介護や身体機能の補助の分野に取り組んでいて、PXDTとしては自動運転車椅子や音響技術などの事業を行っています。
僕個人としてはずっとメディアアーティストとして活動をしていて、そこから出てくるインスピレーションが新しい発明につながるなどのシナジー効果も感じています。超音波を研究して精度のいい音響装置を作るだけの研究をしていたら僕の中では面白いことは何も起こらないと思うんですけど、色んな活動を並行することでシナジーの生まれる瞬間を見つけることができて、それが僕は結構好きでずっとやっています。
PXDTとしては他にも色々な活動をしていて、例えばPixie Nestでは色んなゲストと対談するフォーラムをしています。このプロジェクトは産官民が連携してテクノロジーによる社会課題解決を目指すもので、社会課題が何なのか、どうテクノロジーと組み合わせることで解決できるかを議論しています。
Pixie Nestのオープンな議論によって、シーズとニーズを組み合わせるところから社会実装まで一貫して伴走することができます。今までは社会課題を発見して技術と組み合わせていく部分は独自に考えていたのですが、そこをオープンにして色んな人と一緒に考え、色んな人を巻き込んでオープンイノベーション型でモノを作っているので、PXDTは渦を作っていくような存在になっています。
――PXDTの方々は研究開発の成果を社会実装したいということや研究者が報われる世界にしたいということをよくおっしゃっていると思うんですが、そのための取り組みとして研究開発型のスタートアップと大企業のオープンイノベーション促進のための契約モデルを国と一緒に作っていくということをされてますよね?
落合:これは主に代表取締役COOの村上が経産省、特許庁との国プロで進めてますね。僕らがよくぶつかった課題として、大企業がオープンイノベーションと称して出してくる契約書が全て知財を大企業側に持っていかれる仕組みになっているようなことがあって、村上はそれに対して課題意識を募らせてすごく情熱を注いで取り組んでいます。
村田:毎度毎度提示される不平等条約に対しては嫌気が差していて、ただの下請けとしか思っていないじゃないか、現場との今までのコミュニケーションは何だったんだと思うような契約書が多かったんですよね。
――続いてはファイナンスについてお聞きしていきたいのですが、2019年5月にシリーズBの資金調達を実施されたと思うんですけれども、何を目的としてどのようにこの大型調達を行ったのでしょうか。
落合:シリーズAの調達以降は仲間集めや事業の見通しができてきて、お客さんも集まってきて会社が形になってきたんですけれども、研究開発ベンチャーとしてそれなりの施設や人材を揃えていくには明らかに資金が足りないだろうという事になり、みんなで次のラウンドの資金調達を決めました。
シリーズBの調達のおかげで、つくばみらい市にテクノトープという床面積4000平米、敷地面積7000平米くらいの巨大な研究所を作ることができて、筑波大学のDNGも随分大きくて立派な設備になって、オフィスも移転しました。ようやく竹槍からちゃんとした装備になった感じですね(笑)新しいオフィスには一人ひとつずつ机があって、研究開発するラボとオフィスエリアと会議室が揃ってます。それまで僕らルノワールとかで会議してましたからね。
村田:シリーズBで39億円という金額を想定したかと言うとそうではなくて、もう少し小さいサイズを想定していました。結果的には産業革新機構(INCJ)にリードしてもらい、共同リードに近い形でSBIインベストメント、その他大企業・CVCにたくさん入っていただくという形になりました。
2018年の秋頃には資金調達を仕掛けに行こうということを社内で意思決定していたのですが、大型の調達になればDDの期間もきっと長くなるだろうということもあり、力を入れて時間もかけて準備しました。丁寧な準備のおかげでDDにしっかり耐えきることができ、結果的に各社から想定以上の金額が集まることになったので、最終的に調整して39億円という資金調達になりました。
落合:今回の調達で多くのキャッシュを集めていたことは、コロナによる環境変化に対応するためにも大きな意味がありました。例えば現在、コロナの感染拡大防止のためのサービス「magickiri」を作っているのですが、スピーディーにリリースできたのは資本体力があったのが大きいです。元々人間と三次元空間を扱って研究している企業なので、空間内の感染リスクを考えて最適に人を配置するようなことはすぐに応用できるわけですが、すぐに新しい事業に取りかかれたのは、やはり前年の資金調達のおかげかなとも思います。
――PXDTのシリーズBは、2019年に実施された資金調達の中では国内ベスト10に入るような非常に規模の大きい調達だったと思うのですが、これはDeepTech領域全体に言えることも含めて、なぜ大型の資金調達が可能だったのでしょうか。
村田:投資家は個別の会社だけを見るのではなくマーケットの変化を見ながら次の大きなテーマが何なのかを考えるので、今のBtoB SaaSのトレンドは大きな波として今後も続くと思いますが、次のテーマとしてDeepTech領域が注目されているということは言えると思います。この状況だからこそコンピューターサイエンスで課題解決できる範囲が広がったという環境変化もあり、ようやくAIやディープラーニングによるソリューションがPMFしてきているのだと思います。日本の投資家たちの興味関心がDeepTech領域ないし研究開発型のスタートアップに集まってくるような条件が少しずつ整いつつあります。
PXDTについては、タイミングが良かったというのは少なからずあったと思います。投資家の興味関心が高まりつつある中で、研究してきた領域内容とそれに取り組むチーム、そしてそこまでのトラクションがしっかり積み重ねられていたからこそ、今回の資金調達ができたのだと思います。決してDeepTech領域のスタートアップ全てが大型の調達がしやすい環境になっているわけではないです。
――最後のトピックとして、事業成長についてお聞きしていきたいと思います。PXDTの方々は「課題ドリブン」という言葉を使うことが多いと思うんですが、DNGで生まれた技術シーズと企業の課題(ニーズ)を結び付けていく中でのポイントはどのようなものがありますか?
落合:コツはお客さんの話をよく聞くことだと思います。たくさんのシーズを見せることでお客さんに興味持ってもらえて組み合わせ方が見つかるということもあるのでそれはそれで提示すればいいんですけど、シーズの組み合わせで解決できそうな課題があるよねということで仕事を始めたとしても、その最初の思いつきに縛られすぎないのは大切だと思います。お客さんとコミュニケーションをしていくことが、元あるシーズの組み合わせではなく新しいシーズを生み出すきっかけにもなるので、お客さんのニーズを掴んだ状態でそれにフィットするものを作っていくようなフレキシビリティがあったほうがいいと思います。
星:技術力を持ったコンサルみたいな動きをよくするよねということは社内で言っています。うちは初期の頃から強いエンジニアを揃えようということに力を入れているので、どんな案件が来ても自分の頭で考えて取り組むことができて、言うならば曖昧耐性が強い人が集まっていて、その結果様々な案件に柔軟に耐えられるようになっています。
落合:PXDTのメンバーはリサーチ・技術開発・事業開発どれも一級の人材が揃っているので、漠然としたお客さんのニーズを捉えてリサーチができるし、技術開発では量産設計までできる凄腕エンジニアがたくさんいるし、名だたるコンサルファーム出身の非常にタフな事業開発能力を持った人材がいるので、そこのシナジーがうまく効いてくるのはうちの強みだと思います。
村田:ニーズかシーズかってすごぐ難しいですけどね。今PXDTに来てもらっているエンジニアの面々は大企業で研究開発しても自分の研究テーマが社会実装に至らなかったという経験を持っている人も多いので、PXDTでなら自分の研究を世に出すことができるのではないかという期待もあると思います。ただ、マーケットのニーズを捉えてフィットさせることを全く考えずにシーズをそのままプロダクトにするようではPMFしないので、研究成果に日の目を浴びさせるにはある程度のマーケットイン志向は大切だと思います。
PXDTがお客さんの話に徹頭徹尾耳を傾けるということを強く意識すると同時に、DNGやPXDTでの研究によってシーズをたくさん掘り起こすということもやっているからこそ、現状ではそこでうまくバランスが取れているんじゃないでしょうか。
――PXDTの研究開発の環境に関して、シリーズBの調達を経てテクノトープという大きな研究施設を自前で持つという決断をされたと思うんですが、そこの意図は何なのでしょうか?
落合:テクノトープはもうガンダム作れるぐらい広いんですけど、研究開発型のスタートアップとしては自前の秘密基地の中で実験ができるのは大きな強みなんですよね。自動運転の車椅子の実験には広いスペースがほしいし、音響機器を開発するには無響室があると非常に便利なので、テクノトープをオープンしてからはすごく実験がはかどってます。あの施設はつくばみらい市にあって都内からは離れているので、非常に広いのもあり、現在のWithコロナの時代にはすごく合ってるんじゃないかと思ってます。
PXDTは水道橋にあるこのオフィスとテクノトープの2拠点で活動しているんですが、なんなら都心オフィス無くてもいいんじゃないかなんて思ってます(笑)あの巨大施設の中でもっと変なことだけしている会社にしてもいいと思うんだけど、それはなんか違うから来客用とかの意味も込めて都心オフィスも持ってますね。多くの研究開発ベンチャーにとって開発中のロボットを動かせる範囲ってオフィスのほんの一角の実験スペースだけということが多いんですけど、テクノトープには例えば電車を一個そのままぶち込むみたいなこともできちゃいます。誰か山手線もらってきてくれないかな?(笑)
――この春大きな環境変化を起こしたコロナについて、このコロナによる影響はPXDTにとってポジティブ・ネガティブ両方あると思うんですけれども、今どんな影響が起きていて今後どうやって乗り越えていくのか教えて下さい。
落合:ネガティブな影響としてはイベント系が全て中止になったことですね。また、PXDTは体験型のサービスも作っているので、お客さんが来られないとなると実際に体験してもらってジャッジすることができなくなってしまい開発が遅れてしまっているという現状もあります。逆に今我々にとって伸びしろだなと思っているのは、「KOTOWARI」の空間測距や「magickiri」のコロナ対策、あとは介護士や運転手などテレワークのできないエッセンシャルワーカーとよばれる人たちに対するソリューションも攻めところだと思ってます。
PXDTはとても優秀なリサーチ・研究開発・事業開発の人材に恵まれているので、そこでシナジーを効かせることができて、変化に対応するという意味ではコロナの影響を乗りこなす程度には優秀な人材が集まってると思っています。
――最後に、PXDTを通じてどのような世界をつくっていきたいのかを教えていただきたいと思います。
落合:一言で言えば人類と計算機の共生ソフトウェア基盤なんですけど、僕がよく口にするソフトウェアという言葉の意味があまりみんなに伝わっていないことに気づいたんですよね。例えば法律や事業スキームや会社のように、ハードで何か存在しているわけでは無いけれど何らかのルールや命令や制約が発生するもの、それらは全部ソフトウェアです。
コンピューターサイエンスによって生み出されてくるものの新陳代謝は生き物が変化するスピードよりはるかに速いので、コンピューターに対しては人類が決めてきた仕組みがうまく適用できない状態にあります。例えば自然災害やコロナの状況下で、それに対応するハードウェアやソフトウェア、ないしそれらをワークさせるスキームや仕組みがPXDTから生み出されて、色んな自治体と組み合わさってワークしてくれるといいなと思っています。
ソフトウェア基盤構築に向けて周囲も巻き込んで渦を作るというのは去年から今年にかけて特に意識してやってきたことで、パートナー企業や事業会社の方々、社内も含めて勢いづけていこうとしています。例えばコロナの問題があったときに、ニーズは何なのか、使えるシーズはあるのか、誰がどういう指針を出してやっていくべきなのか、そういった社会課題解決のための流れ全体にコミットできる体制はこれまで無かったので、そういったソフトウェア基盤を構築していくことによって、世界をよりスムーズで多様にして、もっと好きなことをして生きていける世界にしていきたいと考えています。
村田:PXDTらしい社会課題解決という意味でいうと、やはり創業期から五感の中でも視覚と聴覚と触感にフォーカスして音と光と電磁波をコントロールしていく研究をしているので、これからも魔法のような、ドラえもんのポケットから出てきたような面白いものを作っていくことをやっていってほしいと思うんですよね。そういうプロダクトをPMFさせるまでにはどうしても時間がかかるとは思うんですけど、コロナなど短期的な課題を見て研究開発するというよりも、社会実装や体験に落とし込むということをしきりに言っていた落合さんが社長だからこその、魔法のような体験をもたらすプロダクトづくりを成し遂げてほしいです。
売れるものをどんどん作って業績を伸ばしていく必要は当然あると思うんですけど、五感それぞれの体験の再発明ってまだまだ未踏領域だと思うので、ぜひそこに取り組んでほしいなと。それこそ視覚だとアーティストがたくさんいたりとかで今までもアップデートが進んできていると思うんですけど、聴覚に関してはまだまだ余地が大きくてもっと音やスピーカーはもっと掘り下げられると思うので、PXDTのチームならきっと成し遂げられるはずなので僕はとても期待しています。
落合:ディスプレイやスピーカーについてはずっと取り組んでいるところではあるので、今はコロナの状況ですけど、多分揺り戻しが来ると思うので、そのときのニーズにはしっかり答えていきたいです。そこに関しては時代を乗りこなしながらやっていきたいですね。
村田:体験価値が再評価されるというのは間違いなくあると思ってて、それこそこの音や光のジャンルは特に、アーティストたちもネットを通じてライブなどをやるのが当たり前になってきている中で、だからこそ逆にリアルな体験価値を高めるものはより求められると思うので、今後さらにPMFしやすくなるんじゃないかと思います。
落合:コロナになってから試金石が代わった可能性があるので、例えば僕たちが2016年頃によく実験してたような触覚とかは伸び始めるタイミングな気がするので、もう一回チャレンジしてもいいかもしれないですね。
――最後に皆さんから、研究者から起業を志す起業家の方々に向けて、一言何かメッセージを頂ければと思います。
星:すごい面白いからやったらいいと思いますよ(笑)大学の時は論文書くとか実験をいい感じにまとめることが市場価値だったのが、お客さんの顔を見始めてこんなものがあれば役に立つだろうなとか逆にこれぐらいの役にしか立たないなら今はやめとこうみたいな、選択肢を広げた上でプレーするのが面白いです。
落合:アカデミアにはネットワークビジネスっぽいというか内輪で褒め合う文化みたいなものがあって、内輪で引用し合って褒め合う以上のことができなくなっているようなところがあるのが結構問題だと思ってます。それはそれでいいんですけど、今までと全く違うエコシステムを作ることができるのはスタートアップのいいところだと思います。
伝統とは全く関係のないエコシステムが突然出現してうまくそれが社会に順応すると、似たような人たちが集まってきて渦ができるんですよね、それは信用の渦だったりキャッシュの渦だったり。その渦ができる瞬間というものがあって、事業は意外と後からついてくるんですよ。事業を中心に渦ができるんじゃなくて人間が集合して渦ができるので、もちろん学会とかで渦が見え始めたならそこでやっていくのもいいと思うんですけど、もしその渦が内向きだなと思うのなら、アカデミアの外に出て新しい渦を作ってみてもいいんじゃないかと思います。
村田:日本でネットベンチャーがたくさん生まれたきっかけって、ビットバレーと呼ばれた渋谷だったり少し前まで六本木のawabarにたくさん起業家が集まってホットスポット化したというのが大きいと思ってて、身近な誰かがチャレンジしてスタートアップを起こしたと言うと、回りにいるやつがちょっとムラムラするわけです。そういうホットスポットでお互い刺激し合うような環境ができると、逆になんで自分はチャレンジしないんだろうとか思ったり、あいつにできて自分にできないはずないなんて思い始めたりするんですよね。
最近だと、大企業の中でも成功してきたエースと呼ばれるような人たちが自分の詳しい業界でBtoB SaaSでバーティカルに起業するとか、医者が次々に起業していくとかそういうクラスターというかホットスポットが生まれてきていると思います。それは大学のアカデミアにいる学生や教員の間でもホットスポットが少しずつできてきていて、その一つが落合さんや星さんのPXDTでのチャレンジだと思うんですけど、こういう動きを面白い、ピンとくると感じる人はそういう気概がある人なんだと思います。
落合さんと星さんはもともとアカデミアの人間だけれども、科研費を引っ張ってくるよりもスタートアップで資金調達してエグジットしたほうが研究者としても自分のやりたいことを全うできるんじゃないかと考えて起業したわけです。もちろんお金の話だけではなくて、研究のチーム作りの意味でもアカデミアの研究者としてではなくスタートアップのチームとして研究するほうがコントロールしやすかったり。自分事としてやりきる覚悟ができているならその選択肢はとても面白いものだし、今後チャレンジする人が増えてナレッジがたまっていけばいくほどもっとやりやすくなるとも思うので、お互いに刺激し合える仲間がもっと増えていくといいんじゃないかと思います。
テクノロジーは海を越えて広がっていけるものだし、日本のスタートアップは世界に出ていけていないと言われる中で、アカデミア発のスタートアップが増えることで日本のスタートアップエコシステムがグローバルに接続されるきっかけになることも期待しています。PXDTの創業期は海外からの問い合わせのほうが多かったというのも見ていて、それはすごく思っています。
チャレンジの背中を押して支援するという意味では、国内のベンチャーキャピタルもだいぶ大きな規模の資金調達ができるようになってきているので、伴走者になるべきキャピタリストを見つけて走り出してもらえるといいんじゃないかと思います。
――インキュベイトファンドとしても、研究開発型のスタートアップはもちろん、起業家のゼロイチを後押ししていくようなプログラムをたくさん用意しているので、今日のイベントを通して心に火がついていざ起業しようと考えている方がいらっしゃれば、ぜひ気軽にお声がけいただければと思います。お待ちしております。
村田:PXDTでは研究者の方もBusiness Developmentの方も常に優秀な人を求めて人材募集していますので、ぜひお気軽にお問い合わせいただければと思います。普通に落合陽一いますので。
落合:ぜひお気軽に。あと、仕事募集してます。デジタルトランスフォーメーションに興味のある方は一報いただけると、僕ら何もないところからでかい事業考えますのでぜひお声がけください。
――本日はありがとうございました。
*「KOTOWARI」、「magickiri」は、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社の商標です。
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