※編集部注:この記事は「Paul McInerney & Associates」ブログからの転載です。
転載元:日本のスタートアップエコシステムにおけるジェンダーバランスについて
皆様こんにちは!インキュベイトファンド アソシエイトの松本です。
本日は、女性起業家およびスタートアップ業界で働く女性、女性ベンチャーキャピタリストの比率について、公開されている調査・レポートをベースに見ていきたいと思います。
私自身は2018年からスタートアップの世界におりますが、肌感覚として女性が多い業界ではないように感じていました。前職のスタートアップでも男性と比較して女性は圧倒的に少なく、また、自身が起業していた頃には同じようなスタートアップ志向の女性に会うことはほとんどなかったためです。唯一、スタートアップで担当していた広報職を通じて出会った他社の広報はほぼ女性でしたが、彼女たちも「社内は女性が少ない」と話していたのを記憶しています。
……そこから数年経ちました。2022年現在、スタートアップの世界にはまだ女性が少ないのでしょうか?もしそうならば、ジェンダーギャップ是正のために私たちができることは何なのでしょうか?早速数字を見ていきたいと思います。
女性社長比率
まず最初に、広義の「女性社長」について確認してみたいと思います。2021年に東京商工リサーチが実施した「第10回「全国女性社長」調査」によると、実は女性社長比率は2014年以降ほぼ右肩上がりで伸びています。
この事実について、もしかしたら意外に思われた方も多いかもしれません(私自身、イメージと違いました)。ただ、比率は右肩上がりで比率は伸びているものの、14.25%と小さな数字であることには変わりありません。
またこの文脈での「女性社長」は、外部から資金を調達してスケールを目指すといった、いわゆるスタートアップ業界の「女性起業家」とは毛色が異なる可能性があり、スタートアップ文脈での「女性起業家」についてはまた別のソースを確認する必要があります。
女性起業家比率
それでは、スタートアップ文脈での女性起業家比率を見てみましょう。金融庁オープンラボが今年7月に公開したレポート『スタートアップエコシステムのジェンダーダイバーシティ課題解決に向けた提案』は、女性起業家の現状について最もよくまとまっていると感じたため、こちらを参照させていただきます。
レポートによると、資金調達上位50社のうち、創業者か社長に女性が含まれる企業が手にした調達額は、スタートアップに供給された総調達額のわずか2%です(2019年)。前述の女性社長比率14.2%(東京商工リサーチ調査)と比較してもだいぶ少ない数字になってしまっている現状があります。
これには複数の事象が複雑に絡み合って発生しており、スタートアップのエコシステムに携わるステークホルダーがそれぞれの場所でアクションを起こす必要があります。その中で現在インキュベイトファンドが取り組んでいることについては最後にお話できればと思います。
スタートアップ業界の女性比率
続いて、スタートアップ業界における女性比率を見ていきたいと思います。こちらについては、フォースタートアップス株式会社内のプロジェクト・Startup Lightsが今年8月に公開した『スタートアップ・ジェンダーギャップレポート 2022』の内容を参照させていただきます。
同社が支援するスタートアップ企業のうち、回答があった62社によると組織全体の女性比率および管理職における男女比率は以下のような形でした。
組織全体の女性比率は「30%以上40%未満」、管理職における男女比率は「10%以上20%未満」が最も多い回答となりました。
この結果を見ると、特に組織全体においては著しく女性が少ないというわけではないように感じますが、人材紹介事業を提供する同社の顧客がミドル・レイターステージの企業が多いであろうことを考慮に入れると、さまざまなリソースが限られるシード・アーリーステージの企業も含めることで女性比率が下がる可能性があります。
また、管理職における女性比率においては調査結果でも低いことが明らかになっています。上場企業においては、資産運用会社などの投資家が「取締役会に一定の女性がいない場合、代表取締役に反対する」などの措置をとっていますが、未上場企業ではそのような措置は一般的ではなく、会社単位での取り組みが求められていると言えそうです。
女性ベンチャーキャピタリスト比率
女性VC比率については今年8月に一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)が行ったダイバーシティ&インクルージョンに関する調査を参照します。
同調査によると、女性のベンチャーキャピタリスト(投資担当)は平均16.3%、マネジメント層や投資意思決定層は9.3%とのことでした。調査はJVCAのVC会員ならびにCVC会員に向けて行われており、計59社から回答を得ているとのことです。
少し古いデータではありますが、米Babson Collegeの調査では女性パートナーがいるVCは、女性がいる企業に投資する確率が3倍高いといわれています(The Diana Project: Executive Summary 2014)。投資する側が多様化することによって、投資対象も多様化する可能性が高いといえます。
ここまでファクトとして数字を見てきましたが、「2022年現在も女性が少ない業界である」と言えるような結果となりました。なかなか悲観的な内容が並んできましたが、ここで女性VCに焦点を当て、ジェンダーギャップ是正における日本のポテンシャルについて考えたいと思います。
NVCA(National Venture Capital Association)やDeloitteの情報をもとに弊社で試算*したところ、USのVCにおけるパートナー数は8,700名程度、女性パートナー(日米ともに、ここで言う女性パートナーはパートナーまたはそれに準ずる意思決定者を指します)は1,400名程度と想定されます。
一方、JVCAの加盟社数をもとに弊社で試算*したところ、日本のVCにおけるパートナー数は375名程度、女性パートナー数は34名程度と想定されます。
VCにおけるパートナー数が変わらないと仮定してパートナー数を男女同等にする場合、USでは約2,950名の女性をパートナーに登用する必要がありますが、日本においては約154名を登用するだけで達成されます……こう考えてみると、日本スタートアップエコシステムにおけるジェンダーギャップ解消に少し希望が見えてきませんか?
*試算スプレッドシート
インキュベイトファンドとしての取り組み
最後に、この現状を是正するためにインキュベイトファンドはどのようなことに取り組んでいるかについてお伝えできればと思います。
①投資サイドに女性を増やす
インキュベイトファンドはフロントのキャピタリストのうち5名が女性です(内定者を含めると6名)。全体のキャピタリストの母数が多いため比率にすると小さな数字になってしまうのですが、他VCと比較しても多くの女性が投資業務に従事しています。
②女性起業家がコネクションとリソースを得られる機会を作る
先述の金融庁オープンラボのレポートにおいても、女性起業家が少ない問題の原因として「ネットワーク内女性起業家小」「出資判断軸の未理解」「判断軸に合わないピッチ/ピッチ機会無」など、女性起業家が投資を受けるにあたり十分な機会を得られていないことが示されています。
上記課題に対し、先日インキュベイトファンドでは有志女性メンバーが「IF Women’s Community」というコミュニティを立ち上げました。このコミュニティはスタートアップの起業を目指しているまたは起業中の女性の横のつながりやインキュベイトファンド含むVCとのコネクション、VC・スタートアップへの理解を深める機会等を提供することで広くスタートアップエコシステムに寄与することを目的としています。
当初は女性起業家を対象に運営しますが、長期的にはスタートアップで働く女性をエンパワーできるようなコミュニティにできるよう、エコシステムの発展を目標に活動を行っていきます。
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▼コミュニティについての詳細はこちら
インキュベイトファンドの活動もまだまだ始まったばかりです。この記事を読んでくださった皆様が形は違えど何かしらのアクションを起こしてくださり、より良いスタートアップエコシステムが醸成されることを願っています。