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2023/04/21

「Hello, ESG ~2030年までにCO2半減なるか?カーボンニュートラル活動を牽引するリーダーからみた実態~」イベントレポート

執筆者:

Zero to Impact編集部

2023年2月20日、企業が直面するカーボンニュートラルの現状について、注目のスタートアップ企業3社が登壇するイベントを開催いたしました。登壇したのは、株式会社アスエネ 共同創業者COOの岩田圭弘氏、Sustineri(サスティネリ)株式会社 代表取締役の針生洋介氏、株式会社フェイガー 代表取締役の石崎貴紘氏。ファシリテーターはインキュベイトファンド アソシエイト今泉晴喜が務めました。本記事では、イベントの様子をお届けします。

【登壇者プロフィール】

株式会社アスエネ 共同創業者COO
岩田 圭弘 氏
慶應義塾大学卒業後、株式会社キーエンス入社。マイクロスコープ事業部の営業を担当。2012年に当時最年少でマネージャーに就任。2014年、大阪本社の販売促進Grへ異動、営業戦略立案・販売促進業務を担当。2015年、三菱UFJリサーチ&コンサルティング戦略コンサルティング部に転職。医薬、アパレル、小売等の全社戦略、新事業立ち上げを経験。2016年に株式会社キーエンスより新規事業立ち上げ依頼を受け、東京営業所立ち上げ後、本社販売促進Grにて営業戦略立案を実施。
現在アスエネ株式会社にて共同創業者兼COOとして営業・マーケチーム立ち上げ・実行を統括。

Sustineri株式会社 代表取締役
針生洋介 氏
環境系シンクタンクにて、気候変動に関する政策立案や実行支援、カーボン・オフセットに関する指針やガイドラインの作成、カーボン・オフセットに関する実施支援に携わる。
コンサルティング会社にて、気候変動に関する戦略策定・実行支援、温室効果ガス排出量の算定支援・第三者保証、ESG・SDGs・サステナビリティに関するコンサルティングに従事。
プログラミングスクールを卒業後、2021年7月に企業の脱炭素化とサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を支援するサスティネリを設立。

株式会社フェイガー 代表取締役
石崎 貴紘 氏
PwCアドバイザリー事業再生部門、YCP Solidianceシンガポールオフィス代表パートナー等を経て現職。早稲田大学法学部卒業後、PwCの日本オフィスで幅広くコンサルティングプロジェクトを経験。専門テーマは脱炭素、農林水産業・食品関連、新規事業創出、海外進出支援など。YCP Solidianceシンガポールではコンサルティングとプリンシパル・インベストメントを行うオフィスの代表として、主に日本企業の海外進出や現地ビジネスの拡大に取り込んだ。2022年に株式会社フェイガーを設立後は、代表として日本及びアジアの脱炭素社会の推進に力を注ぐ。

インキュベイトファンド アソシエイト
今泉 晴喜
2019年に株式会社野村総合研究所へ参画。
サステナビリティ事業コンサルティング部にて、経営コンサルティング業務に従事。カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー分野にて、主に新規事業立案や業務改革支援に従事。2022年にインキュベイトファンドへ参画。アソシエイトとして新規投資先の発掘、投資先企業のバリューアップ業務等を担当。慶應義塾大学法学部卒。

CO2排出量の見える化、GHG算定、カーボンクレジット生成。3社3様の在り方でCO2半減を目指す

岩田:アスエネの共同創業者でCOOを務めている岩田圭弘と申します。弊社は2019年に設立し、メイン事業は「アスゼロ」という、CO2排出量見える化・削減・報告クラウドサービスを法人向けに提供しています。2022年11月には企業のESG全体を評価できる「ESGクラウドレーティング(ECR)」を立ち上げ、持続的なサプライチェーン調達のためのESG評価プラットフォームを提供しています。また、シリーズBのファイナンスを終えて、国内外のVCから累計約29億円の出資を受けています。(2023年2月末の出資額、現在は累計31億円)

岩田:私自身は、新卒でキーエンスに入社した生え抜き営業マンでした。本社で販売促進を担当した後に、コンサルティング会社に転職しました。その後、キーエンスから「新規事業を任せたいから戻ってこないか」という打診をもらい、再び働いておりました。経営側の仕事に就きたいという想いを持っていたところ、弊社の代表を務める西和田から声がかかり2020年、アスエネに共同創業者としてジョインしました。自社に関しては現在、経営に加え、セールス、マーケティング、CS、人事などもマネジメントしており、充実した日々を過ごしています。

針生:サスティネリで代表を務めている針生洋介です。最初は環境系のシンクタンクに就職し、主に、環境省から委託を受けて、施策の立案・支援などを担当していました。その後、金融系のコンサルティング会社で気候変動に関するコンサルティングに従事したり、監査法人のサステナビリティ分野で企業のサステナビリティ政策やESG投資などのサポート業務を担当したりと、キャリアを通して15年以上に渡り気候変動分野に関わってきました。

働いているうちに自分が一番興味のあるこの分野で起業したいと思い、プログラミングスクールでプログラミングを学んだ後、2021年にサスティネリを創業しました。弊社では企業が商品を販売したり利用したりするときに排出されるCO2の排出量をクラウド上で自動算定し、それを相殺できる「カーボンオフセットクラウド」を開発・提供しています。

石崎:フェイガーCEOの石崎貴紘です。弊社では農業由来のカーボンクレジット化を目指しています。世界における温室効果ガスの12%は農業由来だといわれています。原因は牛のゲップからのメタンガスや水田などです。これらを削減し、削減できた分を国際認証機関の承認を受けたクレジット化して売買できるようにするというのが私たちのメイン事業です。売り上げが落ちていたり人材不足で悩んでいたりする農家様にとっては、収入源の1つとして期待できます。

企業様においては、自助努力により脱炭素経営をするには限界があるため、周辺のプレイヤー、我々でいえば農家様と脱炭素エコシステムを形成し、企業を中心に一緒に温室効果ガスを削減できるような仕組みに取り組んでいます。

胸を張って語れる事業を始めたかった

今泉晴喜(以下、――)みなさんはどのような課題認識を経て、この分野での企業に至ったのでしょうか。詳しく教えてください。

岩田:キーエンスで働いていたときは、脱炭素と無縁のキャリアを歩んでいました。キーエンスはモノを作って販売するという、有形商材の営業に強い企業のため、対象顧客が少ないという一面があります。もともと「社会貢献をしたい」と考えていたのですが、有形商材のみを扱う現状で「果たして、実現できるのだろうか」と思ったことが、この分野に興味を持った理由の1つです。

また、35歳になったとき「大きな社会課題に取り組みたい」という思いが強くなりました。キーエンスを辞めてスタートアップを起業することは大きな決断でしたが、経営に携わりながら、自分がやりたかった社会貢献性が高い仕事をすることができています。

――CEOの西和田浩平さんとはどのような点で共鳴し、共同創業に至ったのでしょうか。

岩田:キーエンスを辞めて転職活動をしようと検討していたときに紹介していただいたのが、アスエネ代表の西和田でした。話をしてみると、たまたま大学の同級生だということが分かり、さらに、「ゼロから起業したい」という思いに共感し、なんとか2人でやってみようという話になりました。今思い返すと、かなりエモい感じでスタートしました。

――針生さんは以前から環境に関するコンサルティングを任されていたとのことですが、コンサルタントという第三者目線での支援ではなく、起業する道を選んだ背景を教えていただけますか。

針生:コンサル時代は、企業に「こんな環境対策をしてみてはどうか」という提案を伝えてきました。しかし10年以上前は、会社経営と環境対策は両立しないというのが一般的な考えだったため、企業から「そう言われても難しい」と、なかなか積極的に提案を聞いてもらえないことが多くありました。

針生:風向きが変わったのは2015年ごろです。パリ協定の採択やESG投資の盛り上がりもあり、世界規模で「会社経営と環境対策を両立していこう」という流れに変わってきました。その後、日本企業も気候変動対策について様々な取り組みを行っていたものの、日本は海外に比べて遅れをとっていました。このままだと、日本がどんどん突き放されてしまうという危機感を覚えたため、自分がまずは動こうと思い、起業しようと思いました。

また、コンサル時代は、企業が過去に取り組んでいたことをいかに良く見せるかに重きを置かれていました。私としては過去よりも、「今後をどうしていきたいか」という未来を見据えて環境問題について考えたいという思いもありました。

――石崎さんはどのような思いを経て、起業しようと思ったのでしょうか。

石崎:農業由来のカーボンクレジット生成ビジネスは、農家・企業・地球の三方よしのビジネスなので、全員が幸せになる未来が描けます。前職のコンサルではお客様の悩みに答えることが仕事でした。なので、「そもそも、なぜこの案件をやるのか?」といったことに疑問を持つよりも、依頼が来た案件に対して自分なりに誠実に応えていたような状況です。

一方で、脱炭素分野に関してなぜやるべきなのかが自分にとっても、社会にとっても明確で、「なぜやるのか」という問いに私自身が納得行くまで考え尽くしているため、心から腹落ちし切った状態で思い切り事業に没頭できると思ったのが、この分野に力を入れたいと思った大きな理由です。営業をしたり採用をしたりするときも、「なぜこの事業をしているのか」と聞かれたとき、胸を張って語ることができます。

一番のハードルはニーズを喚起すること

――みなさんは脱炭素の文脈でスタートアップを起業されていますが、経営をする中でどのような面で課題や壁にぶつかりましたか。また、それらをどのように解決したのでしょうか。

岩田:今でこそ、「脱炭素社会の実現にはCO2の見える化が重要だ」という考えが広がっていますが、起業した当初は、特に中小企業から「何それ?」という反応を受けることが多かったです。そのため、初期フェーズは事業のニーズを喚起することが一番大変でした。

――その中でも、アスエネの価値を理解する企業は、インダストリーごとに分かれていたのでしょうか。それとも企業規模によるのでしょうか。

岩田:最初はカオスだったので、正直あまり覚えていないですね(笑)。ただ、自動車や建設運輸などは削減目標が掲げられていることもあり、早い段階から積極的に話が進んだ印象です。

――サスティネリはBtoB事業ですが、クライアントのその先にいる消費者の環境意識が変わらないと、インセンティブが働かないという面があると思うのですが、そのあたりの課題を教えてください。

針生:おっしゃる通り、弊社はエンドユーザーがカーボンセットに関心を持ってもらわないと、CO2削減につながらない点は課題だと感じています。

海外だと市民やエンドユーザーが飛行機に乗るときにカーボン・オフセットをするなど認知度が高く、特に、欧米は寄付をする文化があり、「お金を出して環境活動を応援する」という文化が根付いています。

日本人も気候変動などに関心がないわけではないのですが、その意識が低いのが現状です。その理由は、自らお金を払うことにハードルがある人が多いようです。弊社としては、啓発するためにさまざまな試行錯誤を重ねているものの、toC側に普及するにはまだ時間がかかると感じています。

だからまずはtoBにしっかり、カーボン・オフセットの必要性を理解してもらい、需要をくみ取ることを最優先にしていきたいと思っています。

――啓発の難しさでいうと、フェイガーも農家を巻き込んで価値訴求するのはいろいろな壁がありそうです。

石崎:実は、農家様からは意外と「こういう事業を待ってました」という反応が多かったんですよね。今までボランティアで脱炭素に取り組んでみたけれど、内部から「なんでそんなことをしているのか」という意見が出て、評価されてなかったという農家様から「こういう事業を始めてくれてありがとう」と言ってもらったことがありました。ホームページのお問い合わせに、「世の中に必要なサービスだと思います」とファンレターのようなものを受け取ったこともあるんです。

それよりも、BtoBの営業に課題を感じています。私も日々企業に訪問しているのですが、それでも「日本はまだこの取り組み早いですよね」という反応が返ってくるんですよね。グローバル企業を目指している一部の企業からは「日本からこういう取り組みが広がってほしい」というものの、まだ危機意識が足りていないのかなと感じています。

スタートアップ企業の経営は、メンバーが輝く場所を提供することが重要

――スタートアップを経営する上で、「誰と働くか」は重要な要素ですが、みなさんはどのような人材を採用しているのでしょうか。

石崎:与える業務をこなすよりも、「この分野ならこの人が一番輝いている」というメンバーが、集まってほしいですね。農業や脱炭素のようななかなか光が当たりにくい分野だからこそ、自ら切り開いて行く必要があるシーンも多いので、そういったメンバーが集まってほしいですし、私たちもメンバーが輝ける場所を用意していきたいと思っています。

――もう少し踏み込んで話を聞きたいのですが、企業の看板や給与といったバリューがないスタートアップにおいて、メンバーが輝く場所をつくるには、どのようなことをすればいいのでしょうか。

石崎:成功体験を積み重ねることでしょうか。「資金が足りないなら調達する」「体制が足りないなら採用する」「情報が足りないなら提供する」など、メンバーが成功するために必要なリソースを会社として用意し渡すことで、輝ける場所(成功できる場所)を提供することが必要だと考えています。

――サスティネリが採用する上で意識していることは何でしょうか。

針生:掲げているミッションやビジョンに共感し、社会を変えていきたいという思いを持った人と一緒に働きたいと考えています。かなり優秀な人でも、そこに共感がないと一緒に働いた後にうまくいかないというイメージがあります。弊社はまだ課題が多く、ユーザーのニーズが顕在化するのもまだまだ先だと思います。だからこそ、「これから日本のスタンダードを切り拓いていく」という使命感を持った人と一緒に働きたいです。

――アスエネは社員数が増えて海外展開も視野に入れていると思うのですが、現在のフェーズから拡大する中で、どのような組織づくりを心掛けていますか。

岩田:創業時から変わらず、「大きな社会課題に情熱を持って取り組みたい」という人を中心に採用しています。スタートアップなので、もちろん泥臭いこともありますが、その環境を自分が成長できるいい機会だと思えるようなマインドの人は合っているんじゃないかなと思います。

――「ジョインした人は、このような部分に共感してくれた人が多い」など、具体的な例があれば教えてください。

岩田:ミッション、ビジョン、バリュー、経営理念を説明したときに共感してもらえるかどうかが重要です。

有機栽培など環境問題に取り組む農家が評価される世の中に

――今後どのような経営戦略を描いているのか教えてください。

岩田:有機栽培など環境問題に取り組んでいる農家もありますが、高くて売れないため、農薬を使わざるを得ないというところも多くあります。そこで有機栽培を取り入れている農家の情報を開示し、そこに付加価値を付ける取り組みをしていきたいと考えています。この事業は日本のみならずグローバルに展開し、最終的にはバイヤーに環境価値のある野菜を買ってもらうことが企業にも個人にも、そして地球にもいい取り組みだと思っています。

針生:2030年の温室効果ガス削減目標の達成に向けて日本では、CO2を削減する革新的な技術を期待しがちです。しかし7年後までに革新的な技術で大幅に削減することは難しいと考えています。再エネの活用や省エネ、エネルギー効率のよい製品やプロセスへの代替などに加えて、カーボン・オフセットの活用も必要不可欠になると考えています。今の日本企業は、カーボン・オフセットに対して積極的ではないのですが、いざ取り組もうとなったときにはクレジットを購入できない可能性があります。そういった課題も含め、啓蒙していく必要性を感じています。

――最後に、石崎さんお願いします。

石崎:農業関連の皆さん、おめでとうございます。資金調達に関するプレスリリースを出したとき、あるアメリカの企業から問い合わせがきて打ち合わせをしたことがありました。事業内容を説明したところ「あなたの会社で作っている農業由来クレジットを全部買わせてほしい」と言われました。しかも最低ロットは100万トンだったんです。

一方で、購入する側にとってはこの話は悲報なんですよね。クレジットは、買いたいと思ったときにはもう値段が上がっているからです。アメリカの企業にも、向こう5年分を買わせてほしいと言われました。これが現状なんです。

日本企業でもクレジットを購入するという動きがありますが、シンガポールやベトナム、タイなど海外でもその動きが加速したら、競争になるのは目に見えています。脱炭素の文脈で国際競争から遅れを取らないために、今動けるかという点が、その後の勝負の行方を決める大切な時期になると思います。

―― ありがとうございました!

 

株式会社アスエネ
代表者名:西和田 浩平
会社URL:https://earthene.com/corporate
募集中ポジション:エンジニア、PdM、デザイナー、CS、営業、海外事業など

Sustineri株式会社
代表者名:針生 洋介
会社URL:https://sustineri.co.jp/
募集中ポジション:セールス、マーケティング、BizDev、エンジニア など

株式会社フェイガー
代表者名:石崎 貴紘
会社URL:https://faeger.company/
募集中ポジション:ビジネスデベロップメント(国内/海外)、エンジニア など

Zero to Impact編集部

寄稿者

VCが運営するスタートアップ・VC業界の情報発信マガジン「Zero to Impact」を運営しています。起業家の魅力や、スタートアップへのお役立ち情報を発信します。ベンチャーキャピタル「インキュベイトファンド」が運営。

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