今回、2025年10月に18回目の開催を迎えるIncubate Campで主将を務めるIFアソシエイトの布川 愉之と児山 一樹。大手銀行やコンサルティングファームでのキャリアを経て、スタートアップの最前線で活躍するベンチャーキャピタリスト(VC)へと転身した二人。
彼らがなぜVCというキャリアを選び、どのようにして“独立”と“支援”のリアルに向き合っているのかについて、また、キャリアの原点から現在の挑戦、そしてこれからの展望についてインタビューしました。
【プロフィール】
布川 愉之(ぬのかわ・さとし) Incubate Fund アソシエイト
2019年にデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社へ参画。Corporate Financial Advisoryチームにて、主に金融セクターに係るM&Aアドバイザリー業務、株式価値評価業務等に従事。2022年にインキュベイトファンドへ参画。アソシエイトとして新規投資先の発掘、投資先企業のバリューアップ業務等を担当。また、SMBC Asia Rising Fundのメンバーとして、アジア地域のフィンテック企業への投資にも従事。京都大学経済学部卒。
児山 一樹(こやま・かずき) Incubate Fund アソシエイト
2019年みずほフィナンシャルグループ入社。みずほ銀行本店営業部にて化学セクターの大企業RMに従事。2020年よりみずほ証券投資銀行部門にてTMTセクターのM&Aアドバイザリー業務を担当。2022年インキュベイトファンドに参画。アソシエイトとして新規投資先の発掘、投資先企業のバリューアップ業務等に従事。一橋大学大学院 経済学研究科修了。
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「自らファンドを立ち上げる」という選択肢
ー なぜVCという道を選んだのか、そしてなぜインキュベイトファンド(IF)を選んだのかを教えてください。
児山: 大学時代にインドネシアに留学していた際、現地で急成長していたスタートアップGojek(インドネシア・ジャカルタに本社を置き、ライドシェアと物流を中心に「総合サービス業」を展開しているベンチャー企業)の社会的インパクトに触れ、スタートアップが社会課題を解決する手段となっていることに興味を持ちました。
新卒でVCを目指したものの、当時は新卒採用が限られており、まずは地力をつけようとみずほフィナンシャルグループに就職しました。
初期配属で、古河財閥系の企業を担当しました。その際に印象的だったのが、そこで働く方が今もなお渋沢栄一さんへの強い敬意を抱いていたことです。「渋沢さんがいたからこそ、今もこの会社が続いている」と真剣に語る姿に触れて、創業期に関わることの重みと価値を改めて実感しました。その後、M&Aアドバイザリー部門へ異動し、TMT領域の創業社長が事業を推進している案件を通じて、彼らの圧倒的な胆力と視座に触れました。気づけば「自分も最前線で挑戦したい。さらには、あのレベルの創業者を次々と生み出す存在になりたい」という想いが、日に日に膨らんでいきました。
投資銀行で3年ほど経験を積んだ後、自分のキャリアを改めて考えるタイミングがありました。当初は、起業する道とVCとしての道、どちらも視野に入れて動いていたんです。
そんな中でIFのGeneral Partnerである村田に会う機会があり、「VCとして“起業”ができる」という話を伺って衝撃を受けました。それまでVCは“既存の仕組みの中で働くもの”というイメージが強かったのですが、自らファンドを立ち上げることができるという自由度に強く惹かれました。
しかも、村田自身も起業経験のある方。そういう人のもとで働ける環境なら、チャレンジしがいがあると思い、入社を決めました。

IF アソシエイト 児山 一樹
「VCとして独立する」という起業のカタチ
ー 布川さんの場合は、どうでしたか?
布川: 僕の祖父は、父方・母方ともに町工場を経営していました。原点を辿ると、そのことが事業を自ら手がけることや、ファイナンスへの興味に深い部分でつながっているように感じます。
特に母方の祖父に起きた一連の出来事は強く記憶に残っています。彼はぬいぐるみ製造の町工場を営んでいました。機械の設計からぬいぐるみの製造まで全部自分で手がける技術力を持っており、その品質を買われ、最大手の遊園地にも商品を卸していたようです。
家や工場には色々なキャラクターのぬいぐるみがあちこちにあり、子どもながらに人を喜ばせるものを自分の手で作り上げることへの憧れを抱いたことを覚えています。ただ、金銭周りのトラブルから、会社は立ち行かなくなり、最後には倒産し、工場も手放すことになってしまったのです。一貫してファイナンスや会計、金融に興味を持ってきましたが、その出来事は少なからず影響を与えているのではないかと思います。
その後、ファイナンス方面のキャリアを考える中で、新卒としてデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーに入社しました。そこでは、M&Aアドバイザリーやバリュエーションといった業務に携わっていました。
なかでも印象的だったのが、大手金融機関による、東南アジアのスタートアップへの出資に関する業務です。設立されて10年も経っていない企業が巨額のお金を動かし、社会を動かしていく様を最前線で目の当たりしました。社会を変えることを本気で目指してプロダクトを作る彼らを見る中で、徐々に、「アドバイザーではなく、自分自身で意思決定し、リスクを取って挑戦したい」という気持ちが芽生えていきました。
そうしたことを念頭に、「ゆくゆくは起業も」と考えながら次のキャリアと向き合う中で、IFの採用情報の中にある「VCとして独立する」という言葉が目に留まりました。全く予想していなかった選択肢ではあるものの、考えれば考えるほど納得度が高く、また、面談を重ねる中で、「ここには、情熱をもって、型にはまらずに挑戦し続ける人たちがいる」と驚きました。そして役割に線を引かず、本気でスタートアップと向き合う、そんなカルチャーに惹かれて、入社を決めました。

IF アソシエイト 布川 愉之
「投資先の成長」のためにできることはすべてやる
ー 児山さんはIFに入社してから、創業前後のフェーズでのハンズオン支援に多く携わってこられたと思います。そうした実務の中で、どんな苦労や学びがありましたか?
児山:そうですね、本当に「ゼロからの伴走」になることが多いので、苦労というか“すべてが初めて”の連続でした。
創業期でまだ会社に「1人」しかいない起業家には銀行口座を一緒に開設したり、採用、PR、資本政策、契約交渉まで、必要なことをすべて支援しました。ときにはCFOのような立場で、次の資金調達ラウンドの契約書を作り、他の投資家との調整も担当することもありました。文字通り「成長のために必要なことはすべてやる」というスタンスです。だからこそ、支援するたびに自分自身にも学びがあり、起業家と一緒に成長させてもらっている感覚があります。
こうした“本気の伴走”というスタイルは、村田の背中を見て学んだ部分が大きいです。
ー IFにおける“任され方”について、どう感じていますか?
児山: “任せられている”というより、“任されにいっている”という感覚に近いです。IFでは将来的な独立が前提にあるからこそ、自分から経験を積みにいく、ノウハウを取りにいく姿勢がすごく大事だと思っています。
何かを“やらされる”のではなく、必要な力を自分で掴みにいく。その積み重ねが、自分自身のキャリアの糧になると実感しています。
海外ファンド、Web3領域投資など未知の挑戦
ー 布川さんは、海外グロースファンドの立ち上げといったプロジェクトにも関わってこられました。そのような案件に携わる中で、どんな学びや気づきがありましたか?
布川:グロース投資の意思決定プロセスは、シード投資のそれとは大きく異なります。チームで綿密にリサーチをして説得力のある投資仮説を作るという、シード投資とは異なった難しさがあり、今でも試行錯誤が続いています。
特にIFはシード投資がメインのファンドですから、グロース投資に関しては、プロセスの多くを手探りで進める必要があります。ファンドの日々のオペレーション含め、チームで試行錯誤をしながら少しずつ体制を作り上げていきます。その過程で得た学びは非常に多くあります。
ー Web3領域への投資やリサーチも担当されているとか?
布川:はい、そのグロースファンドの中で僕が担当しているのが、Web3領域のリサーチと投資です。ただ、IF内にWeb3領域に特化した専門家がいたわけでもなく、調査対象も明確に示されたものがない中で、何からどう手をつけるべきかも見えない状態でした。
データベースなどを使ったリサーチでしばらく粘ったものの、一向に打開策が得られませんでした。そこで次に、足を使って情報を取りにいくことにしました。ドバイや香港で開催されたWeb3領域カンファレンスに参加して、100人近くの人とネットワーキングをしたり、SNSを通じて知り合った国内外の起業家やVCに話を聞いたりしていたところ、次第にインサイダーが何を考えているのか、業界の論点は何か、といった点が見えるようになってきました。
そうすることで、自分の仮説がクリアになるのみならず、説得力も生まれることに気づきました。大きなブレークスルーを感じた体験です。これはweb3領域のみならず、あらゆる領域で通じるアプローチなのかなと思っています。まだまだ失敗の連続ですが、VCとして、自分の裁量で未知の領域を切り開いていけることに意義と面白さを感じています。

未来に向けて描くファンドの姿
ー将来的に、どのようなファンドを立ち上げたいというビジョンがありますか?
布川:今、海外のファンドにも深く関わっていることもあり、自分としては“日本と海外をつなぐ橋渡しができるVC”を目指したいと考えています。実際、海外の投資家たちの間では、日本の技術やプロダクトに対して強い関心を持ってくれている人が多い。にもかかわらず、言語の壁や日本市場の内需の強さが理由で、国内だけで完結してしまうケースも少なくないと思っています。
だからこそ、日本の優れたアセットを世界に繋げていく「パスを作る」という役割を自分のファンドで担っていきたいと思っています。
ー 児山さんは、将来的にどのようなファンドを目指したいと考えていますか?
児山: 一つは、“来るべき未来の社会課題”に対して、現場で深く向き合っている起業家たちに投資していきたいという想いがあります。
例えば、インバウンドの拡大や外国人労働者の増加は国の政策としても加速していますが、それに伴って、外国人向け医療サービスの不足など、まだ十分に対応されていない分野が明らかに課題化していくはずです。
私は、そうした社会構造の変化に真正面から挑んでいる人たちと議論を重ねながら、戦略や立ち上げのタイミングをともに設計し、投資家として長期視点で寄り添っていけるような支援をしていきたいです。
もう一つは、“少額資本で立ち上がるスピーディな事業”への投資です。
僕自身、学生時代に簡単な事業を立ち上げた経験やIFでゼロから事業を立ち上げる伴走経験をさせてもらったこともあって、限られたリソースでもしっかり成長できるイメージを持っています。特に、生成AIなどの技術が進化した今の時代なら、少人数・少額資本でも、数十億円規模の売上を狙えるビジネスが増えてきています。
そうしたスモールスタートの事業に対して、僕自身が初期資金を出すだけでなく、戦略や事業開発に関する実践的な知見を惜しみなく提供し、伴走しながらスケールさせるような支援ができるファンドをつくっていきたいと考えています。
理想のキャピタリスト像
ー最後に、お二人が目指す“キャピタリスト像”について教えてください。
児山: 僕が憧れているのは、Snowflakeを立ち上げたマイク・スパイザー氏のような存在です。VCでありながら、自らの業界知見をもとに会社を立ち上げ、価値を生み出していく“VC主導型”のスタイルに惹かれています。
もう一人挙げるとすれば、渋沢栄一さんです。今でも「彼がいたからこの事業がある」と語り継がれているように、100年経っても影響を与え続けられるような存在になりたい。「自分が投資したからこの業界が変わった」と言ってもらえるような、そんな本質的な価値を残せるキャピタリストを目指しています。
布川: 僕は、資本主義そのものや金融システムといった“仕組み”がすごく好きなんです。だからこそ、そこに新しい要素を組み込み、エコシステム全体に新たな価値を加えられるような投資家になりたいと思っています。ただ利益を追うだけでなく、仕組みそのものを良くしていくような、そんな視座で動けるキャピタリストでありたいです。
現在、Incubate Camp 18th(2025年10月2日〜3日)エントリー受付中!
▶ 詳細・エントリーはこちら( https://camp.incubatefund.com/ )