奇兵隊。
写真投稿を通じて、世界中の知らない人たちとのコミュニケーションを生み出す『Airtripp』というアプリサービスを世界中に提供するスタートアップだ。
横文字が横溢するスタートアップ界隈において、なんとも目を引く社名だが、ネーミングだけなく、同社はその出自においてもユニークだ。何しろインキュベイトファンドが主体となり企業を興し、起業家が後からCEOとしてジョインしたのだ。
文字通りのファウンダーとなったのは、インキュベイトファンドの和田圭祐。彼はある志を持ち、奇兵隊という器を作り、そこに志を共にする、現在の代表取締役CEOである阿部遼介氏を迎え入れた。両名が共有する、”日本発、世界標準”の志を聞いた。
最初の”奇兵”は野望大きく辛抱強い
-本日はよろしくお願いします。奇兵隊という会社は、まず企業という”箱”が先にできあがっていたとか。どんな会社にしようと思っていたのでしょうか。
和田:最も根底にあったのは、海外でスケールするサービスを日本発で作りたい、という想いです。ここに共鳴してくれた阿部さんがジョインしてくれた。
阿部:もともと僕はコンサルの仕事をしていたんです。日本の外貨獲得の手段は、製造業がメイン。コンサルの仕事も、いってみればその大きな産業にぶら下がっているものです。次に選ぶなら自分の手で”事業”がしたかったし、さらに言えば、製造業のように、海外から収益を上げられるビジネスに取り組みたかったんです。
ー志を共にする。阿部さんをCEOとして迎えたのはそれだけが理由ではないですよね。
和田:海外を攻めていく。言葉にすれば簡単ですが、恐ろしく困難なチャレンジであることは間違いありません。阿部さんは、この困難に粘り強く挑んでいける人物だと思ったんです。そして何より、”野望”をしっかり持てる人だった。
阿部:世界に通用している日本のwebサービスはまだありません。でもチャレンジ自体はたくさんありますよね。どのチャレンジも、優秀な人たちが徹底的に考えたもののはずです。それでもなかなかスケールしない。そういう世界に自分が挑むのはもちろん簡単ではありませんが、間違いなくエキサイティングですよ。
ーそして世界を目指す尖兵が『Airtripp』というわけなのですね。写真を通じて、世界中の人たちとコミュニケーションする。このコンセプトはinstagramにも通じるように思えますが。
阿部:よく聞かれます(笑)。ただ、果たしてinstagramで本当に国境を越えたコミュニケーションができているのでしょうか。instagramはあくまで写真の共有に主眼があるように感じます。一方Airtrippは写真を通じて接点を作り、友人関係を創出するのが目的です。だからこそアプリには翻訳機能も備わっています。この目的の差が、ユーザーを引きつけ、コミュニケーションを生み出している。ただ、サービスがここに至るには紆余曲折がありましたが(笑)。
リブートする、覚悟
ーサービスを拡大させるのに困難時期もあったと聞いていますが。
阿部:Airtrippはサービス開始当初、テキストベースでのコミュニケーションをメインにしていました。ただ、それだと全くスケールしなかった(笑)。僕は、小さな改善を繰り返して、いわば高速でPDCAを回していくのが得意なタイプです。テキスト時代も小さな改善はもちろん欠かしませんでしたが、それでは全くダメだった。
和田:思い切ってゼロから作り直す覚悟が必要でした。いつだったか、電話で話したのを憶えている? 確か福岡から電話をかけて、「instagramのようなビジュアルコミュニケーションのエッセンスが必要ではないか」と提案した記憶がある。
阿部:どうだったかな(笑)。ただ、その時点で満足のいくダウンロード数ではなかったので、やはり思い切って作り直さなければ、とは思っていましたね。そして現在のAirtrippに通じる、写真の要素をサービスに取り入れました。そうしたら、やはり数字が変わった。「だんだん上向きになってきたな」というレベルではなく、明らかにユーザー数が増えていったんです。
ー現在は非英語圏を攻略していると聞いています。やはり言語を超えたコミュニケーションを行うには、ビジュアルでのコミュニケーションが重要だったということでしょうか。
阿部:もちろん無関係ではないでしょう。ただ、ビジネスでは英語圏、非英語圏という区分で考えられることが多いと思いますが、実際は両者にそんな違いはないのでは、と自分の実感として感じています。世界の人は大概英語を話す。もちろん会話のレベルに高低はあるでしょうが、「自分は英語ができない」というのは、日本人特有の思い入れではないかな、と。今、Airtrippは中東やアジアで受け入れられつつありますが、今後サービスエリアさらにを拡大していくにしても、今のAirtrippと地続きでやっていけるという手応えはあります。
グローバルに戦うための武器
ー国際的に受け入れられるビジネスを作り出すためには、どんな組織であるべきだと思いますか。
和田:我々も、今まさにトライアンドエラーの最中です。それに対して明確な解は持っていませんが…。阿部さんはどう?
阿部:チームビルディングの重要性は感じますね。日本人がサービスを考えるとどうしても日本的なサービスになる。そうではなく、やはり海外の人材がチームにいるというのが大事ですよね。今、社内に外国籍のスタッフがいますし、海外のフリーランサーもリモートで参画してくれている。こうしたダイバーシティがあるチームが必要だと思います。
ービジネスをグロースさせるには、チームビルディングもさることながら、安定した経営基盤も必要なのでは?
和田:今は売り上げよりもサービスの充実が最重要課題。ユーザーに愛されることがなによりも重要です。リターンを考えることはもちろん疎かにはしませんが、”Think big”を大事にしないといけない。
ーインキュベイトファンドのサポートをどのように感じていますか。
阿部:いい意味で、組織的でない。まるで4人の個人投資家の集まりです(笑)。しかし、それゆえにパーソナリティがあるサポートを提供してくれています。和田さんにはよく、「時間も金もROI(投資対効果)を大事にしろ」と言われます。そして、「三ヶ月後に何を残すのか、を考えろ」とも。
和田:経営者は、いま必要な一手を正確に考え、決断する必要があります。私たちにできるのは、その決断をするための状況を整備するし、その判断のスキルを私から盗んでほしいですね。
新しい世界を作る。だから彼らは奇兵隊なのだ
ー奇兵隊のビジネスを通じて、どんなインパクトを世界に与えたいと思いますか。
阿部:いまだに世界には国境があります。しかし、スマホやWEBサービスにはそんな”境”を飛び越える力がある。知らない土地に行けば誰だって価値観を揺さぶられるし、友達を作れるはずです。”関係性”には全く境界がない。例えば、日韓関係は良好とは言えませんが、社内の人間がAirtrippで韓国の人とコミュニケーションしていて、双方は友好関係を築ける。これってコミュニケーションがあれば当たり前のことじゃないですか。でも物理的な距離や境界が、こうした友好関係を阻んでいる。WEBで、コミュニケーションが広がっていく世界を当たり前にしたいんです。
和田:誰もが新しい世界を見ることができるようにしたいと思っています。私の歳から世界一周する、となったらやはり難しい。でもサービスを通して、それが体験をできるような世界を作りたいですね。
ー「新しい世界を見る」というのが、和田さんにとっての基本的なビジョンなのでしょうか。
和田:そうですね。物理的なものだけでなく、ビジネスを通して新しい何かを提案できるということに価値があると思っている。
ーまずはビジョンから出発すると?
和田:ソロバンをはじくことから始まるビジネスももちろんあります。しかし、まずはビジョンがありきだと思っています。ビジョンに自分と他者が共鳴できるか否かで、ビジネスのストーリーは大きく違いますし、ジョインする人間も変わってくる。奇兵隊とは幕末に高杉晋作が組織した、世を良くしたいという志を共にした人たちの集団の名です。ですから、奇兵隊という社名は、変革を越したいと本気で思える人間の集まり、というニュアンスでつけています。変革を本気で成す人間の集まりにしたいと思っています。
ーその隊長として、阿部氏はまさに適任だったと。
和田:そうですね。
阿部:いまだに銀行で社名を呼ばれると、ちょっと恥ずかしいですけどね(笑)。