※編集部注:この記事は「Paul McInerney & Associates」ブログからの転載です。
転載元:起業・投資対象として日本が注目されるべき理由
皆様こんにちは!インキュベイトファンド アソシエイトの宮原です。
スタートアップによって急成長を遂げている国といえば、どこを思い浮かべるでしょうか。アメリカ、中国、イギリス、インド、ブラジルでは数兆円規模を超えるスタートアップが台頭し、最近ではインドネシアや韓国でもGoTo、Blibli、Coupangなどのスタートアップが脚光を浴びています。
これらの地域と比較すると、日本は一見伸び悩んでいるようにも見えます。かつて製造業で世界を牽引してきた日本ですが、テックにおいて世界的な影響力を持つ有力プレイヤーを輩出することは未だできていません。しかし、日本には今後の成長に向けた様々なポテンシャルがあり、それに海外の起業家や投資家が気づいていないという現状もあるのではないかと感じています。
今こそ起業・投資対象として日本が注目されるべきです。
その6つの理由をご紹介できればと思います。
#1 日本は、技術主導で労働と資本の生産性を向上させる高いポテンシャルを持つ
日本が対処すべき社会的課題は山積しています。
まず人口減少により、ほぼすべての産業で慢性的な労働力不足に陥っています。2030年には15~64歳の人口が9.8%減少し、野村総合研究所の試算では、全労働力の15%にあたる1,047万人の労働力が不足するとされています。そのため労働生産性の向上が重要な課題となっていますが、日本は50年連続でG7中最下位であり、雇用者1人当たりのGDPは2021年時点で米国の約半分となっています。また、2021年時点のROEは米国の約3倍の差があり、資本効率にはまだ大きな改善の余地があります。
さらに、日本は2030年には2013年比でCO2排出量をほぼ半減させることを目指していますが、それを可能にする新しいビジネスモデルや技術を考案しなければ野心的な目標は達成できない状況です。
一方でポジティブな材料として、このような課題解決に直接繋がるような分野には、世界規模で膨大なベンチャー資金が流入しています。スタートアップの成功には様々な要因が絡みますが、SaaS、eコマース、脱炭素などの分野でソリューションを構築している企業は、これらの課題が最も顕著でイノベーションへのニーズが高い日本において、特に大きなインパクトを及ぼすことが期待できます。
#2 最もポテンシャルの高い分野への投資の余地は大幅に存在
以下は、日本と欧米の各分野の投資額の比較*です。投資額をGDPで割った倍率を比較することで、各地域の経済規模ベースで調整しています。日本はDXに繋がる各分野において、投資余地が大幅に存在することがわかります。
#3 変革への意欲と技術者不足という強力な組み合わせにより、AIとアウトソーシングによる技術ソリューションへの高いニーズが顕在化している
日本ではDXが急務であるにもかかわらず、必要なペースや規模で進んでいないのが現状です。マッキンゼーの調査によれば、日本の経営層は、DXが次の有望な機会であることを理解している一方で、それを推進するための準備が組織内で十分に整っているとは感じていないとの結果があります。日米の情報通信技術への投資額の差が拡大していることも、経営層の意識のギャップを示しています。
さらに、日本の労働人口に占めるデジタル人材の割合は米国の3分の1に過ぎません。このうち、社内にいるデジタル人材は30%未満であり、組織レベルでのデジタルの推進・導入には大きなハンデとなっています。また、日本企業は既存の社内ITシステムに依存し続ける傾向があり、パブリッククラウドコストとITコスト全体の比率は、米国の3分の1にとどまっています。
上記を踏まえると、必要な変革を行う上でグローバルな視点を持つプロフェッショナルが重要なリソースとなりますが、米国のMBA卒業生が減少していることは決して好ましい傾向ではなく、日本が海外の人材を獲得する必要性があることを浮き彫りにしています。
#4 日本は世界第2位のSaaS市場であり、まだ成長余地がある
海外ではあまり知られていないことですが、日本は世界第2位のSaaS市場であり、その差は広がりつつありますがITコストの総額は国単位では米国に次いで第2位です。
こちらのUB Venturesの記事では、日本のSaaS業界の現状分析が書かれています。特に、日本のSaaS市場は市場全体の0.4%に過ぎないのに対し、米国は4%となっており、国内のSaaS業界はまだ成長余地があることがわかります。
#5 最近の市場低迷にもかかわらず、日本のVCによる投資意欲は堅調であり勢いを増している
米国を中心とした足元のハイテク株の下落や度重なるレイオフを受け、スタートアップへの投資や起業はしばらく控えるべきという印象を受けそうですが、日本ではむしろ勢いが増しています。
米国では上半期のスタートアップの調達額が前年同期比で減少していますが、日本では過去最高を記録する勢いです。レイターステージのスタートアップがIPOを延期し代わりに投資家から多額の資金を調達したことも一因ですが、日本のVCが多額のドライパウダーを保有し積極的に投資機会を探していることや、シード~アーリーステージの投資家が公開市場の動きに左右されず投資し続けていることも要因となっています。
#6 日本政府は、スタートアップエコシステムの強化に力を注いでいるとともに、海外からの創業者を受け入れる環境整備を進めている
ここまで、日本には差し迫った社会的課題を解決するためのスタートアップへの切実なニーズがあり、成長余地のある市場規模とそれを支えるVCの投資意欲が存在することを見てきました。では、スタートアップに対する一般的な政治的、社会的姿勢はどうなのでしょうか?
ご存知の通り、日本政府は岸田首相の「新資本主義」の一環として、日本のスタートアップ・エコシステムを活性化させることを発表しています。
その中にはスタートアップからの政府調達の促進や、経営者の個人保証を見直す取り組みなどが含まれる予定です。
自治体レベルでは、よりインクルーシブなスタートアップ・エコシステムを推進する動きがあります。最も注目すべきは渋谷区がスタートアップ(国内外問わず)の誘致を目的にスタートした「SHIBUYA STARTUP SUPPORT」の取り組みです。このプログラムの一環として、渋谷区は海外のスタートアップに対して、「スタートアップビザ」の申請、オフィスや住居の確保、オープンイノベーションを推進する渋谷区の取り組みと連携したPoCの実施機会など、様々な支援を提供しています。
上記の例に見られるスタートアップに関する取り組みは、様々なバックグラウンドを持つ人が日本で起業し、事業を拡大させるためにより協力的な環境を整備する上で、有望な一歩と言えるでしょう。