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2022/12/6

「AIで会計監査を効率的に」ジーニアルテクノロジー代表・阿部川氏とIFパートナー・マクナーニが実現したい「会計士が人間的な業務に集中できる未来」- 8 Answers Vol.11 Aki Abekawa

執筆者:

Zero to Impact編集部

既存の経済・社会の仕組みやルールでは達成できない「インパクト」を創出すべく、課題解決に挑む挑戦者と、彼らに伴走し続けるベンチャーキャピタリストの対談をお届けする「8 Answers」。起業家が社会に残そうとしている価値や情熱を伝えるシリーズだ。

今回は、株式会社ジーニアルテクノロジーの代表取締役の阿部川明優(あべかわ・あきまさ)氏が登場。同社はリスクとコストを削減するクラウドAI監査ソフトウェア「ジーニアルAI」 を開発し、四大監査法人 (Big 4) のふたつと実証実験を行った。

代表の阿部川氏は、大学在学中に監査法人へ入所。税務コンサルティング会社を経て、MBAを取得するために米国カーネギーメロン大学へ留学。MBAプログラム在学中の2017年、監査法人で感じていた会計監査の煩雑さをAIで解決するために、シリコンバレーで起業した。その後、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、拠点を日本へ移している。起業のきっかけや監査現場が抱える「証憑突合(しょうひょうとつごう)」の課題について、彼と伴走を続けるインキュベイトファンド代表パートナーのポール・マクナーニと共に紐解いていく。

【プロフィール】

株式会社ジーニアルテクノロジー代表取締役 阿部川明優氏
慶應義塾大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格し、PwCあらた有限責任監査法人にて会計監査やIT監査、会計アドバイザリー業務などに従事する。税務コンサルティング会社勤務を経て、米国カーネギーメロン大学へ留学。同MBAプログラム在学中の2017年3月にシリコンバレーでGenial Technology, Inc.を創業し、Founder and CEOに就任。日本へ開発拠点を移すにあたり、2019年7月に株式会社ジーニアルテクノロジーを設立。

インキュベイトファンド代表パートナー ポール・マクナーニ
1997 年にリクルートに⼊社し、デジタル事業の⽴ち上げとネット系企業のベンチャー投資 を主幹。リクルート在籍時にメディオポート(オンラインゴルフ予約)の⽴ち上げに参画し、2002 年に楽天に事業を売却。
2002 年にリクルートからマッキンゼーに転職し、2007 年にパートナーに昇格し、2014年にシニアパートナー。アジア太平洋のマーケティング&セールスグループの責任者、アジア太平洋のアナリティクスグループの責任者、QuantumBlack Japan のマネージングパートナー、アジア太平洋の消費財・⼩売グループの責任者を歴任。
マッキンゼーにおいて⼩売、消費財、メディア、通信、⾦融、製薬の各業界の顧客に対して成⻑戦略やデジタル・AI、ブランディング、マーケティング、M&A の各領域における戦略と事業⽴ち上げの⽀援を実施。2021年3月より、インキュベイトファンド代表パートナー就任。

市場の大きいアメリカで、MBAプログラム在学中に起業

――まずは、自己紹介をお願いできますでしょうか。

阿部川:慶応義塾大学4年生のときにPwCあらた有限責任監査法人に入所し、会計監査やIT監査、会計アドバイザリー業務などを5年半ほど担当しました。その後、税務コンサルティング会社へ転職した後、MBAを取得するために2015年から2年間、アメリカのカーネギーメロン大学へ留学しました。MBAプログラム在学中の2017年に、市場の大きいアメリカでGenial Technology, Inc.を創業しました。

2019年には開発拠点を日本へ移し、株式会社ジーニアルテクノロジーを設立しました。開発しているのは、AIを活用して会計監査を効率化するサービス「GenialAI(ジーニアルAI)」で、現在は大手監査法人とともに実証実験を行い、実用化を目指しています。

――次に、ポールさんの自己紹介をお願いします。

マクナーニ:インキュベイトファンドで代表パートナーを務めているポール・マクナーニです。私は大学卒業後にリクルートへ入社し、マッキンゼーを経て、2021年3月からインキュベイトファンドに参画しています。

――ありがとうございます。阿部川さんは監査法人、MBA留学、アメリカで起業、とさまざまなバックグラウンドを持っていますが、もともと起業に興味があったのでしょうか。

阿部川:起業家になりたい、という思いは昔からありました。中高生のときにIT創成期を迎え、マイクロソフトのビル・ゲイツに憧れを抱きました。また、日本でも楽天やライブドアが急成長しているのを目の当たりにしており、このころから起業自体に興味を持ち始めました。

――早い段階から起業を考えていたんですね。そんな中、新卒で監査法人の道を選んだのはなぜでしょうか。

阿部川:大学生のときに、「将来、起業すること」と「そのために海外でMBAを取得すること」は決めていましたが、どのような事業で起業するかは決めかねていました。そこで、起業したときに役に立つことを経験したいと考え、監査法人の道を選びました。

――実際に起業したのはいつ頃ですか。

阿部川:カーネギーメロン大学のMBAプログラム在学中に起業しました。コンピュータサイエンスを学ぶ中で、監査法人で働いていたときに課題だった「単純だけれど膨大な証憑突合の業務」をAIで効率化できるのでは、とひらめいたことがきっかけです。市場の大きいところで起業したいと考えていたので、日本ではなくアメリカ・シリコンバレーを拠点に構えました。

コロナ禍で拠点をアメリカから日本に ピッチイベントでインキュベイトファンドと出合う

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――2019年から日本に拠点を移したのはなぜでしょうか。

阿部川:最初はアメリカを中心にサービスを展開する予定で、プロダクトのインターフェースも英語版だけでした。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、営業活動がうまくできませんでした。そこで、拠点の軸を日本に舵を切り替え、2021年11月には日本語版のインターフェースの開発をスタートしました。

――ポールさんと阿部川さんが出会ったのは、日本へ拠点を移したあとですよね。

マクナーニ:2022年にインキュベイトファンドが毎月主催しているピッチイベントサーキットミーティングに参加していただいたのが最初の出会いでしたよね。ピッチ終了後、僕から連絡させていただきました。

会計監査は正直、自分になじみがなかったのですぐにピンとは来なかったのですが、質疑応答のときの阿部川さんが印象的だったんですよね。質問の後に毎回ラグがあって、「聞こえていないのかな」と思ったら、的確かつ丁寧に返答をしていたので、きっと思慮深い人なんだろうと思い、記憶に残りました。

その後、ブログを読んだり直接話をしたりする中で、創業から約5年間、会計業界が抱える証憑突合の課題を解決するためのサービス開発を続けている愚直な姿勢に感銘を受けました。弊社では毎週、投資委員会で会議をしているのですが、他のパートナー陣からも、当初から「いいビジョンを持った会社だ」と太鼓判でした。

――「ジーニアルAI」は、証憑突合を自動化する自己学習型の監査ツールとのことですが、改めてどのようなサービスか改めて教えていただけますでしょうか。

阿部川:そもそも会計監査というのは、企業の会計書類に問題がないかをチェックする作業のことを指します。その中の監査手続のひとつが「証憑突合」です。一般的に、なかなか聞きなれない言葉ですよね。簡単に言うと、取引データの照合作業です。証憑に記載されている内容を会計基準に照らして正しく記帳されているのかを会計士が手作業で確かめます。

この「証憑突合」はかなり時間のかかる作業で、会計監査のうちの約半分をこの作業が占めると言われています。その上、目視の業務でミスも発生しやすいので、集中力も求められます。大手企業の中には、会計監査にかかる約2万時間のうち約1万時間を証憑突合に費やしているところもあります。

私もこの業務を担当していたことがありますが、全然面白くない作業でした(笑)。証憑突合に嫌気をさして会社を去る人も少なくありません。そこで開発したのが、証憑突合をAIで自動化したRPAツール「ジーニアルAI」です。「ジーニアルAI」は、会計記録の根拠となる注文書や納品書、請求書などの書類をAI-OCRで読みとり、売上等のデータと自動的に突き合わせて検証するサービスです。

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(画像提供:株式会社ジーニアルテクノロジー)

マクナーニ:証憑突合に膨大な時間がかかってしまうのは、世界共通の課題ですよね。加えて、阿部川さん自身に実務経験があるので、世界で戦える日本発のSaaSプロダクトになるだろうと期待し、投資するに至りました。

――すでに四大監査法人 (Big 4) のふたつと実証実験を行ったとのことですが、監査法人の反応はいかがですか。

阿部川:会計監査の業務は規約やセキュリティの面でハードルが高いため、競合サービスがあまりありません。その中で、「ジーニアルAI」は代表の私が実務経験者だという点に加えて、約5年かけて開発している点で、かなり信頼してもらっていると感じています。

実際に、実証実験に参加した監査法人からは、長文だったり具体的だったりするフィードバックが多く集まっており、「ジーニアルAI」への期待の高さを感じました。

会計監査の知見とIT技術の両方を兼ね備えている

――次に、会社の雰囲気や社風について教えてください。阿部川さんが考えるジーニアルテクノロジーの強みは何でしょうか。

阿部川:会計監査とIT技術、どちらも強いメンバーがいることです。例えば、僕以外にも会計監査の実務経験があるメンバーがいますし、技術力に関しては、文書項目の自動認識技術で特許を取得しています。会計監査だけなら監査法人が、技術力だけならシステム会社が特化していますが、両方の能力を兼ね備えている企業は珍しいのではと思います。

――組織やサービスを拡大させていく上で、阿部川さんが大切にしていることを教えてください。

阿部川:「情報の透明性」と「情報セキュリティの遵守」です。情報の透明性に関しては、コミュニケーションをできるだけ密にとり、社内の情報収集の壁を取っ払うようにしています。入社したばかりの人や新卒の社員でも、財務状況やサービスの開発状況といった経営のコア情報にアクセスできるようにしています。

一方で、お客様の機密情報を守るために、情報セキュリティの対策に力を入れていれています。その根拠として、弊社は、ISO27001(Information Security Management Systems)の認証を受けています。監査法人の厳重なセキュリティチェックをパスして、実証実験に協力していただいている点からも、情報セキュリティへの意識の高さは理解していただけるのではないでしょうか。

マクナーニ:僕から見ても、会社の雰囲気はすごくいいですよね。ジーニアルテクノロジーのボードメンバーとインキュベイトファンドとで毎週会議をしているのですが、阿部川さんはご自身の意見を言ったあと、いつもほかのメンバーの意見を仰いでいるんです。意見が合致すれば方向性を決め、もしそうでなければ再考するなどの意思決定をしていて、フラットなコミュニケーションを取る組織なんだと感じました。でも普段、出勤して対面でコミュニケーションを取っているわけではないんですよね。

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阿部川:僕たちは完全フルリモート勤務です。神奈川県平塚市にオフィスはあるのですが、3人くらいしか座れないほど狭いので、利用するのは2週間に1度、コーポレート担当者が郵便物を取りに行くくらいですね。実は、CTOとは採用媒体でスカウトして入社してもらったのですが、今年の10月まで、僕を含めメンバーの誰一人として、彼と直接会ったことがなかったんです。

マクナーニ:阿部川さんの丁寧で謙虚な姿勢や考え方が社内に普及しているから、オンラインでも適切なコミュニケーションが取れているのだと思います。

――ありがとうございます。最後に阿部川さんが10年後、20年後、ジーニアルテクノロジーをどのような企業にしたいのかを教えてください

阿部川:第一に、従業員を大切にする企業でありたいです。そのために今後、組織が大きくなったらコミュニケーションを仕組み化し、離職率が5%以下の組織を目指しています。

サービスに関しては、会計監査の煩雑な業務は将来、AIが処理できる未来になると思うので、業界の流れにあわせてアップデートしていきたいです。そして、AIで業務が簡略化された分、監査担当者が人間的な業務に集中できるようサポートしていきたいです。

 

< 株式会社ジーニアルテクノロジー>
代表者名:阿部川 明優
会社URL:https://www.genialtech.io/ja/
募集中ポジション:https://www.genialtech.io/ja/careers

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Zero to Impact編集部

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VCが運営するスタートアップ・VC業界の情報発信マガジン「Zero to Impact」を運営しています。起業家の魅力や、スタートアップへのお役立ち情報を発信します。ベンチャーキャピタル「インキュベイトファンド」が運営。

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