インキュベイトファンド(以下、IF)では、「ゼロイチ期のスタートアップへの投資・育成ができるジェネラル・パートナーを日本で増やしたい」という思いの元、ベンチャーキャピタル業界としては初めて、独立を前提とした新卒採用を行っている。2021年に入社した4名の新卒1期生を皮切りに、2022年には5名の2期生が、そして2023年には4名の3期生が入社した。少しずつ「新卒でベンチャーキャピタルに入社する」という選択肢が浸透してきたものの、その実態については明らかになっていない部分が多い。
そこで、本シリーズではIFに新卒入社後、事業開発アナリストとして業務に従事するメンバーに入社の思いや業務内容について聞いた。第二弾は、慶應義塾大学法学部出身の溝口のインタビューだ。
【プロフィール】
溝口 然(みぞぐち・ぜん)
熊本県人吉市出身。2016年に高校生向け進学支援事業を立ち上げ、翌17年に法人化、給付型奨学金の設立やプログラムの企画運営に取り組む。2021年よりインキュベイトファンドに参画。事業開発アナリストとして新規投資先の発掘に従事。
慶應義塾大学法学部卒。
ローテーションの中で見えた"一人の人生と思いっきり向き合う”という共通項
――今回のインタビューは、新卒採用でVCを志したり、インキュベイトファンドに興味をもっていただけた人に、届けられたらと思います。
溝口さんは新卒で入社して3年目ですが、最近、新卒採用について学生によく聞かれることや、学生側のニーズをどう感じていますか。
溝口:よく言われるのは「新卒で入社して、出来ることはあるんですか」という声。これはとても多いですね。
――新卒でVCは難しいのではという不安はありますよね。その意味でも、溝口さんが新卒入社をしてから3年間を振り返れたらと思います。入社後2年間はソーシングをやってきて、3年目はローテーション上半期は「LPリレーション」と「リーガル」、下半期は「PR」、そして通年で「HR」バックオフィスを担当してもらっています。この3年間は自分にとって、どういう意味があったと感じていますか。
溝口:1年目はともかく無我夢中という感覚です。
初めて経験することばかりで分からなくても当然なので、数を含め、目の前のことを全力でやっていこうと必死でした。とにかく型を習い、素振りを繰り返すような感覚で取り組みました。それが半年、1年と経つと、ある程度のことは「こうやればいいんだな」と掴める部分が増えてきて。2年目以降は、それをより質を上げていく感覚に近かったように感じています。動き方も分かってきた感触はありましたので、今度は自分なりに仮説を立てて事業を探しにいく、というやり方を、より強められたかなと思っています。
――特に印象が深いソーシング先や起業家はいますか。
溝口:2年目に出合ったエンタメ関連の会社がありました。コンテンツで世界に出ているようなアプローチはもっとないかな、ということで狙いを定めました。業界に詳しい方にインタビューをしたり、紹介してもらったり、SNSを活用しながらひたすら探したり。それでたどり着いたんです。
エンタメ系に興味をもった理由として、日本から世界に打って出れるもので、コンテンツビジネスに可能性を感じていました。いろんな変化が起こりやすいだろうと。とはいえ、先の展開が見えていたわけではなく、現時点でコンテンツを作って売っている・発信している事業という角度で探しました。
――一方で起業家側は、自己資金でうまくやれている部分もあり、これからVCと連携して大きく飛躍を目指すかどうか、迷っているところだったようですね。
溝口:そうなんです。出会った当初は、具体的に資金調達に動いているわけではありませんでしたが、起業家のビジョンや事業の可能性について、かなり悩んでおられたので、私も丁寧にお話を聞き、コミュニケーションを積み重ねていくうちに、「よし、思い切ってやっていきましょう」と方向性が一致し、今では一緒に挑戦するような、関係性を築くことができています。このことは、深く心に残ってますし、達成感がある出来事でした。2年目は、このような投資に至った会社が何社もあって、今も一緒に大きなチャレンジをさせてもらっています。
――そして3年目の現在は、ローテーション制度*でミドル・バックオフィス業務を経験してもらっています。
溝口:働き方は、ガラッと変わりました。一人で動く感覚から、チームで働くことを意識する機会が増えました。ベンチャーキャピタルファンドの奥深さというか、別の側面というか、バックオフィス、ミドルオフィスがあって成り立っていることも痛感しています。今まで見えていなかった部分を学び、視点や考え方を共有しているという感覚が生まれています。
またHRとして転職支援にも携わってきました。中途採用の方の相談に乗ることは、最初はすごく苦労して。一体、自分に何が言えるのだろうという思いは、かなりありました。周囲の力添えもいただきながら、実際に投資先の一人目ポジションへの転職をサポートさせていただくことができて。
支援したことが結果に繋がったので、すごく自信になりました。
*ローテーション制度:インキュベイトファンドが持っている、PR・HR・コミュニティ・リーガル・LPリレーションのそれぞれのセクションを、アナリスト3年目がローテーションでサポートに入り、その業務内容について理解する制度。
――転職支援も、起業や資金調達の道筋を一緒にサポートすることも、相手の人生に向き合うという意味で、これまでの2年間の道筋の延長とも言えますね。
溝口:それは本当に感じましたね。相手の人生の目的観に関わり抜くという意味では、転職支援も起業家支援も、本質的な部分では変わらないんだなと。
またHRでうまくいかなかった部分と、1、2年目で経験したソーシングで苦労した部分には、共通していたり、活かせることが多いなと気づきました。「転職だからな」とつい身構えてしまったり、「自分は転職したことないしな」と思ってしまう部分はありましたが、実際には自分も力になれるんだ、ということを「やってみて」発見しました。
結果、VCが一番おもしろい。原体験から「やってみよう」に変わった瞬間
ーー数年前に比べ、いろんなVCが新卒採用を始めていたり、また同世代のキャピタリストも増えていると思います。その中で違いも見えてきているかと思いますが、インキュベイトファンドはどういう人と相性が良いと思いますか。
溝口:まず、独立を目指したいという人は、インキュベイトファンドがいいだろうと思っています。あとは「自分たちから仕掛けていく」というか、「ゼロから起業家と一緒に創っていきたい」というスタイルやマインドセットを持っている人ほど、インキュベイトファンドにフィットすると思いますね。
また私としては「あのGPと働いてみたいな」という感覚が大きくありました。5人のGPそれぞれが強烈な個性をもちながら、ひとつにまとまっている感じがかっこいいなと。皆さん尊敬できる人ばかりです。そして研修も含めて、どのGPからも学ぶ機会があって、豪華な環境だなと思います。
ーーインキュベイトファンドは、よく「個人商店が5個集まっている」と例えられます。そういう強い個の特性を活かしつつ、まとまりになっていることは特徴的ですね。
溝口:「この人から学びたい」と思える人がいることは大事ですよね。
もう一つ、インキュベイトファンド自体も組織が大きくなる過程にある、ということも大きな特色だと感じます。「組織の人員が倍に増えると、こういうことが起こりがちだよね」とか。スタートアップへの支援でも同じような課題が起こりますから、中にいることで経験できたことを、そのままVCとしての自分の糧にできることも、強みですね。
――そうですね。事業が大きくなる過程で新たなプロジェクトやチャンスが生まれ、手をあげればチャンスを掴むこともできる。成長する組織という環境に身を置くことで積める経験も、特筆できることだと思います。
溝口:まさにそういうことをイメージして、入社しました。
――そういえば、溝口さんは新卒の際、当社のプレスリリースを見て、エントリーしていただいたんですよね。VCの存在を知るきっかけや、この業界との出合いはどういったものだったのでしょうか。
溝口:本当に偶然だったのですが、私の地元・熊本の人吉市が、高校生をシリコンバレーに派遣する、ということをやっていました。そこに参加した際、いろんな案内をしてくれたのが現地の起業家やVCの人たちでした。その時はまだ「面白そうな仕事をしている人だな」と思ったくらいだったのですが。
――なかなかできない経験ですね。
溝口:大学時代にはスタートアップでインターンも経験し、投資家の存在も身近に感じました。いざ自分の進路を考える時に、それらの経験から「VCの仕事っておもしろそうだったな」と、ぼんやりと浮かびました。そこから、きちんと調べて、「一度はチャレンジしてみよう」と。
けど当時は、新卒でVCに就くことが一般的ではなくて。懸念していた矢先、たまたまリコメンドされた「おすすめ記事」にインキュベイトファンドが出てきて。そしたら新卒採用があることを知り、エントリーした、という経緯です。
――溝口さんは高校生の頃に、人吉市で町おこしに取り組んでいたんですよね。どのような活動をされていたんでしょうか。
溝口:はい。町おこしやキャリア教育といった活動をしていました。
高校に進学した当時、もっと刺激的な環境にステップアップできるのかと期待していたんですが現実は違って。すこしがっかりしたんですね。
それで、地域や学校の外に出ていこうと思い、東京で全国の高校生が集まるサミットみたいなものに参加していました。その時に受けた刺激から、「こういう環境を地元で作れたら、おもしろそう」と思いました。家と学校の往復になりがちな高校生にとって、世代や地域を超えた交流があれば、今後の選択肢はもっと広がるのではと思い、活動を始めました。
ーー人と人とのつながりの場を作ってきたんですね。
溝口:そうですね。一人一人の行動が変わることで、もっといい生き方ができたり、地域が少しよくなっていく。そんな実感を味わっていました。
ーー人生や地域を豊かにするための手段として、その延長にVCという道を選ばれているような印象を受けます。
溝口:まさに根底には「社会や世の中を良くしたい」という思いが、もちろんあります。手段はそれぞれだと思いますが、新卒当時も今も、私にとってVCという仕事が一番おもしろいと感じているのが率直な思いです。
独立は通過点。目の前の起業家の思いを補完できる存在に
ーー溝口さん自身の今後のビジョンや独立に関する思いをお聞きしたいと思います。
溝口:インキュベイトファンドに入ってから、より独立への気持ちが強くなりました。起業家の方と話していると、やっぱり自分自身も独立したいという思いがふつふつと湧いてきます。また独立している先輩方も多く、皆さんとてもウエルカムだし、生き生きとしていますね。そういう方々との関係がもてることも、ありがたい環境だなと思います。
ーーインキュベイトファンドが独立を推奨しているのも、起業家と同じリスクをいずれ自身でも取る覚悟が、VCとして伴走していく心持ちと重なる部分があるからだと思います。新卒から3年間で業務のローテーションも経験し、ご自身の独立後への解像度も上がったと思うのですが、どうですか。
溝口:中・長期的に独立を見据えた時、ローテーションの良さは当然あります。
また短期的にも、ミドル・バックを経験することで、チームとして取り組めることの幅や広がりにも違いが出ると感じます。
その上で、独立自体が目的というより、通過点だと思っていますので、投資先や目の前の起業家に対して、できることが増えていく感覚が嬉しいですね。
――独立までの時間軸については、どのように考えていますか。
溝口:ゴールへの逆算より、積み上げていった先にあるのではないか、という考え方をしています。その意味でも、インキュベイトファンドで出来ることを、全部やりきりたいと思っています。
個人的なアスピレーションとしては、地方発というか、ローカルな分野のアイデアをもっと広げていきたいと思っています。その土地や産業に結びついたスタートアップを生み出すきっかけを創っていきたい、という思いがあります。ローカルを起点に、それを広げていく「グローカル」という世界観を、もっと押し出していきたいなと考えています。
ーーこういう支援がしたい、というような思いはありますか。
溝口:その人のバックグラウンドとか、原体験みたいなものを活かして、そこに紐づいた取り組みを育んでいくことが、好きだなと感じています。
経験やインサイトを一緒に議論して、どう道筋を引いていけるか。起業家の思いや行動をつむいで、補完していける存在でありたいと思います。
ーーいろんな起業家がおられますが、思いのある人ほど「細部に魂を宿す」ような事業をされていると実感します。
溝口:本当にそう思います。伴走させていただく側として、そういう思いのこもった事業こそ支援をしていきたいと思います。
ーー今日は新卒VCとしての奮闘や思いを、ありのままに伺いました。今後の活躍を期待しています。
溝口:VCという仕事に対して、少しでもイメージが湧いてもらえたら幸いです。ぜひ思い切って挑戦してくれる人が増えれば嬉しいですね。
インキュベイトファンドでは、25卒の新卒採用を実施しています!
インキュベイトファンドでは、次世代のイノベーションの創出に取り組める人材の育成に向けて、「ベンチャーキャピタルとして独立」を目指した25卒向け新卒社員の採用を開始したことをお知らせいたします。説明会を実施しておりますので、ご興味のある方はぜひご参加ください。
12/18(月)17:30~19:00/オンライン説明会
「インキュベイトファンド・赤浦が語る新卒採用に懸ける想い」
https://m.incubatefund.com/event/25/event/1218
<オンライン説明会会実施日程>
https://m.incubatefund.com/media/recruitment2025
12/20(水)17:00~18:30
12/26(火)17:00~18:30
12/29(金)16:00~17:30
※各回のエントリー締切は前日12:00まで。
※説明会はオンライン開催となります。
※エントリー後、説明会参加方法について事務局よりご連絡させていただきます。
<新オフィスご招待企画>
12/23(土)【25卒新卒向け】1Day Workshop 『GPとしてVC経営を考える』
12/23(土)【25卒新卒向け】理系院生が語るベンチャーキャピタルの魅力