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2020/07/28

スタートアップ資金調達の基礎 Vol.5 VCへのピッチでは欠かせない!ピッチブックの基礎知識とは?

執筆者:

Zero to Impact編集部

スタートアップを経営する上で避けて通ることのできない資金調達。どんな手段があるのか、あなたは把握できていますか?今回は、起業を考えている方やスタートアップを経営している起業家の方々に向けて、資金調達の基礎知識をお伝えしていきます。
 
※本記事は、インキュベイトファンドが主催する起業家むけ勉強会「Incubate School」の内容を記事化したものです。インキュベイトファンドが主催する勉強会に興味がある方は、ぜひメールマガジンに登録してイベント開催情報を受け取ってください。
 

ピッチブックの基礎(1) ピッチブックとは?

ピッチ ブックとはそもそもどのような物を指すのでしょうか?これを考える上で、まずはピッチとはなにか、を知る必要があります。 ピッチ とは「相手が欲しい情報を伝えるプレゼンテーションの機会」です。この相手というのは状況によって変わり、その相手によって必要なプレゼンテーションも変わります。VCが相手であれば、VCに効果的に伝わるピッチをする必要があります。
 
それを踏まえたうえで、ピッチブックというのは、「ピッチの時に相手が欲しい情報を効果的に伝えるために、視覚的に補足する資料」です。あくまで補足的な位置づけなので、ピッチブックが全てではなくて「起業家が何を語るのか」が一番重要です。しかし、より効果的に伝えるためには、ピッチブックをしっかりと作り込み上手く活用していく必要があります。

 

ピッチブックの基礎(2) ピッチブックの用途

ピッチブックの用途は大きく「営業」「採用」「資金調達」の3つに分けられます。
 
 

ピッチブックの用途①営業

「営業」は、主に自分たちのプロダクトやサービスを売り込んでいく意味合いです。自分達の対象客となりうる企業に対して導入検討をしてもらったり、担当者が社内を説得していく、などの場面でピッチブックは使用されます。
 

ピッチブックの用途②採用

「採用」 においては、採用候補者に対して自分たちの会社がどのような会社で、どういったカルチャーを持っているのか。また、どういうバリューで運営していて、候補者に対してどんな成長機会を提供できるか、を分かりやすく理解してもらうためのツールとなります。また、採用者にダイレクトにピッチブックを提供するだけではなく、採用エージェントの方に対して、自社の情報や魅力について理解度を上げてもらうために提供していくツールとしての位置づけもあります。
 

ピッチブックの用途③資金調達

「資金調達」に関しては、投資を検討してもらう上での参考材料としてピッチブックを使う場合が多いです。その中でも大きく分けて3種類の場面に分類することが出来ます。
 
1つ目は決裁者の投資検討です。起業家の方にとってはもちろん、投資家にとっても時間は有限。起業家と投資家、お互いの時間を有効活用していく上で、自分たちが何をやろうとしているのかを簡単に相手にインプットできるような資料を準備しておくことがこれに当たります。
 
2つ目は担当者(アソシエイト)経由で決裁者(パートナー/GP)への投資検討のエスカレーションをしてもらうパターンです。自分たちの会社の事業内容や会社の魅力を3〜7分で伝えられるような資料を作成していきます。
 
3つ目は投資委員会における討議の材料です。上記のピッチでは活用しないAppendixも含めた形で、投資委員会用の資料として十分なピッチを用意しておくことが必要です。
資金調達の際は、このような 3つのパターンの資料を用意しておくのが非常に重要です。
 

ピッチブックの基礎(3) ステージ別・VCの投資検討ポイント

スタートアップのステージ別で、投資検討にあたって重視しているポイントは異なってきます。今回は「市場」「プロダクト」「 起業家/ チーム」「資本政策」の四つの観点から解説します。シード期とアーリー期では、それぞれのパートで求められていくポイントは異なりますが、アーリー期の場合は、シード期に求められる要素が満たされていることが前提となります。
 
 

ステージ別・VCの投資検討ポイント①「市場」編

シード期

市場の観点からは、解決すべき課題が何なのか?、そしてそこに対する共感、の2点が重要になります。自分がやろうとしてるアイデアやプロダクトをプレゼンした時に、キャピタリストが興味を持ちやすいパターンが2つあります。
 
1つ目は、キャピタリストの「まさにこういうことをやりたかった、や「こういうものが間違いなく必要だよね」という共感がそもそも既に出来上がっている場合です。このような状況は、キャピタリストがそのようなスタートアップを求めていた場合などキャピタリストが日頃から追い求めるテーマと起業家がまさにやろうとしていることがマッチングした場合に生まれやすいです。
 
2つ目は、起業家がキャピタリスト自も思いつかなかったような市場やソリューションを提示して、納得感を呼び起こしていく場合です。シード期においては、こちらが一般的とされています。まだない市場の仮説を立てて、5年後・年後・20年後になにが起こり得るか、という部分を考えていくのがシード期です。 既に存在している市場には競合スタートアップがおり、そこにわざわざシードとして1から戦いを挑むのはハードルが高いということになります。そのような流れも踏まえて、「市場の仮説」と「起業家語る解決すべき課題」がマッチすることが非常に重要で、そこに対しての共感をいかに与えられるかがシードにおける投資検討の大きな要素となります。
 

アーリー期

アーリー期においては、マーケットの存在証明スケーラビリティの2つのポイントがあります。
 
1つ目のポイントは、マーケットの存在証明です。市場が存在しているということを証明できるかどうかが重要になります。証明していくためには、シード期を検証期間だと捉えたうえで、検証するべきポイントをしっかりと定義し、検証できている状態まで持っていく必要があります。「マーケットがとても魅力的だから競合他社が参入してきている」のようなシーンも一つのインディケータとなります。
このように、マーケットが存在していることをある程度見える化して、マーケットが誰かに独占や寡占されていないことを示し、その状況が魅力的であると伝えることが重要になってきます。
 
2つ目のポイントは、スケーラビリティです。その市場において、その会社が実際に目指しているアプローチでソリューションを提供していくことで、どういうポジションを築けるのか。そのポジションを築いた時に売り上げがいくらになるのか。何年後になにを実現するのか。その時の企業価値はどれぐらいで、その企業価値は自分達の意図しているリターンに見合うのか。といったことを説明できる必要があります。こちらの要素は、「この案件は面白いかどうか」に直結する部分であり、判断するうえで大きな裁量を担う部分となります。
 

ステージ別・VCの投資検討ポイント②「プロダクト」編

シード期

プロダクトについて、シード期における重要なポイントは、Problem-Solution FitUI/UXです。
 
1つ目のポイント、Problem-Solution Fitは、存在する課題に対して、解決する方法として自分たちが作ろうとして いるプロダクトやサービスが本当にマッチしているのか、の部分を検証していく必要性を指します。検証し ていく上で、シードでVCから資金調達をする前に、起業家が自己資金でスモールに検証してソリューションが有効であることを小さく証明するのか。市場の魅力やプロダクトによる市場の開拓性についての仮説を精度高く構築し、共感を得るのか。そのどちらともを実行するのか、などしっかりと考える必要性があります。
 
2つ目のポイント、UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)は、ソリューションを実現するためのプロダクトとしてこれが適切なのかどうか、を判断するうえで重要になる指標です。ソリューションをどれだけ魅力的に伝えられたとしても、実際のプロダクトをデモとして見せたときに、UI/UXがあまりいけていないと(10年前みたいなプロダクトだったら)少し違うかも…あまりわくわくしないかも…といった評価を受けてしまうことがあります。Must-haveである、という共感を得られるように洗練しましょう。プロダクトをまだ開発している途中だったとし 
 

アーリー期

アーリー期においては、Problem-Market Fitトラクションが重要なポイントとなってきます。
 
1つ目のProblem-Market Fitを達成した、と言える条件は大きく分けて2つあります。1つは、自分たちが対象としている顧客が、このプロダクトをMust-haveだと思ってくれていることを証明できるかです。もう1つは、確実にビジネスモデルとして成り立っていることの証明ができるかどうか、つまりエコノミクスの証明ができるかです。顧客の獲得コストとそこに紐づいた売上や利益が、未来永劫還元され続けるかどうかをしっかり検証する必要があります。この2つの条件をクリアして初めて、Problem-Market Fitと呼ぶことができます。この部分は、VCが特に重要視するポイントでもあります。
 
2つ目のトラクションも同じく重要視されます。シード期に関しては、トラクションがない状態でProblem-Solution Fitを説明するわけですが、アーリー期においては、シードの検証結果としてどのくらいの規模感まで成長をして、どのくらいの規模感でシリーズの投資を獲得したいのか、また自分たちが求める水準まで事業を成長させられているか、のような部分が非常に重要な論点となります。サービスや市場によってこの水準は変わるので、自分たちの目指す目標をしっかりとたて、そこに向けて着実に成長させていくことが大切になります。
 

ステージ別・VCの投資検討ポイント③「起業家/チーム」編

シード期

シード期において起業家に求められるものは、コミットメント起業家との相性共同創業者を口説く力、の3つとなります。
 
1つ目はコミットメントです。
色んな課題がある中で、課題を解決する方法は起業である必要はないです。例えば既存で解決する手段があるのであれば、そのスタートアップにジョインすることもできます。その中でなぜ自分が起業をするのか、課題解決の手段として起業を選んだ思惑はなにか、といった部分に強い思いが求められます。事実スタートアップとして走り始めても、最初から最後まで走り抜ける人はかなり少ないです。絶対に訪れる苦境を投げ出さずに走り続けられる人なのかどうか、本当に腹をくくれているのか、リスクが取れるのかどうか、このような部分が重要視されます。配偶者など家族の理解が得られるかどうか、もよくある事例として挙げられます。起業にフルコミットするとなった際に、自分の家庭環境や生活環境であったり、自己資金をどれだけ出すか、の面であったりを躊躇なく決断できるか、自分の会社の成長を信じて決断できるかが問われます。
 
2つ目は起業家との相性です。
起業家とキャピタリストは、結局は人対人なので、個人として長く一緒に付き合っていけるかどうかは非常に重要です。実際シード期からエグジットまでの期間はかなり長いです。インキュベイトファンドでも、平均すると6年から8年程伴走していくことが多いです。人としての波長であったり、コミュニケーションの取りやすさなどが重要視されます。加えて、キャピタリストの関わり方はハンズオンのスタイルか、ハンズオフのスタイルか、どのくらいの頻度でコミュニケーションを求められるのか、のような起業家とキャピタリストが相互で補完できるような関係性が求められます。
 
3つ目は共同創業者を口説く力です。
1人で創業することはできないので、実際に誰がその起業家のビジョンに共感して、誰を口説けるのかのリストを作っておくことが理想です。アドバイザーとしての参画なのかフルタイムでの参画なのか、といった部分まで詳細に把握できているかどうかが重要視されます。もし必要なメンバーがいないのであれば、どうすれば将来的に獲得できるのかを見える化しておくことが大事です。
 

アーリー期

アーリー期になると、コアチームの組成状況がポイントとなります。つまり、チームとしての骨組みが見えてくる段階まで、成長している必要があります。具体的には、マーケティングチームやセールスチーム、プロダクトチームができているか、などが挙げられます。チームがちゃんと構築されているか、それぞれのチームに対して、ヘッドのような存在が少なくとも一人ずつは参画できているかが問われます。
 

ステージ別・VCの投資検討ポイント④「資本政策」編

シード期

シード期においては、シードVCの物差しが重要なポイントです。
資金調達の目線として、資本政策に関してはVC独自の物差しがあります。VC各社でかなりの違いがあり、ターゲットレンジ、ターゲットバリエーション、投資金額レンジ、などが具体的な違いとなります。キャピタリストたちが求めている範囲の中に収まるような投資が実行可能なのかが大切です。シード期のまだ何もない段階で、起業家の経験だったり、プロダクトだったりを踏まえて、物差しに合致するのかどうかを考える必要があります。
  

アーリー期

アーリー期においては、期待リターンからの逆算が投資検討ポイントになります。
シード期の場合は、バリエーションのレンジなどが狭いですが、アーリー期の場合は、幅広くなります。また、そのレンジに関しても各社で大きく異なります。キャピタリストが、スケーラビリティなどとの折り合いをつけて、リターンシミュレーションをしたときに、このディールに参加するべきか否かの部分を判断していくのがこの時期になります。  
 
 

まとめ

・ピッチブックとは、「ピッチの時に相手が欲しい情報を効果的に伝えるために視覚的に補足する資料」で、資金調達の際に重要な役割を果たします。
 
・シード期、アーリー期の起業において、VCの投資検討ポイントは、大きくは「市場」「プロダクト」「起業家/チーム」「資本政策」の4つに分類されます。
 
・シード期の主な投資検討ポイントは、仮説の精度、起業家・チーム、共感である一方、アーリー期の主な投資検討ポイントは、トラクション、エコノミクス、スケーラビリティの適合度です。
 
 

Zero to Impact編集部

寄稿者

VCが運営するスタートアップ・VC業界の情報発信マガジン「Zero to Impact」を運営しています。起業家の魅力や、スタートアップへのお役立ち情報を発信します。ベンチャーキャピタル「インキュベイトファンド」が運営。

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