世界で最も高い実績を誇るベンチャー投資家のランキング『Midas List』で、Sequoia Capitalは、本年度の選出人数最多ベンチャーキャピタルとなりました。そこでインキュベイトファンドでは、「海外VC投資トレンド勉強会」として、リサーチインターン生の手を借りながら、Sequoia Capitalの直近1年間の投資先全96社のリスト及び、その中でもインキュベイトファンドが興味を持った企業数社を題材に勉強会を実施しました。
本記事では、そのリサーチ結果とディスカッションの一部を公開させていただきます。これから起業しようとしている起業家の方のアイデアの叩き台として、また、海外トップVCの投資傾向をリサーチしている方の参考資料として自由にご活用下さい。
Sequoia Capital 企業概要
名称:Sequoia Capital
所在地:アメリカカリフォルニア州
設立:1972年
創業者:Donald T. "Don" Valentine
投資数:1,438社(内リード投資は522社)
Exit数:302社
主な投資先:Apple, Google, Instagram, Airbnb, Oracle, Dropbox, GitHub, PayPal, Uber, Airbnb, DoorDash
メンバー数:137人
概要:ファンド総数は29で、運用額は約190兆円。現在、Sequoia Capitalは、イスラエル、インド、シンガポール、中国、香港などにも拠点を構えている。
今回の分析は、2019年12月1日〜2020年11月 30日の直近1年間で新規投資を行なった計96社を対象に行なったものである。
直近1年間の投資先をリサーチ!
それでは、早速Sequoia Capitalが直近1年間で投資したスタートアップについてみてみましょう。
▼Sequoia Capital 直近1年新規投資先リスト
続きはこちら
上記のリストをまとめると以下の通りになりました。
投資先の3割はSaaS、次いでヘルスケア、ECが上位
投資ジャンルに関しては、SaaSが1位で、HealthTech、E-Commerce、FinTechが続いています。その他にも、RoboticsやEdTech、Security系への投資も積極的に行っています。
7割は設立後5年未満での投資
Sequoia Capitalの直近1年の新規投資先を見ると、設立から4年以上〜5年未満が約20%と最も多く、5年未満は約70%を占めていました。
6社の深堀リサーチを公開
上記の投資先の内、インキュベイトファンドが興味を持った会社についてインターン生がリサーチレポートを作成しました。その資料を題材に実施した勉強会でのコメントと合わせてご紹介させていただきます。
※コメント中の「起業家A」「起業家B」…に関しては、インキュベイトファンドが運営している業界横断勉強会「Blue Field Program」の参加者のコメントになります。
※深堀リサーチに関しては、資料全体の冒頭部分のみ公開させていただきます。資料全体に関しては、そちらを題材に事業アイデアを共に議論し、立ち上げまで走っていける起業家候補の方にお渡ししたいと考えています。起業家あるいは現在起業準備中の方は深堀リサーチ閲覧リクエストフォームよりリクエストをお送りください。
SaaS
ワークフロー自動化ツール「 N8n」
担当:近藤結さん(早稲田大学政治経済学部3年)
勉強会でのやり取り(一部抜粋)
起業家Nさん:競合との価格差が1/10ほどだ。Zapierなどの先行サービスの欠点を無くしつつ、なぜ価格を抑えることが出来たのか。
回答:ノーコードではなく開発者が実際にコードを書いて構築が可能な、複雑ではあるが柔軟性が高い仕様になっている。サービスのターゲットが違うためではないかと考えている。
起業家Jさん:国内の類似サービスは月額3万円で低価格だ。このサービスはエンジニア向けにローコードで提供しており、SaaSのスタートアップだとエンタープライズ向けに展開するところが多いと思うが、この会社の顧客獲得戦略が気になる。
回答:顧客へのコンサルティングの実施や大企業向けのライセンス料の収益化を行なっているという記載があった。
IF和田コメント: GitHubのようにUSだとTech giantがエンジニア界隈のコミュニティアセットを獲得するための大型買収が時々発生するが、日本だとそういった機会が少ない。AiPaaS市場が世界だと1兆円規模ある中、日本だと浸透しづらい業界構造がある。グローバルでみると面白いが、日本のマーケットを見ると立ち上げ方に工夫が必要なテーマにみえる。
Health Tech
アフリカ初の総合ヘルスケアアプリ「 Healthlane」
担当:MSさん(東大法学部3年)
勉強会でのやり取り(一部抜粋)
起業家Iさん:資料の中でも世界でこういったサービスが増えている記載があるが、このサービスでアフリカならではの点はありそうか。
回答:国としての医療提供が十分ではなく需要が高いのと、デジタルネイティブの多さが挙げられる。また、法規制の整備が充分でないためスタートアップが勃興している状態。
IF南出コメント:アフリカのデジタルネイティブ層がファンダメンタル的に伸びているのは間違いないと思う。同時に、プライマリーケアの選択という観点では、未だに情報の交通整備が十分でなく、患者と医療機関の間に情報の非対称性が介在している。デジタルネイティブ向けに遠隔診療をしていくとなると、現地のレギュレーションの動向と提携している医療機関の質と数が肝になってくるため、事業拡大するにもバランス感覚が問われる領域であり、そこのボトルネックについての仮説を深堀りしても面白いと思う。
IF和田コメント:実現すればいいポジションが取れそうなサービス。日本でもこういった医療産業の進化による医療体験の体験向上が実現できるならやってみたいが、アフリカの方が規制が整備させきっていないが故に最初からデジタル前提の設計ができる。日本でもいいやり方があればチャレンジしたい。
遺伝編集を利用した医療技術の開発「 EdiGene」
担当:古川真也さん(中央大学法学部3年)
勉強会でのやり取り(一部抜粋)
起業家Sさん:薬を作って承認まで長い年月がかかるが、現在販売済みで利益も出ているというステータスか。
回答:中国でライセンスを取っているものが幾つがある。創業が2015年でライセンスの申請が最近なので、商品としての販売を始めたのはここ最近という印象。
IF南出:なぜこの疾患にフォーカスしてるのか。
回答:補足資料はこちら
起業家Hさん:ゲノム編集の中でも幾つかフォーカス領域があると思うが、この会社のコア技術は何か。
回答:CAR-T療法・RNA塩基編集に基づくin vivo治療・造血幹細胞とT細胞のex vivoゲノム編集・ハイスループットゲノム編集スクリーニングに特に注力しているようだ。
IF南出コメント:ゲノム編集は成長産業として伸びていく肌感があるものの、技術が社会実装される時間軸とそのトリガーが何かというところは、中国でも日本でも議論すべき余地があると思っている。またプロダクトにエッジを利かせる際に、どの特定疾患に焦点を当てるという観点と、その領域のゲノム編集が何がきっかけとなって一般的に認知または利用可能になってくるのかの仮説が明瞭になると、日本ならではの立ち上げ方が見えてくるのではないかと思われる。
IF和田コメント:注目しているテクノロジートレンドの一つ。どの辺りが技術的な差別化ポイントなのかが気になる。ゲノム編集はプレイヤーの数が多く、多様なチャレンジが出てきている分野だ。英国大手との実例が大きな実績となりシリーズB、Cなどの資金調達に繋がっているのであろう。最終的に目指す社会実装や「中国の医療格差を無くす」の課題解決の前に、大手メガファームにどれだけ入り込みロイヤリティ収入をあげられるかがVCの着目ポイントになっているのではないか。
研究開発型バイオ医薬品企業「Transcenta」
担当:小暮 将さん(クイーンズランド大学理学部3年)
Robotics
機械学習式リサイクルロボットメーカー「AMP Robotics」
担当:上原晶さん(慶應義塾大学商学部3年/上海復旦大学オンライン留学中)
勉強会でのやり取り(一部抜粋)
起業家Hさん:リサイクル業社に納品するにはどのくらいの処理が可能なのかが大事になりそう。何のコア技術がそれを可能にしているのか。
回答:本プロダクトでは毎分160個の速さで処理が可能となっており、競合の倍以上の処理速度を持つ。アームの構造、カメラの精度、AIの処理速度がポイントだと考えている。アーム周りのモーターの処理など、ハード面の部分でも違いがありそう。
IF和田コメント:ロボティクス分野には期待して注目している。仮に日本でやるとすると従来のファクトリーオートメーション型の大企業がやった方が良さそうな気はする。コンピュータービジョンのイノベーションはスタートアップフレンドリーな気がするが、アームの方のテクノロジーとセットで初めてバリューが発揮されるとするとスタートアップでやるにはやりづらそうな領域に見える。スタートアップ っぽさと、従来型のハイブリッドなところがこの会社の特徴であり、いざやろうとすると難しそうに見える。モデル的にはリース型であり、他の領域やセグメントではもっと面白いものが出てきそう。リサイクル業界の中では明確にトラクションが出ているので投資しているのであろう。オーソドックスなことをシンプルにやり切っているエグゼキューション力の高さに強みを感じた。
リアルタイムで非構造化環境に適応するスマートロボット「Agile Robotics」
担当:長谷川大翔さん(一橋大学経済学部2年)
インキュベイトファンドと事業案を構想しませんか?業界横断勉強会の参加者を募集!
いかがでしたでしょうか。
「このビジネスを日本で展開するのだったらこういうやり方があるかも」など、アイデアが湧いた方もいらっしゃるかもしれません。事業案がある方はぜひ業界横断勉強会「Blue Field Program」、あるいはスタートアップとして既に走り出している方には「Circuit Meeting」「Incubate Camp」でお会いできればと思います。
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